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エンドレスフール   作者: 和銅修一
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仲間たち

「ここが食堂〜。お昼は十一時から一時まで開いてて夜は七時から九時まで〜。朝と七時から九時だね〜」

 食堂は実達が通っていた高校より綺麗で全体が白で目が疲れてしまいそうだ。

「ジンジンはいっつも一番にここに来てソバを食べてるんだ〜。ほら、あそこにいたよ。じゃあ、私はここで」

 用事があるらしく、咲とはここでお別れ。仕方なく二人でジンジンの元へと歩み寄る。

「やあ、ジンジンくん」

「……誰だ。お前ら見たことない顔だが」

 ソバをすすっていたので顔はよく見えなかったがこちらを向いたことでそのキリッとした顔が見れた。

 ぺったんこの黒髪で日本人!という雰囲気だ。

「僕はハルルン、こっちはチカルンだよ〜」

 ちょっと声を高くしてテンション高めに言ってみる。

「あの女の真似のつもりか?目障りだからそれはやめろ」

 どうやらお堅い人のようでこういったネタは通じないらしい。

「なら、そちらが名乗るのが常識ではないかな?」

「ふん、仕方ない。お前らの話は聞いているからな。俺は霧雨(きりさめ) 仁だ」

「僕は篠春 実。そしてこの美乳少女が國里 千景ちゃん」

「美乳少女?」

 流石にその紹介は驚いたらしい。箸を止めて千景に目をやった。

「き、気にしないでください」

 胸を隠してうつむき加減でそう答えるとふ〜んと言って流した。

「なるほど、お前らが新たにループを抜け出した奴か。あの男が言うには二人とも力が使えるらしいな。戦闘員が増えるのは俺としても助かる」

 戦闘員は実と千景か来るまではたった四人だったらしいので相当大変だったのだろう。

「それでジンジンさんはどんな力を使うの?」

 話だけしか聞いていないのでそれが実際どういうものなのか気になっていたのだ。

「ジンジンと呼ぶな。それと俺のはチャージに時間がかかる」

「チャージですか?」

「嘘をつくと使える力だということは聞いただろ」

 ソバをすすっていた箸を置いて本格的に話をする準備をしてくれた。

「はい。アラルというのも同じ力が使えると聞きました」

「そうだな。どんな成分なのか、どんな原理なのかは判明していないが力としては有効だから俺たちはこれを使っている」

「いや、一つ間違っているぞ。アラルか同じ力を使えるんじゃない。俺たちがアラルと同じ力を持っているんだ」

 カレーライスを両手で大事そうに持ちながら付け加えたのはこの研究所の責任者である玄馬だ。

「ちっ、面倒なのが来たな」

 露骨なほど嫌っている。彼の目の前に座って来たのでほんの少し横にずれた。

「ちょうど二人ともいるから今のところで分かっているこの世界のことについて話そう。少し長くなるかもしれんが心して聞いてくれ」

「その前置きが長いんだよ」

 ボソッと一言こぼしながらソバを口に運ぶがそんな仁を無視して話は進む。

「まずここは地球のひずみの中にある空間でループに気付いたものを自動的にそのひずみの穴が吸い込んでいるようだ。そしてこの世界は嘘をつくことで溜まる力、俺たちはギミックと呼んでいるもので構成されている。建物などもそうだ。しかし、ギミックについては個々の差が激しく、詳しいことはわかっていない」

