陽気なお姉さん
「まず何処から説明しようかな〜。ゲンゲンからはどこまで聞いてるの?」
「そうですね、四月一日が繰り返されていて私たちはそのループから抜け出せて、この世界は特有の力があってアラルっていう敵がいるとか……」
まだそこらへんをグルグル走り回っただけでこの世界のことなど人が全然いないというぐらいの印象しかない。
「そうだね〜。ならまずはこの世界にある不思議な力に説明するね」
「はい。でもなぜこの世界はあるんですか?」
力のことは知りたいがそれよら先にこの世界のことの方を先に知りたかった。
「ゲンゲンが言うにはループの時に出た力によって出来てるらしいよ」
「力……ですか?正直こんなところにそんなものがあがるなんて実感が湧きませんね」
「だよね〜。アラルに会ってないならそんな感じだよね〜」
何やら意味深。
アラルと口にする時、一瞬だったがいつもとは様子が違った。
「そのアラルってなんなんですか?ループを作り出したって聞いたんですけど本当にそんなこと可能なんですか?」
「ん〜、そこんところは分かってないらいのよね〜。まだアラルのことは私たちと同じ力を使える以外なにと分かっていないの」
研究所に置いてあった機械はそれらを知る為のものらしいが新品みたいだったのはあまり使えていないかららしい。
「でね、その力っていうのが嘘をつくことで溜まっていくの。能力とかは人それぞれ違うんだけどね」
「嘘ですか……」
ふと実の方を向いて見る。この中で一番信用ならない人物の一人だからだ。
「そう。詳しいことはゲンゲンが調べてるところなんだけど、使えるのが私を含めても四人しかいなかったから研究はあまり進んでなかったみたいなんだけどハルルンたちが来てくれたから大丈夫そうだね」
「待ってください。私はそんな怪しい研究に参加する気はありませんよ」
責任者がまず怪しいのにそんな研究の助けなどしたくない。
「でも〜、それだとこの世界滅んじゃうよ」
「滅ぶ?ただ四月一日を繰り返しているだけなのになんで滅ぶんですか?」
「え〜と、これもゲンゲンが言ってたんだけど〜ループする為に使われているエネルギーに世界が耐えられなくなって爆発しちゃうんだって〜」
なんとも緊張感のないのだがまったくの嘘ではないのかもしれない。
世界をループさせるほどのエネルギーは膨大なはずだ。しかし、そのダメージが継続されるとなると耐えられなくなっても不思議ではない。
「でも私たちはその力を使ったことがないですからいきなり研究がどうとか言われても」
「大丈夫だよ〜。すぐやるってわけじゃないんだから、ゆっくり考えてよ〜。その気になったら私が手取り足取り教えてあげるから〜」
「はい!はい!はい!僕は今すぐにでも手取り足取り教えてほしいであります」
「先輩、口を挟まないでください。腹に石を詰め込みますよ」
「わーお、赤ずきんちゃんに出てくる狼みたいになるのだけは勘弁。ていうか千景ちゃんはSキャラにジョブチェンジしたいの?」
絵本だとなんとも感じないが実際の光景はかなりグロテスクなものになることぐらい高校生の実は知っている。
苦痛も半端ないだろう……っていうか死ぬね。いや死ぬな。
「違います。今みたいに先輩が面倒だからちょっと強めに言っちゃっただけですよ」
「やけに素直だね。何かあったの?」
「いえ、でも天門さん。私たちこれからどうしたらいいでしょう?外もアラルがいるかもしれないから出歩けないから家に帰れないから住むところがないんですけど」
それにこの変態と一緒だということも問題だ。せめて二人きりにはなりたくない。そんな時にはいつ襲ってくるかわかったものではない。
「ならここに住めばいいじゃない。研究所の人たちもここが安全たがら全員ここに住んでるし、ちゃんとした部屋あるから〜。ゲンゲンも賛成してくれるよ」
研究に参加してほしい人材をぞんざいに扱うことはしないだろうかはきっと大丈夫だろう。
「天門さんがそう言ってくれるなら……ね」
「そうだね。どっちかのベッドで寝かせてくれるならここにお世話になってもいいかな」
「すいません。この人だけ外に追い出してください。変態の近くにいたくありませんので」
