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あなたへの手紙

No.1

愛するハルトへ


 あなたがいなくなって、何日たったことでしょう。

 あなたがいなくてとても寂しい。今の季節のように、私の心は冷えているわ。でもそれは、私の責任ね。

ハルト、あなたに謝りたいの。

 あなたが注意したのに、私はその言葉を無視してしまってごめんなさい。

 あなたが突然、村を出ていってしまっても仕方がないことよね。

 お願いだから許してほしい。戻ってきてほしい。


 私はだめね。あなたはいつも前向きに考えるもの。

 下を向いてばかりじゃだめだわ。


 あなたがいなくなってから、父に村からの外出の制限をされたの。

 二月に一度だけ、手紙を川に流すわ。あなたのところまで届くと良いのだけれど。

 あなたがいつ戻ってもいいように、周りに置いていかれないように手紙を書くわ。

 待っていてね。


 

                愛してるわ

                エミーナ





No.2

愛するハルトへ


 二ヶ月ぶりね。

 最近は暖かくなってきたの。

 庭のイチゴの花が蕾をつけたわ。

 次の手紙を送る頃、ジャムが出来上がっていると思うの。

 イチゴのジャムって、すごく美味しいわよね。甘くて、ほんの少し酸っぱくて。

 今からでも楽しみよ。



 皆、あなたは亡くなったと私を説得するけど、信じていないわ。

 あなたは嘘を吐かない人だもの。

 「またね」は「また会おう」という意味でしょう?


 会える日を楽しみにしているわ。



                愛してるわ

                エミーナ





No.3

愛するハルトへ


 ジャムが完成したわ。

 前までお友達に手伝ってもらっていたけど、今回は自分だけで作ってみたの。

 そして、クラッカーにジャムをたっぷり乗せて、村で配ってみたのよ。皆、喜んでくれたわ。

 お砂糖が多かったのかしら。それともイチゴの実が甘かったのかしら。甘くなりすぎたの。

 でも、きっとあなた好みの味よ。

 それにしてもお料理は楽しいわね。あなたと作れたら、もっと楽しいと思うの。

 いつか作りましょう?


 まだまだ書きたいことはたくさんあるのだけれど。

 ……だめね、この紙は小さすぎるわ。

 じゃあ、またね。



                愛してるわ

                エミーナ




No.4

愛するハルトへ


 もうすっかり暑くなったわね。

 ついこの間までは、暑くもなく寒くもない良い気候だったのに。二ヶ月は早いわ。

 この前、書けなかったことを書くわね。

 父に頼んで、私だけの家を貰ったの。窓から川が見える家よ。

 これであなだかいつ帰ってきてもわかるわ。とてもうれしいの。

 小さな庭なのだけれど、

 でも、一つ嫌なことがあったのよ。聞いて。

 父が私に使用人をつけるですって! 使用人って、私の身の回りの世話をする人でしょう。

 せめて女の人だと良いわ。お友達になれるかも知れないもの。

 だけど私はもう、子供じゃないのに。私の側に居て良いのはあなただけなのに。


 ああ。あなたに会いたい。

 



                愛してるわ

                エミーナ





No.5

愛するハルトへ


 近頃は、あの茹だるような暑さが通り過ぎたわね。


 前言っていた使用人に会ったのよ。女の人でミミという名前よ。榛色の髪が可愛いの。

 案の定、私のお友達と仲良くなれたのよ。最近は楽しいわ。

 でもやっぱり、あなたがいないと嫌。胸にぽっかりと穴が空いたみたい。


 あなたに言いたいことがあるの。だけど、今は無理。ごめんなさい。

でも……いいえ。なんでもないわ。


追伸……最近、葉っぱが紅く染まってきたの。川にひらひらと落ちるのが可愛らしいのよ。あなたがいる場所はどうなのかしら?



                愛してるわ

                エミーナ





No.6

愛するハルトへ


 最近は少し肌寒くなったわ。

 木々の葉も、もう少しで散ってしまいそう。散り行く様は少し寂しくなる。

 ねぇ、あなたが去ってから一年が経つわ。

 そろそろ、正直に話そうと思うの。

 あのね、私、あなたの記憶が薄れていくの。

 あなたと過ごした日々は、全て昨日のことのように思い出せるわ。

 繋いだ手の感触も、首もとの小さな花形のほくろも。

 だけど……何故だかわからない。

 あなたの顔が思い出せくなってしまうのかしら。

 とても、怖いの。

 ああ。本当ごめんなさい。


 どうか、あなたの中から私が

 私の中からあなたが消えませんように。



                愛してるわ

                エミーナ




No.7

愛するハルトへ


 こちらは、木々が丸裸よ。寒そう。

 風邪を引いてしまったみたい。

 熱もあるわ。くらくらする。

 あなたは平気?

