館前の三人少女
「うっひゃ〜こりゃあ広いね。なんでも入っちゃうや〜」
「いえ、先輩の欲望はこの程度では入りそうにないですから自信持ってください」
「おお〜、主はこの大きさを遥かに超えるのか。流石だ見直したぞ」
西にある洋館へ行くことが伝えられ後の二日後には集合場所に三人は揃っていた。しかし、ここは地下駐車場にしか見えない。
「あれ?今回は咲さんも来るんですか」
「そうよ〜。道中に敵と出くわさないようにって。ほんとジンジンって心配性よね〜。ハルハルは聞いてないお思うけどこれ戦闘員全員参加なのよ」
「え?」
よく見てみるもちゃんと祐もいるし、仁も柱にもたれかかってこちらを横目で見ている。
「相当本が欲しいみたいですね〜。確かにこれから先必要になってくるものですけど研究所の守りとかどうするつもりなんですかね?」
戦闘員を全員出動されるということはここをガラ空きにするということだ。そんな時に攻められて来たら研究員しかいないこの場所はすぐに占領されてしまう。
「気にするなとは言ってたから何かあるんじゃはいのかな〜。どのみち決まったことは変えられないもの。信じてあげましょう」
相変わらず根拠がまるでないが言っていることは正しい。
「そうですね〜。でも目的地は二、三キロ先なんですよね〜。どうやってそこまで行くんですか。まさか歩きとか」
スーパーに行くのがやっとなのに二、三キロ離れたところになんて行けるわけがない。
「それは流石にないわよ〜。ほら、あれで移動するのよ」
指を差す方にはバスがこちらに来ている。修学旅行とかで見るのよりも一回り小さいがこの人数を乗せるには十分過ぎる程の大きさだ。
「いつか使う時が来るかな〜って思って近くにあったのをもらってきてたの。まさかこれを本当に使うことになるとは思わなかったわ〜」
拠点を守る為に数人の戦闘員を残しておく必要があるのでこんな大勢で移動するような乗り物は使えないでいたのだ。
しかし、今後の為にと危険を顧みず彼を送り出すことにしたここの責任者の肝は座っている。
「ふえ〜、ちなみに何年前からあるんですか?」
ここからでもそれが古いものであると分かってしまう。この世界には時間という概念はないが物を放っておくとどうなるかは変わらないようだ。
「それは……ごめん忘れちゃった〜」
これは咲が天然だからとか関係なく、使わなかった時期が長すぎて昨日この存在を言われるまでずっと忘れいたから拾った時のことも一切覚えていない。
「いえいえ、そんな咲さん可愛いです」
「えー、本当?」
「もちのろんですよ。スタイルいいし、天然だし」
「そんなに褒められると困っちゃうわ〜。でもそういうのっていつも言ってるわよね〜」
う〜ん、どうだろう。それは言い過ぎてて覚えていない。実にとっては挨拶みたいなものでそう言われると困ってしまう。
「うっ!それはですね。皆が可愛いからいけないんですよ。僕は悪くない」
だって本音を口に出しているだけだもん。
「ふ〜ん、まあいいわ。ほら、ちゃんと彼女にも挨拶してね」
バスが目の前に止まって一人でに扉が開くとそこには伸ばしまくった茶髪をしてメガネをかけていて、玄馬と同じように白衣を着ている美少女が立っていた。
実は紫色のヒールから目線を徐々に上げていき彼女の全体を見て腹の底にあったものが湧き出てきた。
「眼鏡っ娘来たーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー!」
その叫びに他の人は全員ビクッと驚いた。特に実の目の前に現れた眼鏡っ娘は目を見開いて驚いた。
「主!何かあったのか?」
勘違いをしているリブルは刀に手を置きながらこちら側に歩み寄ってきた。
「あ、リブルちゃん。見てよ眼鏡っ娘だよ眼鏡っ娘!分かるかな〜」
「え、ええっと眼鏡をかけている女性のこと……だったか?」
まあ、そのままなのでリブルでも分かることだが確認の為にそうつぶやくと応えるように頭を激しく上下に振った。まるでヘッドバッキングのようで何故かキレがあった。
「そうだよそれだよ。ここに来て初めての眼鏡っ娘なんだよ」
といわれても何と答えたらいいか迷っていると後ろから千景が異様な雰囲気で迫って来た。
「先輩。また、変態行為で誰かを困らせているんですか?これから大事な任務なんですよ。ふざけるのもいい加減にしないと……分かってますよね」