「ちょ!冷たくなーい。僕は咲さんのおっぱいを枕にしたいとか、千景ちゃんおしりにうずくまりながら寝たいとか考えてませんから……」
「すいません。天門さん。今すぐ力の使い方を教えてくれませんか?ちょうど練習台ができましたから」
グッと拳を握りしめて視線を実へ向ける。
「やっぱりSキャラにジョブチェンジしたいだね?でも僕はそんな千景ちゃんでも受け入れるつもりだよ。さあ、僕の胸に飛び込んでぐあむ!」
鋭い右ストレートは容赦無く腹にめり込み、何処ぞかの島の名前のような言葉を発して崩れるように倒れた。
「あらあら。チカルン暴力はダメだよ〜。ハルルンが何か悪いことしたの?」
死にかけのGみたいにピクピク痙攣している姿を可哀想にという目で見つめる。
「今さっき変態発言してたじゃないですか。天門さんも自分の胸を枕代わりにされたら嫌ですね?」
一体どういう体制で枕にするかはまず置いといて。
「ん〜、そうだね〜。確かにちょっと辛いかな〜。ずっとだと痛くなっちゃうし〜」
「ですよね。とりあえずこれはここに放置しておきましょう。それぐらいしないと反省しませんから」
生命力はGと同等かそれ以上だ。一週間放置したって構わない。
「じゃあ、チカルンは私が案内するけど本当にいいの?」
「あんな先輩もう知りません。仕事してる時は少しマシになるんですけどね」
生徒会で活躍している時だけは今より普通になるのだがそれ以外は大抵こんな感じなのが欠点だ。
「私はハルルンのことだなんて一言も言ってないよ〜。やっぱりチカルンはハルルンのこと好きなんだね〜」
「す、好き?こんな変態をですか?ないないない。絶対にありませんから」
「本当に〜?今なら本当のこと言ってもハルルンにはわからないよ〜」
腹の激痛で二人の話し声など聞き取れていないだろう。しかしそれでも千景は首を横に振り続けた。
「本当とか嘘とかありませんから〜〜〜」
この後、千景は同じような質問を何回もされていろんな疲れが溜まっていたらしくすぐに眠りについた。
「はう!……ここは何処だ?」
ようやく回復した実な勢い良く起き上がるがそこは見たこともない場所。周りは白ばかりで床で寝ていたはずなのにないつも間にか台の上に乗せられている。
「起きたか。お前のことは寝ている間に調べさせてもらったぞ」
「モジャモジャ博士」
台は斜めになっているので少し下を見るだけでそれを確認できた。
「その呼び方はやめろ。それよりも結果だがやはりお前には天門ら同様に力かあるということがわかった」
つまりこの世界特有の力を持っているようだ。わざわざ確認したのはそれほど力が重要なものなのだからと実は悟った。
「それで僕の能力はどんなの?詳しく知りたいだけど。あと、咲さんのスリーサイズを」
「最後のは聞かなかったことにする。それでも能力のことはまだわかっていないことが多い。圧倒的にこの世界とお前の情報を知らないからなんだろうな」
「調べたの?それとも改造手術をしてバッタの能力でも授けてくれたの?」
手足が動かないようにロックされていて実はふとそんなことを思った。
「悪の組織じゃないんだからそんなことはしていない。ただここにある機材でお前には力があるかどうかを調べていたんだ」
「それで?」
ここまでしたんだから何かしらわかったんだろ?と微笑みながら質問すると玄馬は頷いてそれを返した。
「お前の腹のダメージは安静にしていればすぐに治る。とりあえず解放はするがあまりはしゃぐなよ」
腹のダメージとは敵にやられたとかそんなカッコいいものではなく、セクハラ行為をしてそのお返しにもらった右ストレートによるものだ。
「は〜〜〜い」
小学生のような元気な返事をするがそれにはまったく信頼できるものはないのだが、ずっと見張っておくことにもいかないので他の者に任せるとして実から得たデータの整理を始めた。
「ふい〜、もうこんな時間かー」
改造手術室のようなところから出て研究所をぶらぶらと歩いていた中で見た時計は十一時を指していた。
「あ、ハルルンだ。おはよ〜」
そしてこれからどうしようかと考えていたら二つのお山を持ったお姉さんとばったり出会った。
