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エンドレスフール   作者: 和銅修一
9/21

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「ふぇ〜、二人とも酷いじゃないですかボクを置いてくなんて〜。なんか苦労して倒したのがドロドロの偽物だったりその後片付けとかで忙しかったのに〜」

 研究所に戻ると先に待っていた祐が顔を出した。

「お〜う。こりゃあまた可愛子ちゃんが現れたな。あんたがわいの人形壊したのか?」

「うひゃ!バ、バイクが喋ってます。実くんこれはどうなってるんですか?」

「玄馬さんから聞いてないんですか?これが本体のアラルなんですよ」

「アラルがここに来るとは聞かせれてましたけどバイクだとは聞いてなかったんですよ〜」

 どうやら玄馬たちはライダーを迎え入れる準備で忙しく、情報が行き届いていなかったようだ。

「で、でも〜一体ここで何を話すつもりなんですか〜。詳しいことは分かってないんですよね?」

「そんなの本人に聞けばいいんじゃな〜い」

 ここまで来て焦らす必要もないのだから聞きさえすればライダーが教えてくれるはずだ。

「ボクには無理ですよ〜。実くんは仲が良さそうだったからいいけどボクなんて初対面だよ。しかもあのドロドログニャグニャの人形壊しちゃったし……」

 少し涙目の祐たん……。萌えです。

「なんだそんなことだったの〜。でもねあれはライダーの方が俺たちを試す為に出したんだ。壊されることなんて承知してるはずだよ〜」

あちらは何の目的があってかは知らないが手を出すつもりがないらしいし、性格からしてそんなことで怒ることもないだろう。

「ライダーさん、ライダーさん。この人が分身を倒した僕らの仲間ですよ〜。可愛いでしょ」

「ほ〜、こないな娘さんがやったんか。パワフルやったから筋肉質のごっつい兄ちゃんが出て来ると思ってたわ」

 目がどれなのかわからないが興味深そうに祐の体をジロジロと見る。

 それもそのはずだ。自慢の人形がこんな腕の細い少女に倒されてしまったのでは自分を疑ってしまう。

「あ、あの……ボクはですね……」

「ふふん、人を見た目で判断してはいけないんですよ。筋肉もやたらあればいいというものではなく、無駄のないことが大事なんです。そしてその教えを受け継いでいるのがこの柏木 祐たんなのです」

「み、実くん……」

 そうか。やっぱりアラルだからまだ完全には信じきれてないんだね。だからこうして嘘を溜めてもしもの時に備えてるんだ。流石です。教えた甲斐があったというものですよ。

 ちょっと感動……。

「まあ、これはごく少数しか知らないものなんですけどね」

 祐たんの可愛さは男だと知っても変わらないものだけど、一度知ってしまったらそれが頭が離れずにモヤモヤしてしまう。そんな苦痛をライダーさんに味わって欲しくない。それになんか面白いことになりそう。

「ほ〜、なるほどな〜。やっぱわいらが知っとることはごく僅かなことなんか」

 うんうんと前輪を前に倒して頷いた。

「逆に知ってるとかってなんですか?」

「せやな〜、人間とわいらは似とるいうことと言葉なんでか知らんが初めっから頭ん中入っとったんや」

 ならば外国のアラルは英語やドイツ語とかペラペラに話せるということになる。

 そうでなければ嘘をつくことが出来ないので必然的かもしれないが、一体どうしてそうなったか?やはり疑問は残ってしまう。

「そうなんですか。ではこの先にある部屋にいるここの責任者にそういった話を聞かせてあげてください。もちろんボクや実くんたちもそこでライダーさんのお話を聞くことなりますけど大丈夫ですか?」

