ライダー
「前のバイク止まりなさい」
片手に警察がよく使う拡声器を手に持ったふりをして黒いバイクに注意するがスピードは緩まるどころか速くなった。
「そんなので止まってくれるわけないじゃないですか。警察の真似したってアラルが警察を知っているかどうかも分からないんですから」
というかあのバイクがアラルなのかどうかも不明だ。
「なら強行手段に移るしかないね」
「ですね」
スピードをあげて距離を詰めて行き、ある程度のところまでいったらそのスピードをたもって実は片手を目の前のバイクの後輪に向けて拳をつくった。
「ふふん、隙ありありなのだ〜」
勝ち誇った口調をする実の親指と人差し指の間から黒と紫が合わさったような色の物体が飛び出した。
相手はただ真っ直ぐ走っているだけなのでいとも簡単に当たり、後輪は壊れて横に倒れたバイクは金属がこすれる音を立てながらコンクリートの上を滑っていった。
「うまくいきましたね」
これが実のギミック。まだ自分でもどんなものかはハッキリとは分かってはいないが使い勝手のいいものだ。
「なら、まずはどうすか〜。解体して仲間を調べちゃいます?ただのバイクじゃなさそうだし〜、アラルとも何か関係があるかも」
「そういったのは俺にやらせろ。素人のお前なんぞに任せられん」
プロの玄馬はお怒りのご様子。かなりこれが大事らしい。
「わーってる。冗談だよ〜。でもこれって危険じゃない?」
「それも敵という可能性もあるが何せ俺たちが所有している情報は少ない。他の奴らをギャフンと言わせるには危険を犯してでも情報を聞き出しておきたいんだ」
ただプライドがどうとかの話ではなく、日本が軽視される訳にはいかないと奮闘しているのだ。
「聞き出すと言ってもバイクだよ?」
「なに、うまい具合に解体するか喋る機能でもつけさせるさ」
「黙って聞いてりゃあ〜随分と勝手なことばかり言ってくれるじゃ〜ね〜か」
聞きなれない男の声が聞こえた。周りを見渡すが新キャラ登場というわけでもなく状況は何も変わっていない。
「もしかして千景ちゃん?」
「違いますよ。私にあんな低い声は出せません」
先ほどまで喋っていた玄馬はまずないが、他には千景しかおらずそれも違うとなると空耳の可能性も出てきたが、千景が聞こえているとなるとその線も違う。
「なにしてやがる。こっちだこっち」
次はバイクがガタガタ音を立て始めた。
「うわ!千景ちゃん。これってもしかしてあれかな?最近流行りのポルターガイストかな?」
「流行りじゃありませんし、そういった非現実的なものはありません」
「あれ〜?もしかしてお化けが怖いのかな〜。そういえば文化祭の時にお化け屋敷には絶対に行かなかったよね〜」
生徒会の仕事で見回りをしながら文化祭を楽しんでいたが必ず西館には何かと理由をつけて行きたがらなかった。
西館の三階の奥には完成度が高いと有名なお化け屋敷の出し物があったが、千景のせいで行けなかったのを今でも覚えている。
「別に怖いとかじゃないです。ただ霊とか呪いとか目に見えないものは信じないようにしているだけです」
「なるほど、だから愛も知らないんだね」
可哀想にと空を仰いで思いを馳せる。
「すいません。そついったのいらないんで黄昏ないでくれす?私が可哀想な人みたいじゃないんですか」
「そうだね。ただてさえ、がっかりツンデレなのにこれ以上マイナスイメージはいらないよね」
「がっかりツンデレってなんでか!私はがっかりでもツンデレでもありませんから」
珍しく怒られ身を縮こませながらも人差し指と人差し指をツンツンとして、でもデレの少ないツンデレってやっぱりあれじゃないですか〜という心の中でつぶやいた。
「おい、お二人さん。イチャイチャしてるとこ悪りぃ〜がわいを無視するのはちと意地悪と違うか?」
妙な口調が後ろから聞こえてくると思ったら倒れていたはずのバイクは立ち直って、こちらを向いていた。
「せ、先輩。バイクが……」
状況から考えて声の主はこのバイクしかいない。
それに気づいた千景は怒りが吹き飛んで驚きの顔をして実の顔を見合わせた。
「うん。そうだね〜。でもでもでもさ、バイクが喋るわけないじゃん。声帯がないんだからさ」
さらに言うと喉、口もない。
だからこそバイクは喋らないのだがその期待を裏切るかのようにバイクは動いた。
「そういうのは先入観言うんや。まだまだ甘ちゃんやな〜」
ゆっくりゆっくりとこちらに近づいて来る。間違いなくこのバイクが喋っているのだ。
「おやおやおや〜、どうしよう千景ちゃん。非現実的なことが起きちゃったよ〜」
ファンタジーの世界でもあるまいしと思ったがここは異世界なのでバイクが喋ってもおかしない……のかな?