どうやら今回の本の入手の重大さに緊張している千景はかなり切羽詰まっているようで心なしか目の下にクマが出来ている気がする。
しかし、いつものゲンコツはいつもより力がこもっていてプルプルと震えている。
「いやいや〜、僕はただ挨拶をしようかな〜と思っているだけですよ。決してこれから眼鏡の良さを語ろうだなんて思ってませんよ〜」
ハッと口を塞ぐが、傍から見るとわざだろとツッコミたくなる。
「眼鏡?そんなのどうだっていいじゃないですか。これから私たちがすることは本を取りに行くことですよ。それに眼鏡がどうとか関係ありますか?」
「千景ちゃん、眼鏡を馬鹿にしちゃあいけないよ。ただのアクセサリーとかその人の本体とも言われる代物ですよ。そしてこの人の眼鏡の存在意義はこれから決まろうとしてるんだよ」
確かに眼鏡をかけている人はそれを外すと誰?という事態になるのでその人にとっては大事なものにはなるが、彼の熱さは異常だ。
「眼鏡は眼鏡です。なんでそれが分からないんですか。ほら、早くバスに乗ってください。こんなところで時間を無駄したくありません」
無理やり押しのけて行こうとしたが、実の体が壁となってそれはできなかった。
「なんのつもりですか?まだ眼鏡について何か言うつもりなら殴りますよ」
もちろん腹を。予想より変なことを言ったら顔面で。
「僕は脅しになんて負けないよ。ただ、この人さんの名前から聞いてからでよくないですーーーー!」
片手を広げて話の中心である眼鏡っ娘さんを示す。
「あ、そういえば聞いてませんでしたね。すいません。え〜と……」
「このバスの運転をすることになった栗本 真可美です。短い間ですがよろしくお願いします」
移動中にもしアラルに襲われた時に備えて運転は戦闘員ではなく、この中にたくさんいる研究員となった。
「はい、こちらこそ。変な先輩ですがよろしくお願いします」
「じゃあちょっと質問なんですけど〜」
「スリーサイズとか聞かなくて結構ですよ」
小さな声で耳打ちする彼女の顔を見なくてもガチだということは後ろからくるプレッシャーで何たとなくわかった。
「……なら、バナナはおやつに入りますか?」
別に千景ちゃんが怖かったわけではありません。紳士的な対応しただけです。それに気なるじゃないですか。バナナは果物なのか野菜なのか?スイカだって実は野菜でした〜と言っている。
それ以前にお前はバナナを持って来たのかと不思議そうな目で見られてしまった。
「まあ、別にバナナくらい構いませんが」
「いやった〜〜〜。じゃあ行こう西の天竺へ」
「猿と河童と豚なんて仲間にしませんからね」
「バナナでお供探すからいいもん。なくなったらきびだんごで」
「それ、話が違いませんか?」
まあ、そんなこんながあっで実たちを乗せたバスは西にある館に走っていった。
「ふ〜、退屈だな〜。ねえねえリブルちゃん。本当にこっに本があるの?」
二、三十キロだけなら大したことないのだが慎重を期す為に高速道路ではなく、普通の道を使ってゆっくり進んでいるので退屈で仕方ない。
「ああ。正確には賢者の書と呼ばれるものだ。知り合いからこの先にある館あると聞いてやって来た。それがあればあの男を見つけることができるかもしれないからな」
望んだ情報が無条件で手に入るなら誰だってそれを欲しいと思うだろうが、彼女の場合は欲ではなく復讐相手を見つける為の手段にしかすぎない。
「望んだ情報を教えてくれる……。絶対に先輩には渡してはいけない本ですね」
窓側に座っているリブルとは逆方向に座る千景は確信込めてそう言った。
「なんで?別に危ないものじゃないんでしょ」
本なので攻撃力は一切ない。角をぶつけられたらそれなりに痛いだろうがそんなのは他のものを使えばいいだけだ。
「だって先輩だったたら絶対、いやらしいことに使うに決まってるじゃないですか!」
情報はどんなふざけてものでも教えてくれるだろう。願いを叶える玉もその願いをギャルのパンティおくれーというくだらないものだったら宝の持ち腐れになってしまう。
「ま、まさか〜。僕でもそんな重要なものでそんな変なことしないよ〜」
「実際のところはどうなんですか?怒りませんから本当のことを教えてください」
ニコッと満面の笑みを浮かべてみせるが目は笑っていない。しかし、それに気づかない実は簡単に口を開いた。
「え〜、そうだな〜。みんながどんなパンツ履いてるかとか〜、みんなのスリーサイズとか知りたかったかな〜……」