「ええで、何でも賑やかの方がええしそっの方がわいとしては助かるわ」

「ではこちらへ」




「どうも。この早乙女研究所の責任者である早乙 玄馬です。お会い出来て光栄ですライダーさん」

 部屋で待っていたのはそれだけではなく、仁や咲といった戦闘員が揃っていた。

「いやいや。こっちから頼み込んだことやからそんな堅苦しくせんでええて。それよりもお前さんたちには話があるんや」

「それよりもライダーさん。僕との約束忘れてませんよね?」

「ん?ああ〜。わいの力がどんなのか教えるちんうやつやろ。もちろん覚えてるよ」

 もちろん実は思いつきでこんな時に言ったわけではない。大勢いるところの方が嘘をつきにくいと思ったからだ。

「でもそんな大したもんやないで。ただ黒いもん出してそれを自在に動かせるゆうもんや。人形を作るのだってお手の物やし、こういったこともできるねん」

 急にライダーの体、つまりバイクの中からぐちゅぐちゅと黒いスライムのようなものが出てきてバイクの部品がその各地に散らばって人の形をつくりだした。

「ト、トラ……」

「それ以上は言ってはいけないと思いますのでやめてください。せめて変形ロボットか!というぐらいにしてください」

 口が滑りそうになった実を止めた千景はついでに的確なツッコミをいれてくれた。

「俺からしたらそっちの方がマシだ。バイクと話をするなんてシュールすぎてやってられなくなる」

 壁に寄りかかりながら横目でこちらの様子を伺う仁が変形した姿をみて鼻で笑った。

「ジンジンは素直じゃないわね〜。そんなんだから友達出来ないんだよ〜」

「ズバッと言ってくれるじゃないかおとぼけ野郎。ていうか俺は友達なんて必要ねーんだよ」

「愛と勇気があるから?」

「いないって言ってるだろ!」

 優しくもないし、みんなの夢を守る気などない。

「二人とも余計な話をするな。アラルといえど大事なお客様だぞ」

「ええて。お前さんたちがどんな人なのかも知りたいねん」

「それはこちらもですよ」

 ただ玄馬が言っているのはライダーのことではなくアラルのことだ。

「せやな。ええけどわいの願い叶えてくれたらいくらでも協力したるで」

「本当ですか?それは一体どんな」

 研究ができると目を鋭くした。

「せやな~簡単に言うてまうと手を組めへんかっちゅう~放しなんや」

「手を組む?敵であるあなた方とですか」

 こんなにも友好的なも初めてだがこんな提案をしてきたのも彼が初めてだ。

「方やない。仲間なんておらへんからこれは個人的なお願いや。もちろんこっちの情報は出来るだけ教えたるつもりやがそれは後払い。この研究所の仲間になるっていうことでチャラにしてくれせんか?」

 アラルには三種類ある。人間を殺すことだけを考えているもの、中立な立場でどちらにも属さないもの、人間との共存を考えているもの。

 ライダーは明らかに最後だ。

「あなたの目的はなんですか。そのお願いが何なのかが分からないと答えようがありません」

「おっと、せやな。実は倒して欲しい奴がおんねん。かなりの手練れでそいつの犠牲になったもんは両手では数え切れんほどだ。そして刀を使うことから辻斬りのリブル。次はこの辺にくるらしいで」

 辻斬りなんて江戸時代じゃあるまし。

 だが知識は必要以上のものもあるらしいということが分かったので玄馬はそれだけで満足したが、受けるかどうかに戸惑う。

「リブルか。話だけは聞いている。世界を回りながら味方であろうと人間関係なく殺してるやつがなんでこんな所に」

 日本なんて小さい島国で何もないところなのに何を求めてきているのか……台風のようなやつだ。

「辻斬りのリブルか〜。なんか強そうだけど大丈夫?」

「大丈夫じゃないかもな。かなりの強敵だ」

「何を言う。そんな奴俺一人で十分だ」

「ジンジンは溜めに時間がかかるでしょ〜」

 つまり辻斬りのリブルというのに勝てるのはこの中にはいないということだ。ライダーも頼んできたのだから期待は出来ない。

「しかし、リブルがこちら来るなら無視はできない。幸い相手は一人なんだ。全員でかかれば負けることはない」

 どうしても情報が欲しい玄馬はここで引く気はない。そして最高責任者がこうなのだから下はそれに従うしかない。




「思ったより大変なことになりませたね。よりにもよって辻斬りのリブルと戦う羽目になるなんて……」

 部屋への帰り道。ぶらぶらと歩きながらため息をつく。

「そんなに強いんですか?全員でいけば何とかなるって玄馬さん言ってたじゃないですか」

「気休めに過ぎませんよ。ボクも送られてきたデータを見たので分かりますけど異常でした。仁さんのギミックが発動すれば対抗できると思うんですがね」

 だがそれには嘘を溜める必要がある。その時間を皆で稼ぐとして何人が生き残れるか?

