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エンドレスフール   作者: 和銅修一
18/21

本と館

「全員、良くやってくれた。特に千景は敵を捕獲してくれた。研究員の俺としてはこれほど嬉しいことはない」

「ちょっと〜、僕も結構頑張ったんだけど何もなし〜?」

 スーパーでの戦いを終えて早乙女研究所に戻った四人は報告の為に玄馬の前に立っていた。

「ああ、確かにお前にしては頑張っていたな。やはりあれを組み込んだのが正解だったか」

「なにそれ!まさかあの時に」

 ここに来て間もない時、千景に気絶させられて気づくと妙な台に乗せられていた時があった。あそこはまるで改造手術をするような場所だった。

「いや、気にするな。体に害はない」

「でも入ってるんだ。それっていやだな〜。まあ、冗談なんなよね」

 いくらしそうな格好をしていても流石にそこまではしないはず。

「…………」

「急に黙らないでよ〜。それだと本当みたいじゃん」

「とにかくだ。捕獲した束縛のヴェントから情報を聞き出してくる奴が決まっていない。研究対象にするのもいいがそれは別の国がやってくれているから必要ないだろ」

 玄馬だと無能者だと馬鹿にされるのがオチだし、あれから情報を引き出すのは難しく誰もやりたがらないことだが一人だけ。

「んじゃ〜、その聞き込みみたいなやつ僕がやろうか?」

「先輩?珍しいですね。こういこと絶対にやらないのに」

 暗い仕事、裏方の仕事は生徒会長だった頃も全くやらなかった。唯一やりたいと言ったのは学校行事関連のものばかりだった。

「ちょっと個人的に聞きたいこともあるし、お仲間さんのことを話せるのは僕だけてましょ。リブルちゃんだと同じアラルだから問題起きそうだしさ」

 彼女はあちら側から見たら裏切り者なのだから反感を買うのは目に見えている。

「わかった。お前に任せよう。上手く聞きたそうと思わなくていい。こっちにはリブルがいる。もう充分の情報があるし、咲の未来予知があるからな。適当に済ましてこい」

 この世界での情報はどんなものでも貴重になるのだが玄馬にとってはお偉いさん方が元の世界に逃げる為に必死になっているようであまり無駄な聞き込みはしたくない。

「わかってますよ〜。それじゃあ行って来ま〜す」

「おい、待て鍵を忘れてるぞ」

 カード型の鍵をひらひらして実に見せる。

「おっと、これはうっかり。それじゃあ〜」

 鍵を受け取って部屋から出て行った。

「なんか主の様子がおかしい。何かボーっとしているような。さっきの戦いで疲れているのだろうか?心配しいだ。千景もそう思うだろ」

「え?わ、私?何で私が先輩なんかを心配しなくちゃいけないんですか。いつもあんなのですよ。たまに抜けてるところがあるだけです」

「そうなのか。流石、妹は違うな」

「誰が妹ですか!また先輩ですね。」

 それ以外思いつかない。

「あれ?違ったか。それだったら……彼女さんだったか?」

「か、か、彼女?あんなのと付き合うぐらいだったらナメコと付き合いますよ」

 ナメコと付き合って何?と言った後から自分の言葉に疑問を抱く。

「そうか彼女ないのか」

「ホッとした?」

 隣でクスクスと笑いながら二人の様子をみていた咲が横から入る。

「ああ、何でだろうな。主は戦っている時はカッコよかったし、凄い優しいのにな」

「あ〜、うんそれは女性にだけだから勘違いしない方がいいと思うよ」

 女性によく思われたい人は多いが、実の場合は極端すぎる。女性に好かれる為なら何だってするが、あの性格だけはなおらない。

「だが祐の時だって同じ感じだったぞ」

 一応、男なのに。それを初めて聞いた時はリブルでさても口を開けて驚いた。

「あの人は例外です。男でも女でもない残念な方ですから」

「ちょっとなんでボクの悪口の話になっちゃったのさ〜」

 それに男でも女でもない残念な方ってほぼオカマのことを言ってる。

 そういうのじゃないのに〜と涙目で口論するが、彼が女性らしく何の解決にもならなかった。




「よ〜っす。束縛のヴェントだっけ?初めましてだよね〜。僕は篠春 実。ここの研究所の戦闘員なんだけど……聞いてる」

 カードキーを使って最先端な牢屋の中に入ると鎖や枷で身動きが制限されている男がただ黙って座っていた。、

「殺せ。この束縛のヴェントは敵の情けにかけられて生きながらえる気はない」

「元気いいね〜。でも死んだって僕たちは困らないからさ。ちょっとお話しようよ。疾風のシェーヌがどうなったとかさ。気になるでしょ」

 アラルが組み時は仲がいいか、お互いに利用するかだと二人の性格上前者だと簡単に予想できた。

「お前が生きるのならやられたんだろう。それぐらい俺にでも分かる」

「そ〜だよ。それもリブルちゃんじゃなくて僕がね」

 途端にこちらを睨む目が鋭くなっがそれは予想の範囲内だ。

「それでね〜。僕たちは君たちアラルについて良く分かってないんだよね〜。だからちょっとでもいいから知りたいんだよ〜」

「それだったら俺の体をいじって調べればいいだろ。どうして仲間を売る必要がある?」

「いやそれは他でやってるらしいんだよね〜。でもさそれって何か宇宙人みたいな扱いだよね。同んなじ人の形をしてるのに」

 見た目は同じなのにまるで未知の生物と接しているようだ。

 力があるだけに仕方ないかもしれないが実たちだってその力を自由に使える。

「ふん、知ったことか。とにかく俺らは無月を奪おうとして失敗した。その結果がこれだとしてもそれはお前らの力量を甘くみすぎた俺らが悪い」

「随分と潔いね〜。僕だったら泥まみれになってもここから逃げ出すよ」

 狭い場所が嫌いだからという理由もあるが、まず人がいない。人がいないと人はおかしくなる。

 そしてヴェントの中で絶対だった足も封じられているとなるともう希望などはない。諦めるか覚悟を決めるかだ。その中で彼は後者を選んだようだ。

「ふん、ここを逃げるなんて不可能だよ。ここからお前の仲間にすぐ捕まるのがオチだ」

 良く分かっている。この研究所には外と同様、いやそれ以上に監視カメラが設置されていてネズミ一匹さえも逃さない。加えて道は迷路のように入り組んでいて初めて来た者は必ずこれに苦戦する。実たちも咲の案内がなければどうなっていたか分からない。