そこでようやく彼女の思惑に気づき、口を噤むが既に遅く、立ち上がった千景が拳をバキバキ鳴らして怒りを露わにしている。
「ほ〜、やっぱりこの世界に来ても何も変わっていないようですね。ただちょっと力がついただけじゃないですか」
「い、いやね。でも性格はそう簡単に変えられるものじゃないでしょ?」
「ですが、これまでしたことは気をつければしないで済みましたよね。ていうか気をつければというこもおかしな話ですよこれ。ただ普通にしてれば私はこんなに怒りませんから」
「え?普通にしてるよ」
「先輩の普通は望んでいません。私は一般的な話をしてるんです。もし、分からないようなら……」
いつものように拳で言い聞かせるしか。
「まあ、まあ千景……殿。ここは私の顔に免じて許してもらえないだろうか」
「……今回だけですよ」
怒りは何かに吹き飛ばされてしまい、ゆっくりと着席してゆっくりと進む外の道を眺めた。
「着いた〜。こんなところにこんなところに館があるなんてね〜。それに、こんな美人に迎えてもらえるなんて思わなかったよ〜」
バスから降りて遠目でも古いものだと分かる館に近づくと三人の女性がその前で待っていた。
「えと……リンです」
声は小さいのにパンクなファッションで髪の毛が金髪というより黄色に近い少女。
「ビアンだ!」
元気いっぱいでホットパンツを履いて、上もTシャツ一枚と動きやすそうな服装な彼女の頭は性格を表したような赤。
「フェルノどすえ〜」
何故か京都の雰囲気を醸し出す彼女は着物が似合い、前髪パッツンで水色の髪でも日本人らしさがある。
「三人揃って〜〜〜〜〜」
「なんでアイドル風の自己紹介にしようとしてるんだよ」
最後の方は実が勝手に付け加えただけで彼女たちが言ったわけではない。
「ジンジン、面白くなりそうだったのになんで止めたの〜。あの三人の反応見てみたかったのにな〜」
残念そうに俯き、わざとらしく二度見をしてため息をする。
「俺が悪いのか?大体あの三人がやってくれるわけないだろ」
館の前にいることからして間違いなくアラルだ。それも待っていたということは賢者の書でこちらが到着する情報を得ていたと思われる。
「……フレッ…」
両手を小さく構えて何かやろうとしたが隣にいた二人がそれを止めた。
「やりそうになっるわよ〜」
「やりそうでしたね。しかもかなりキツイやつを」
意外だったが大事なのはそこじゃない。
「お前ら、賢者の書って本を知ってるよな。俺らはそれを必要としているんだ」
これも本を通して知っているかもしれないが一応の説明をする。
「……うん。でも私たち戦いたくない。だから……その提案があるの」
「提案?俺たちはどんな条件を出されても賢者の書がもらえない限りはここから離れないぞ」
研究所をガラ空きにしてまでここまで来たのだ。何の成果もなく帰ることなどできない。
「あ……はい。だからその……提案というのは……」
「ええい!焦れったい。俺が説明するからお前は下がってろ」
ビアンと名乗っていた少女がなかなか話を切り出さない彼女に苛立ち横から無理やり押しのけて前に出て来た。
それにしても俺っ娘とは……全然OKです!
「俺たちが提案するのは戦い方だ。賢者の書を渡したくはないからな。だがそれと同じくらい死ぬのら嫌だから一人ずつやるんだ。それも戦い方はちょっとゲームみたいなやつをな。あんたらが二勝できたら俺たちは賢者の書を諦める」
つまりそのゲームみたいなやつで先に二勝できたらこちらはお目当ての賢者の書をゲットできるわけで死人がでないやり方だ。
「俺たちとしても危険な戦いは避けたいがお前らが賢者の書を渡すとは限らないだろ」
「そう言うと思って賢者の書は先に渡す。俺らが負けたらそのまま持って行って構わねーが、勝ったら返してもらうぜ」
さっきまで説明しようしていた少女が古っぽい本を渡してきた。
「なんだこれは?」
しかし、明らかにおかしい点が一つ。鎖と錠前がついているのだ。これでは本として機能しない。
「俺たちの目を盗んで使わないようにする為だよ。勝てたら外してやるから安心しな」
これもギミックなのだろう。何をしてもビクともしない。
「いいぜ。受けて立つ」
仕方ないというより逆にありがたい。この方法ならたとえ負けても被害は最小限に抑えられる。
ここで三人の少女と実たちによる賢者の書争奪戦が始まった。