「ち、違いますよ。このバイクに携帯とかが仕込まれてあってバイクが喋っているように聞こえているんですよ。この声はライダーのものですよ」
何の躊躇もなくバイクに歩み寄り、ベタベタと触りまくってそれらしいものを探し回るがいくら探しても異常は見つけられなかった。
「お、おかしいですね……」
あまり詳しい方ではないのだが何の変哲もない普通のバイクだということ以外わからなかった。
「ふふん、あれだけカッコつけといて外すなんて恥ずかし〜」
犯人はお前だ!と指差しておいてそれらしい証拠が見つからなかったので、やっぱ今の無しの方向でと言うぐらい恥ずかしい。
「う、五月蝿いですね。誰にだって失敗することはあります。でもこれで本当にこのバイクが喋っているということになりますね」
「やっと納得してくれたかお嬢さん。これでやっと会話が成り立つわ」
見た目はシンプルな形と色なのにアロハシャツを着ているチャラい人と重なる。
「は、は〜」
しかし千景はバイクと話すことに抵抗があるらしく、あまりいい顔はしていない。
それを察して相手は実が全て引き受けることにした。
「え〜、最初に聞きたいんだけど〜、あなたはアラルですか?」
「アラル?ああ、人間が俺たちを呼ぶ時によく使う言葉か。そうだ、俺はアラルだ」
「ならあの上に乗ってた人は?」
公園で祐の先制攻撃で吹き飛び今でも交戦中?だと思われるヘルメットを被った男は一体誰なのかが気になる。
「あ〜、あれか?あれらわいがつくった人形や。力をこう……固めてつくったもんやからわいみたいに喋れへんけど遠隔操作はできるねん……って今壊れてももうたわ」
力というのはギミックのことなのだろう。あれだけ精巧なものをつくれるとなるとこのバイクはかなりの実力者といえる。
「多分、僕の仲間がやったんでしょ〜ね。それでどうします?壊れたなら本体がこっちだと気づいたと思いますよ」
心配性の祐ならすぐに駆けつけてくる。しかもまだギミックが残っているとなると肉体強化でおなじぐらいのスピードかそれ以上でここまで着く。
「せやな〜。人形を通じてでも随分怖いんは分かっとるでな〜。それにわいの目的はカメラの破壊やないで」
「というと〜?」
一番最後に聞こう思っていた質問を相手から切り出してきて驚きはしたが、そこはグイっと食いつく。
「お前らさんと話がしたかったんよ。でもうまい具合に隠れとるさかい、こっちからはコンタクト出来へんからそれならそっちから来てもらとかな〜思うただけやで」
つまり実側が完璧に隠れていたので暴れ回って気を引いて引きずり出してやろうというのがこのバイクの思惑で、まんまとその計画にひっかかってしまったわけだ。
「それにしてもこんなに友好的なアラルは初めてだな。作戦変更だ。食料は後回しにしてそいつをここまだ連れてこい」
インカムの向こうで話を聞いていた玄馬は唐突にそんなことを言い出した。
「いいの?一応アラルなんだからもうちょっと様子見てからでもいいんじゃない?」
もしこの見て目で油断をさせてこちらの本拠地を突き詰めようとしているなら話はここで済ましたい。
「なに、もし偵察が目的なら逃がさないようにすればいいだけのこと。君は何も心配しないでいいからライダーをここに連れてくることだけを考えてくれ」
今更だがこちらが本体ならば、このバイクのことをライダーと呼ばなくてはいけないことになる。
「りょ~かい。できるだけのことはしますよ」
最高責任者の言葉を無下にするわけにもいかないので、このバイクもといアラルを本拠地にお連れすることが優先になった。