「用はこの世界は文字通り嘘で出来ているということだ」

 まとめを付け加えた仁はソバを食べ終えていたので丼を持って片付けようと立ち上がった。

「待て、仁。お前には手伝ってもらいたいことがある。その二人をアラルと戦えるほど強くしてほしい」

「残念だがお前の命令は聞かないし、俺を選ぶなんて人戦ミスだ。まだあの二人の方がいいようにしてくれるぞ」

「まだあの事を気にしているのか?俺を避ければ解決するとでも思っているのか」

 嫌味のようにつぶやくと仁は丼を力強く置いて盛大に音を鳴らした。

「その話は二度とするな。死にたくなければな」

 殺気に近い視線を玄馬に向けて、そのまま不機嫌そうに食堂を出て行った。

「……断られたのなら仕方ない。奴の忠告通り、あの二人に任せるのしよう。それとお前らはどうする?これからギミックの使い方を教えるつもりだがどうする」

 あくまで人権というものはある。たとえこんな世界でもだ。

「やるに決まってるでしょ。ここまで来たらとことん付き合う。千景ちゃんもそうでしょ?」

「そうですね。先輩だけでは心配ですし、何より自分たちの世界を救いたいですから」

「わお!気持ちが通じ合うなんて。一心同体だね千景ちゃん。運命感じちゃうよ〜」

「なら、私はそんは運命呪わなくてはいけませんね」

「釣れないね〜」

「お前らも昼を食べたらどうだ?その後におれが案内してやる」

 玄馬の提案に乗り、少し早めの昼食としてカレーライスを頬張って十分程度で完食するとトレイを元に戻して二人の待つ場所へと向かった。




 場所はトレーニングルーム。かなり広いので野球以外はなんでも出来そうだ。

 しかしだだっ広いだけでテニスコートとかがあるわけでもなしで殺風景。

「少し待っていてくれ。どちらか片方は時間があるだろうから連絡してみる」

 そう言うと携帯を取り出して何処かへかけながら廊下に出て行った。

「なんで仁って人が教えてくれなかったんだろ?」

「話し的に何かあったことだけはわかりますけど……」

 あの事とかどの事だよ!と叫びたくなるほど気になっていたが来たばかりの部外者に教えてくれるはずもない。

「何か闇を持っているんだな。俺と同じだ」

 遠くを見つめて昔のことを思い出すようなポーズをとるが回想シーンには入らない。

 彼にそんな悲しい過去などないからだ。

「確かに黒いものがありますね。ドロッドロッのが」

「そんな〜褒めて何も出てこないぞこのこの〜」

「褒めてません。それよりも本当にいいんですか?成り行きとは言え、力の使い方を教わるということはアラルというものと戦わなくてはいけなくなるんですよ」

 アラルは世界をループさせ続けている者たちだ。そしてそれは世界を破壊させようとしているのと同義である。

 つまりは人類の敵。力を手にしたらそれで倒さなくてはいけないのだ。

「そうだね〜。でもね、僕は世界がどうとか話がデカすぎるのはちょっと良くわからないんだよね。だから力は気に入らない奴をぶっ飛ばして好きな人を守るために使えばいいんじゃないのかな?って思ってるんだ」

 気に入らない奴が人間でもいい、好きな人がアラルでもいい。

 ただ自分の信念だけは絶対に曲げたくないということだ。

「先輩らしいですね」

「惚れ直しちゃった?」

「それは絶対にありませんが、その一言で私も決心がつきました。やるしかありませんね」

 力があるのに逃げるというのは間違っているということに気付いた千景は覚悟を決めた。

 ちょうどその時、一人が近づいてきた。

「えー、お二人が篠春さんと國里さんですか?」

 現れたのはオレンジ色の髪を水色のシュシュで右上に一つに束ねている可愛い子だ。

 上は髪と同じオレンジのTシャツを着ていて下はホットパンツを履き、シマシマの靴下で露出部分を隠している。

「そうです。僕が篠春 実です。下の名前で呼んでいいですよ。ていうか呼んでください」

「さっそくですか。すいませんねこと人はいつもこんな感じですから気にしないでください」

 千景は問題行動ばかりする子供をもったお母さんの気持ちが分かりつつある今日この頃だ。

「いいえ。お話は聞いていますのでボクは気にしていませんよ」

「僕?もしかしてこれが世に言うボクっ娘……」

「やばいスイッチ入ったかも」

 前にもあった。妹の時だっただろうか?いきなり熱弁し出すようになるスイッチが入ってしまったらしい。

「ボクっ娘、それは魅惑の響き。ただ女性が自分のことをボクと言うだけで特徴になってそれに惹かれてしまう。ボーイッシュタイプの女性に多く、萌え大要素の一つ。まさかそんな人材がこんなところにいるとは」