「おはようで〜す。咲姉は相変わらず癒し系ですね〜。僕の心の傷が癒えていようだよ〜」
「ついでに頭の方も治してもらったらどうですか?昨日知り合った人を姉と呼んでしまう病気があるようですから」
後ろからニュと現れたのは腹痛の原因であり、実と昔からの付き合いのある千景だ。昨日と変わらず、マスクを装着。
「チカルン、そんなこと言っちゃダメだよ〜。減るもんじゃないんだから〜」
おっぱいをプルンプルンと上下に揺らして講義する。
「天門さん。先輩はそうやって優しくしているとどんどん調子に乗るって言ったじゃないですか」
「も〜、チカルン。天門さんだと他人みたいだから禁止って言ったでしょ」
実を置き去りしてから二人で女子会が開かれていてその中での話なのだろう。
「すみません。咲……さん。でもこれには気をつけてください。隙を見せると何をしてくるか分かったものではありませんからね」
「千景ちゃんどうしちゃったの?いつもは僕に甘えてくるのに。もしかして恥ずかしいのかな?」
「嘘情報はやめてください。ただ副会長として一緒にいるだけじゃないですか」
買い出しの時だってそうだ。プライベートで出かけたことなど一度もない。
「嘘だったんですか〜。チカルンはもっと素直にしてた方が可愛いのに〜」
「変態に可愛いと思われても嬉しくありませんから。それよりもこれからどうします?」
「僕はモジャモジャ博士から隅々まで見られてきた後なんだけど、何かをしろとは言われてないよ〜」
安静にしてろと言われたことなんて既に忘れている。
「なら、ジンジンに会ってみる?」
二人が会ったことがあるのは咲と玄馬ぐらいで他の人とはほとんど会ったことがない。
「男ですか、女ですか?」
真面目な顔をしてストレートな質問する。
「男!って、感じの男だよ〜」
「ん〜、なるほど。でもここに住むことなるなら顔ぐらいは覚えておかないとね〜」
マンションに引っ越してきたなら隣の部屋に挨拶するのと同じだ。
「そうですね。先輩にしてはまともなこと言いましたね。男なら無視するかと思いましたよ」
「流石の僕でも挨拶ぐらいはするよ。僕が目指すのはみんなと仲良くだからね」
両手を広げていうがなんとも胡散臭い。
「だそうですよ咲さん。その……ジンジンさん?は何処にいるんですか?」
ちゃんとした名前で言わないのでどう呼んでいいか迷いつつ、そう質問する。
「え〜と、この時間だと食堂にいるんじゃないのかな?でも、二人とも道がわからないでしょ?私が案内あげるよ」
一人は咲について行っていただけで、もう一人は部屋で倒れこんでモジャモジャ頭に改造手術を彷彿させる場所で体を調べられていただけでここの道などまったく知らない。
「じゃあ、さっそく行こ〜う。チカルンもハルルンもちゃんと着いてきてね」
「あう〜、体の力がヌケテイク〜」
棒読みの台詞で膝からガクリと崩れ落ちた実。
「ど、どうしたのハルルン!」
千景はなんかハエも寄り付かないゴミでも見るかのような冷ややかな目で見下ろしてきているが、何も知らないし天然の咲は慌ててあちらこちらを見渡してアタフタの見本と言える行動をしてくれた。
「エ、エネルギーが切れたようです。体に力が入らなくて立てなくなって……」
「た、大変だよチカルン!休憩所に連れて行かないとハルルン死んじゃうよ」
「いや、流石に死にはしないと思いますよ。それにこれは演技ですから」
ぐったりと倒れたふりをしているところを後ろから首根っこを掴んで持ち上げようした……その時。
「油断大敵!モミモミアタック」
不意をついたその攻撃は避けることが出来ず、千景はもろにそれを食らってしまった。
ちなみにモミモミアタックとは名前の通り、あるところをモミモミしまくる攻撃だ。
もちろん狙いは胸。
「咲さんには大きさでは負けるが形が綺麗で美乳と呼ぶに相応しい。触り心地もサイコヴァルトブルー!」
気が動転して目がグルングルン回るほど混乱しながらも無意識に手のひらは実の頬を思いっきり叩いていてその音は廊下中に響いた。
「な、な、な、何するんですか!」
「ナイスツッ……コミ」
それを最後に本当に力尽きた。残ったのは親指を立てて伏した変態の姿のみ。