プロローグ
「なあなあ薫ー。お前さ、“裏生徒会”って知ってるか?」
「……ラノベかなにかですか?」
ある日の昼休み。
第一志望であった荏杢高校へ入学してから既に二週間。
授業も始まり、徐々に高校生活に慣れ始めた頃。
碓氷薫は目の前でパンを齧る友人、野田攻介の言葉に思わず顔を顰めていた。
「まあそう思うよな〜。オレも最初聞いた時は「どこのラノベだ!?」って思ったよ。でもさ、聞いてみると案外おもしれーの!薫もそういう話好きだよな?」
「うん。それ、七不思議か何かなの?」
「ふっふっふっ……。説明しよう!荏杢高校に存在すると言われる“裏生徒会”とはな……────」
────学校内の問題児達が集まった、「何でもあり」な奇想天外な奴らの事なんだ。
目付きの悪い戦闘狂に、手癖の悪い嘘つき、明るくKYな断罪人。
彼らは人知れず、武器片手に「何か」を狩りとっているらしい。
「うわぁ……」
聞き終えた薫の口から引きつった声が出る。
思った以上に、どこかにありそうなチームである。
「これまたありきたりな……」
「それは思った。まあただの七不思議だし、そこまで深く考えたらつまんねーって!第一、高校生が当たり前の様に武器振り回すとかおっかねぇよ」
「武器によっては、割と簡単に手に入れられるよね」
「怖い事言うなって……。そんな物騒な人達と同じ学校通いたくねぇよ……」
「もう通ってるけどね」
冷静にツッコミを入れ、薫は再び箸を進める。
昼休みの終わりも近づいてきているため、早くお弁当を食べ終えねばならない。
「……薫ってさ〜」
「ん?」
薫と同じようにパンを食べ始めた野田がつまらなそうに口を開く。
「こういった話は好きなくせに、妙に冷めてるよな〜。なんていうの、ロマンチストだけどリアリストみたいな。デートとかで、イルミネーションサプライズやるけど、費用気にして大半は自分で用意しちゃうみたいな。おまけにその事、ムードとか関係なしに彼女の前で喋っちゃうみたいな」
「何か分かるような分からないような例え方するね……」
とはいうものの、野田が言わんとする事は分かる。
確かに薫は「非日常」に憧れている。
科学が充実した世界で、それぐらいの夢を追うのはいいだろう。
だからといって、漫画や小説のような命懸けのアドベンチャーは御免だ。
どこか冷静な自分は、命を危険に晒すリスクを避けたいと思っている。
この考えが、野田の言うリアリストの部分なのだろう。
(我ながら微妙だよな……。でも、本当に実在しているなら僕を巻き込んでくれないかな)
そう都合よく行かない事はわかっている。
チラリと窓の外を一瞥し、薫は最後の一口を食べて弁当箱に蓋をした。