「ええ~と、僕たちはあなたのことをライダーと呼んでいるのですけど、大丈夫ですか?」
一応本人確認をしておいた方が失礼がないと思った。最近キラキラネームなるものが流行っているので産まれてきた子供もはいかいいえだけでいいので反応をしてくれれば犠牲者はグンと減るだろう。
「別にかまへんよ。名前なんてあらへんし、アラルなんて呼ばれるよりはそっちのがええわ」
「ならライダーさん。本当に僕たちと話をしたいだけなんですか?そんな関西風の喋り方して油断をさせつつ裏でなにか企んでるとかじゃ~ないんですか?」
ドストレートだがこんな人?にはむしろこうった感じが効果的だと思った。
「はっはっはつーーー。兄ちゃんは疑り深いの〜。まあ、でもそれがこの世界で生き残るコツなんやけどな。せやけどこんなの疑ってどうするんよ。わい一人じゃ何もできへんで」
バイクの体はあまりにも不自由で映画のようにパソコンをいじって情報を引き出したりすることは不可能だろう。
「そうだよね〜。でも一応確認しとかないと心配で心配で仕方ないんですよ〜」
「ほほう。なら今のでわいを信じてくれる気になったか?」
「いえ、条件があります。これは上からの指示ではなく僕個人から出す条件ですけど」
その条件は一つ。人差し指を立ててそれを示す。
「条件?まー、ただで入れてもらおうなんて甘い考えで来てなね〜けど一体どんな条件なんだ?こっちにも事情があってあんまりヤバイもんだったらまた監視カメラ壊して回るがよ〜」
「条件といっても別にこれを飲まないと案内しないとかそういうんじゃなくて公平する為のものなんだよね〜。ライダーさんがこのままでいたいとかこれは言えないとかだったら無視してくれても構わないんですよ。でもね、もしそうしたら僕はあなたを決して信用しないでしょうね」
つまりは人間性を測っているわけだ。もちろんライダーがどちらに答えても両者とも損をしないものだ。
「ふ〜、なるほど。でその条件ってのなどんなんだ?」
それを察したライダーは話しだけでも聞こうと身構えた。
「ライダーさん。あなたの力がどういうものか教えてください。できるだけ事細かく」
「な?そう来たか……。ちょっと時間をくれ」
力とはギミックの事だが戦いの上でその能力が勝敗を分ける。
故に相手の能力を知っていれば勝率は最初から高く、こちらのペースで戦うことができる。
だからこそ悩むのだ。本当にそれに見合うものがあるのか?
ノーと言ってしまえばこんなことで悩まなくて済むが、実を敵に回すのは良くないとライダーの長年の勘が囁いていた。
様々な回答はあったが、一番最初に頭に思い浮かんだことを言うのが吉だと腹を決めた。
「ええで。わいの力のことを教えたる。だけどあんま期待すんなよ。大した力やないからな」
「ふふん、いえいえ。僕が知りたかったのはあなたの意思だったのでそれだね聞ければ十分です。まあ、言うと言ったからには必ず教えていただきますけどね」
「なんや兄ちゃん性格悪いな〜。そこら辺のやつより上やないかな〜?」
「さあ?アラルはライダーさんが初めてなのでわかりませんよ〜。ほら、こんなところで立ち話もなんですから行きましょか?」
「せやな。わいも後ろ足いたなってきた」
「う、後ろ足?」
二人の会話を黙って聞いていた千景もそこだけは気になった。多分、止める為にパンクさせた後輪が痛むのだろう。心なしか引きずっているように見える。
「では我らの本拠地である早乙女研究所にご案内しますよ」
バイク二台と人二人。何かを忘れている気がするが兎にも角にもまずは目的の場所へと向かった。