 だけど、あなたへの手紙を書く体力は湧いてでてくるわ!


 そうそう、この前ね、ミミとお友達と一緒にお鍋パーティーをしたのよ。お友達、あなたは覚えているかしら。金髪が綺麗な子よ。

 お鍋にお魚とお野菜をたくさん入れてぐつぐつ煮たのよ。

 お魚を口に入れて、噛むと熱い汁が口の中に溢れて、とても美味しかったの。

 あなたにも食べさせてあげたかったわ。



                愛してるわ

                エミーナ










No.17

愛するハルトへ


 とても悲しいことがあったの。

 ミミがね、嫁いだの。めでたいことよね。だけど、ミミはこの村からいなくなってしまうの。

 あんなに仲良くしていたのに……。

 ミミはまた会いに来ると、言っていたわ。

 最後の別れというわけではないから、私は笑顔で送り出したわ。

 可愛らしいお花を刺繍したカーディガンとハンカチをあげたのよ。なんと、私が作ったの!


 新しい使用人を入れると父は言ったわ。また、仲良くなれるかしら。


 ねぇ、村の人から今度、お話しを聞くの。私に関わる大切なことなのですって。どうやら父に関することみたい。随分と深刻そうな顔をしてい……なんだか不安だわ。

 あなたに会いたい。



                愛してるわ

                エミーナ






No.18

愛するハルトへ


 ハルト、ハルト、ハルト、ハルト、ハルト!

 なんてこと!私は勘違いしていたの!

 ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい。

 ああ。あなたがこの村を離れたのは、あなたが私の側から居なくなったのは、全てが父の仕業だったなんて!

 そんなことも、知らずに。


 ごめんなさい……ハルト。

 ああ。どこかで幸せにいて。



                愛してるわ

                エミーナ





No.19

愛するハルトへ


 父に思いきって訊ねてみたわ。

 そうしたら、何と言ったと思う?

「村に、あんなやつ必要ない」。

 意味がわからないわ。



                愛してるわ

                エミーナ





No.20

愛するハルトへ


 戻ってきては駄目よ。

 いつまでも、愛してるわ。


 私にそんな権利があるのかしら。



                愛してるわ

                エミーナ





No.21

愛するハルトへ





                愛してるわ

                エミーナ













「ねぇ、シープ。二十二番は?」


「……ここで終わっています。白紙です」


「この人、急にどうしたんだろう。十七枚目までは日常を話してたのに、それから様子がおかしい」


 パチパチと薪がはぜます。炎が燃えて、シープとウルフを照らしました。シープとウルフの周りには、空の小瓶がいくつも転がっていました。

 シープは最後の小瓶の蓋を開け、最後の手紙を取り出しました。


「これも、白紙です」


 ウルフは小瓶の番号ごとに、手紙を戻しました。


「村……。もしかして、ラガットさんが言っていた村かな」


 シープは川の上流に顔を向けました。それから、これらの小瓶が転がっていた川の辺りを見ました。暗くてよくは、見えません。


「手紙……ですよね。ハルトさんには届かなかった」


「教えた方が良いのかな……。どっちが正解なんだろう」


「それに、何で白紙なのでしょう」


「とりあえず、村には行こう。小瓶も持っていこう」


「わかりました」



 シープは二十三本の小瓶を全て、リュックサックに詰めました。割れないようにタオルに包みました。


「そろそろ寝ましょうか」


 夜風が焚き火を揺らしました。


 シープとウルフは落ち葉を敷き詰め、その上にタオルを掛けました。そして、寝転ぶとマントに(くる)まります。


「川に落ちないでね」


「寝相は良い方です。ウルフも落ちないようにしてください」


「おう。死んじゃうしね」


「無駄口叩いてないで、さっさと眠りなさい」



 ごそごそと身動ぎする音が聞こえ、そしてすぐに風に、寝息が運ばれました。




 焚き火の炎が、消えました。

 辺りは闇に包まれます。




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