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ある嘘の村 Ⅰ

 シープとウルフは歩きました。

 あれから一日と半日は歩きました。小瓶が思いの外重く、さらに道も悪かったのでとても大変でした。



 頭や服にたくさんの葉っぱや小枝をくっつけて、シープとウルフは村の門へと辿り着きました。

 村は隣国と仲が良いのか、村を囲む門を守る守衛は簡単にシープとウルフを村に入れてくれました。身体検査はされましたが、武器は村内で発砲などしないのなら、所持をしても良いと言われました。


「シープさん、ウルフさん。ようこそ、どうぞ楽しんでください」


「はい」「はあ」


 シープとウルフは疲れています。よって、返事も気の抜けたものになっていました。


「何日ほど滞在しますか?」


 そんな二人に気を悪くした様子もなく、守衛は訊ねます。


「あー……三日から一週間でお願いします」


「はい、了解しました。こちらにお名前を──」


「はい」「はーい」


「はい、ありがとうございました。では、特に名物もないですが楽しんでください。宿はあちらを曲がりまして──」


 さらっと自分の住む村の悪口を言った後、守衛は宿への道を案内してくれました。


「ありがとうございます」「ありがとう」


 守衛にぺこりとお辞儀をして、シープとウルフは宿へ向かいました。途中、パン屋で夕飯を買いました。



 宿は、この村に一軒しかないそうです。宿は、木造のものでした。シープとウルフは後払いということにして、部屋へ行きました。

 出来るだけ出費を抑えたかったので、部屋は真ん中にやっと二人が眠れるくらいのベッドとシャワー室がある、狭いけれど居心地が良さそうです。


「今日は、エミーナさんを探すのはやめましょう」


「同意。今日は寝ようよ」


 二人は、すっかりくたびれた様子で荷物を下ろしていきます。マントも随分と汚れてしまいました。行儀が悪いですが、窓から身を乗り出してマントをバタバタと(はた)きます。


「あー、疲れたー。疲れたー」


 ウルフが首をごきごき鳴らし、床に座り込みます。タオルに包まれていた小瓶を取り出して、並べました。


「重かったー」


「ご苦労様です」


 シープは二人のマントを叩き終わると、壁に備え付けられていたフックに引っかけました。シープはシャワー室を覗くと、お湯がちゃんと出るか、確かめました。そして、ウルフに言います。


「ウルフ。先にシャワーを浴びてきてください」


「遠慮なく」


「脱いだ服はそこらへんに置いといてください。後で洗いましょう」


「了解」


 ウルフは着替えを持つと、シャワー室に入りました。


「ふはぁ……」


 シープはベッドを背もたれとして、床に座りました。大きな欠伸をすると、ぼぅっと宙を見つめました。手足も人形のように投げ出します。


「エミーナさんと、ハルトさん……ですか」


 呟くと、シープは眠そうに目を擦りました。

 数分も経つとウルフはシャワーを浴び終えました。

 シープがかなり時間をかけてシャワーを浴びたあと、二人はパンをもそもそと食べました。

 そして、久し振りにフカフカのベッドに寝転びました。疲れていた二人はすぐに、眠ってしまいました。





 朝日と共に、ウルフとシープは目覚めました。

 昨日の残り少ないパンを食べると、水を貯めた大きな桶を用意しました。

 シープとウルフはバシャバシャと桶に手を突っ込んで各自の衣類を洗っていました。

 シープは濡れた髪を、たまたま誰か忘れた革紐で結っていました。


「エミーナさんのこと誰かに訊いといた方が良いかな」


「そうですね。それと、まず食料が欲しいです」


 残り物のパンだけでは物足りなかったシープが、ウルフに言いました。ウルフはその言葉に、おどけたように舌をだして、


「うへぇ……食料か」


 言いました。

 衣類を洗い終えると、室内にロープを張り、干しました。


「何かは食べておいた方がいいでしょう。それと干し肉など日保ちするものが欲しいです」


「そうだけどさー……。せめて果物ね、それか野菜」


「難しいですね……まぁ、あとで買いに行きましょう」


「はーい」






 数時間後。ウルフとシープは部屋の真ん中に買ってきた食べ物を広げていました。シープはサンドイッチを、ウルフはむしゃむしゃとトマトを齧っていました。シープは美味しそうに食べていますが、ウルフはアーデル村の時とは違い、表情がありません。


「ウルフ……見事に無表情ですね」


「味しないし、こんなもの美味しいとは感じられない」


「……そうですか」


「うん」


 シープとウルフのお腹は満たされました。

 シープは余った干し肉などの食材を日陰のところへ、置いておきました。





「そろそろ行きます?」


「荷物は?」


「そのままで。ああ、一応鞄は持ちましょう」


「はーい」


 ウルフは肩掛け鞄から調理器具やロープなどを全て出し、代わりに小瓶を詰めました。そして、金銭も放り込みます。

 念のため、二人は腰に銃を保持しておきました。シープはさらに、ポーチに手帳を捻り込みます。


「さあ、行きましょうか」


 シープは深緑の、ウルフが紺のマントを羽織りました。





 シープとウルフはまず、人がたくさん集まる喫茶店へ行きました。サーカス団にいた頃、宣伝をするときによく、飲食店を回ったからです。

 案の定、喫茶店にはけっこうな人々がいました。

 二人は取り敢えず席に着くと、紅茶を注文しました。

 シープはミルクと砂糖を少々、ウルフはそのまま飲みました。

 すると、たまたま隣の席に座っていた初老の男が話しかけてきました。興味深げにシープとウルフを見て、にっこりと笑いかけてくれました。シープとウルフも笑顔で会釈します。


「ほお。君たちが昨日来た旅人さんたちかね」


「そうです」「そうでーす」


「若いのに大変だねぇ」


「そうですね」


 シープが言い、次にウルフが思い出したかのように言いました。


「ああ、おじいさん。一つ聞きたいことあるんだけどいい?」


「良いが、わしに答えれるかね」


 老人が、手元のマフィンを一口齧りました。

 ウルフは訊ねました。


「エミーナさん、って誰か知ってる?」




 瞬間、店内は凍りつきました。

 今まで、ほんわかと楽しそうだった雰囲気は全て消え失せ、何やらざわざわと騒がしくなりました。

 シープとウルフはそれに気づき、顔を見合わせると首を傾げました。


 奇妙なざわめきの中から、一人の女性がシープとウルフの前に来ました。榛色の髪が、ふわんと揺れます。


「それは、私がお話いたします」




 その女性は、ミミと名乗りました。



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