「は、は〜」

 体全体を動かしたり広げたりしてボクっ娘の素晴らしさを伝えようとするが本人ですら戸惑った様子を見せた。

「ほら、先輩。私は慣れてますけど他人にそれするとドン引きされるますよ」

 まともに話したことない人にボクっ娘について熱弁されてもなんて返したらいいか迷うだけで喜ばれることなどない。

 ただ欲望が口に出ているようにしか見えない。

「あの、その……非常に言いにくいんですけどボク男なんです」

「HAHAHA!千景ちゃん。どうやら僕たちを励ますためにジョークを言ってくれたらしい。なんていい子なんだろう」

 二人はここに来て意味不明な説目ばかりで疲れてはいる。

「なんで外国人みたいな笑い方したんですか?それにジョークと決めつけるのは……」

 胸に膨らみはない。しかし、目はパッチリと大きく、腕や足は筋肉があるのか心配になるほど細い。

「名前も聞いていないのに失礼だね」

「あ、まだ自己紹介もしてませんでした。ボクは柏木(かしわぎ) (ゆう)です」

 ん〜、確かに男っぽい名前ではあるが女性だと言われればただ親が男みたいな名前をつけたなとしか思わない。

「なるほど、千景ちゃんはどう思う。祐ちゃんか祐くんか?」

 これは実にとっては大きな問題だ。

「本人が言ってるんですから祐くんなんじゃないですか?」

「でも、ここには力の使い方を教わるために連れられて来たんだよ。そしてその力を使うには何が必要か?優秀な千景ちゃんなら分かるよね」

「ま、まさか……」

 嘘だ。ギミックは嘘で溜まると聞いた。

 しかし二人はまだギミックを見たことがなく、それが発動したらどうなるかなど全く知らない。

 それに玄馬はギミックの能力には個人差があると言っていたので初心者である彼らにそれが理解出来るはずもない。

「あ、あの〜。もしかしてボクがギミックを使おうとしていると思っていますか?」

 オロオロとしながら警戒しながら見つめてくる二人に挙手をしながらそう言った。

「違うの祐ちゃん!」

「ちゃ、ちゃん付けで呼ばないでくださいよ。確かに早乙女さんから二人にギミックの使い方をあげてって言われたけど少しずつやっていくからそんなに気を張らないでください」

 これから敵と戦うことになるのだから地球の何倍もの重力のある場所で修行するみたいなハードなものはしないらしい。

 祐の様子からしてそんな風な修行はしないだろうとは予想はしていたが、この世界ではそんなゆとり世代みたいなやり方で通じるのだろうかと心配になってくる。

「でもな〜、まず祐ちゃんか祐くんかなんだよね〜」

「まだ、その話ですか。本人が嘘じゃないつて言ってるじゃないですか」

 正直、千景にとってはどちらでいい問題だ。彼であろうと彼女であろうと今までの言動から悪い人ではないことぐらい容易に想像できる。

 だからいい友達になれそうだな〜、としか思っていなかった。

「でも決定的な証拠が欲しいじゃないか。ただ口で説明されても納得出来るはずがないでしょ〜が」

「なら先輩はどうしたら納得するんです?」

 スゥーと右の人差し指を伸ばしながら腕を動かして流れるように祐のあるところを「犯人は貴方だ」と言わんばかりにビシッとさした。

「股間だ!そこさえ触れば男か女かなど一目瞭然、いや一タッチ瞭然」

「そ、それってもし祐さんが女性だった場合セクハラの域を越えて犯罪になりますよ」

 さされた本人は両手で隠してどうしたらいいか分からずオロオロとするばかり。

「ふん、それは祐ちゃんだったらの場合。千景は祐くんだと思っているんだろ。だったら問題なんてないじゃないか。男と男のコミュニケーションだよ」

 しかし、それはホットパンツ越しとはいえあれを触る勇気がなければ到底出来ない。そして実にはその勇気があった。

 否、どちらが本当かという好奇心があった。

「ですが祐さんは……」

 流石に同意がなければ触らせる訳にはいかないと視線を向けるが予想外の答えが返って来た。

「ボ、ボクが男だと証明出来るのなら……やっぱり仲間になるのなら本当のことは分かって欲しいですし……」

 恥ずかしがって答えているのがまた男だからか女だからか分からなくする。

「ならレッツタッチだぜ!」

 同意を得たところで、お前は何マスターになりたいんだとツッコミたくなる叫びで彼の手は真理を追い求めるための旅に出た。

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