「強いのは分かったけどさ〜。どうしてライダーはその……なんだっけ辻斬り抜刀斎だったけ?」

「辻斬りのリブルですよ。なんですか抜刀斎って」

 神速を超える超神速の抜刀術とか存在しませんから。

「名前はどうでもいいですよ。とにかく強いのは皆の様子とお話でよ〜く分かりました」

 部屋の方向とはまるで違う方へと進み始めた。

「ちょ、ちょっとどこ行くつもりですか千景さん」

「修行をしに行くに決まってるじゃないですか。私たちみたいなギミック初心者には時間がありませんので」

「ダ、ダメだよ〜。今日はもう疲れてるだろうし、それで体とか壊しちゃったら意味ないでしょ」

 プロの選手は体調に気をつかう。中には同じものだけを食べている人だっている。仁のソバもそれを真似しているものかもしれない。

 まあ、つまり無理したらだーめというわけだ。

「うう……。ですが何もしないと落ち着かないですよ」

 テスト前とかに良くあるあれだね。もうちょっとここ勉強しとこうとか、ギリギリまで詰め込もうとか思っちゃうよね〜。

「でも祐たんの言う通りだよ。それで戦えなくなったら元も子もないでしょ」

「……先輩のくせにまともな事言いますね」

「やだな〜、僕はいつもまともだよ。なんたって優等生だからね」

 忘れてるかもしれないけど僕は生徒会長という設定なんだよ〜と胸を張る。

「私にお兄ちゃんと呼ばせようとしたり、お風呂を覗こうとしたり、妹がどうのとか萌えがどうとか熱弁する人が優等生なんですか?随分と変わった基準なんですね。変態の優等生ということなのでしょうか?」

「ぬぬ、それは聞き捨てなりませんな。それではまるで変態がいけない事みたいじゃ〜ないか。全国の変態さんに謝ってよ」

「それなら先輩は全国の人間に産まれてきてごめんないと謝罪してください」

「ご、ごめんなさい。でも僕はただ萌えを追い求めていただけなんです。その過程でおっぱい触っちゃったり、覗いてしまうことは仕方のないことなんだよ。僕はそれを分かっ手ほしい」

「なんで実くんが謝ってるの?」

 土下座をして開き直る姿を見下ろして祐はキョトンとした顔になった。

 あ、その顔萌えです祐たん。

「こういう人なんですよ。なんだか先輩の相手してたら眠くなっちゃいました。私は部屋に戻りますから覗きになんて来ないでくださいね。もし来たら、分かってますよね」

 握り拳を見せつけながら警戒をしている目で睨みつけたら、ふんっと自分の部屋に帰って行った。

「すごいですね。千景さんは頑固ですから言うこと聞いてくれるかヒヤヒヤしてたんですよ。マスクを外すように言ったんですけど断られてしまいまして」

「ふふん、千景ちゃんとは長い付き合いだからね。あっちも僕の気持ちを分かってくれだだろね〜。本当に僕の可愛い妹ですよ」

 からかっているのではなく、本当に妹のように可愛がっているのでこういった時は嬉しくなってしまう。

「中学からの知り合いなんですよね?ならあのマスクのこと何か知ってます?気になって仕方ないんですよ」

 修行の時もライダーを追いかけていた時もまるで海賊王を目指している少年の帽子のよつにいつもつけていて、もはやこの研究所では彼女のトレードマークとして馴染んでいる。

「あれは他人からしたら大した事ではないことを隠す為にしているんものですけど、付けすぎてあれがないと落ち着かないんですかね?」

「千景さんはコンプレックスがあるということですか。ボクと同じですね。男なのに可愛い可愛いって言われるんですよ。カッコイイなんて一回も言われてことありません……」

 悲しさのあまり少し涙目になり俯く。

 そんなんだから可愛いなんて言われんだ!逆に萌えだよ!

 などとは言えない。

「誰しもそういうのはあるよ。それよりも僕も眠くなってきたから部屋に帰るよ」

「あれ?そっちは逆ですよ。男の部屋があるのはこっちです。ボクと同じですよね」

 指差す方向には確かに実の部屋がある。一応男の祐もその近くに部屋がある。

「HAHA!ちょっとジョークデース」

 決して覗きになんていこうとなんてしてマセーン。ただ咲さんのブラの大きさを確かめたかっただけデース。

 だけどそんな本心とは裏腹に体がレーサーの人形をドロップキックした祐の姿がちらついて大人しく明日へ向けて自分の部屋のベッドに帰った。

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