「は〜、分かってないな〜。僕が言いたいのは意気込みだよ。どんなに難しいゲームにでも攻略法はあるんだからさ死ぬ気でやればいいじゃんってこと。どうせ死ぬんでしょ。だったら都合いいじゃん」

「お前……何を言いたい」

 捕まえた奴に説教して逃げろと言っているのだ。まるで得がないのに。

「あ〜、僕今いいこと言っちゃった。どうしよ〜。また千景ちゃんに怒られちゃうよ〜」

 この人は名言ブレイカーか?

 いい雰囲気だったのに実の空間に戻った。

「知るかよ。お前は俺に何をして欲しいんだ」

 彼は呆れて仲間を消した奴だとかもうどうでもよくなっていた。

「ん〜、流石に仲間になれだなんて言わないけど。せめて僕と話しぐらいしてほしいな。ほら、僕ってこんなんだから色々やらかしちゃって時があるんだ〜。その時は大抵千景ちゃんが追いかけて来てね。それはそれで嬉しいんだけど体力には自信なくてね〜。それでその千景ちゃんの方は陸上部だからいっつも捕まるのは時間の問題になっくるんだよ。そこでここ。モジャモジャ博士から君には何回も会って情報を聞き出すことにしておくよ。そうすれば考える時間ができるでしょ。僕は逃げ場所としてここを得る。どう?君がこれからどうするか決めるまでの救済措置としてさ」

 ギブアンドテイクとまではいかないが時間ができるという面ではお得なはずだ。その代わりにこの男の与太話に付き合っていればいい。子供でもできる簡単なことだ。

「……別に構わない。それとアラルに飯はいらないからそれまで放っといてくれ」

「やった〜♪それじゃあ何か話す気になったら呼んでね。どうせ僕暇してるから」

 勢い良く飛びたして行くとその場は嵐が過ぎ去った後のような静けさきみまわれた。

「変な奴だ……」

 何もすることはないがその変な奴の言葉が離れない。そしてこの時間をどのように使うかを考え始めた。




「そうか。まあ、俺も簡単に教えてくれなんて虫のいいことは思っていない」

 早速報告しに飛んで帰って来たが玄馬以外は誰もいなくなっている。牢屋までの距離が遠かったし、少し話し込んでしまったのだから仕方ない。

「だからこの鍵は僕に預けといてくれない?どうせ使わないでしょ」

 研究とかで忙しいだろうし、こよ人が直接行くことなどしなさそうだ。

「問題を起こさないならな。それとお前がいない間に今後のことを話していた」

「そんな〜、僕だけのけ者にしてそんな重要なことしてたの。まさか、皆僕のことが嫌いになってイジメを……。ダメだよ!ノーモアイジメ!」

 ノーモアの意味も知らずに合わせ技を使うが確かにイジメはいけない。何がおもしくてそんなことをするのかしている奴に問いただしたいくらいだ。

「別にイジメじゃない。お前の帰りがいつになるかも分からないのに待っているのは酷だと思っただけだ。今からお前にも教えてやる」

 そのつもりで待っていたし、実にも協力してもらうつもりだから話さないわけにはいかない。

「さっすが、モジャモジャ博士!」

「いい加減にその呼び方やめろ」

「駄目ですよ。この呼び方定着させて流行語大賞目指してるんですから」

「やめろ。教えてやらんぞ」

「それだけはご勘弁を。流行語大賞は諦めますから」

 それって遠回しに言うことはやめないってことだよな。

 だが実の戯れをいちいち気にしていたら日が暮れてしまう。

「……まあ、いい。実はリブルが目指していた場所へ一緒に行くことになった。ここから西に二、三十キロ進んだところにある洋館に保管されている本が欲しいそうだ」

「本?グラビアとか?」

 少なくともそれはない。というより本と聞いてグラビアが出てくるということはそういったもの読んでいないのだろうか?

「いや、リブルが言うには中身は白紙らしいんだが持った人が欲しいと思っている情報が文字として浮かび上がってくるらしい」

「へ〜、それは便利ですね」

 猫型ロボの秘密道具並みに便利だ。

「ギミックでつくられた本だろうが誰でも使えるらしい。これが手に入ればリブルが探していた全身ギミックの男も俺たちが知りたいこの世界について何もかもが分かる。だからこそ今回は必ず取って来てもらいたい」

 最後に命令系にできなかったのは彼がそれほど追い込まれている証拠。最近はアラルが現れる頻度が多く、更にリブルが来てどうしたらいいか迷っていたからこの本は喉から手が出るほど欲しい。

「いいですよ〜。それを手に入れればリブルちゃんが喜んでくれるんですよね。それだったら頑張っちゃいますよ〜」

 趣旨は違うがやる気になってくれたのならいいだろう。

「そうだな。出発は二日後だ。それまで準備を済ましておけ」

「は〜い。おやつは何円までですか?」

「遠足じゃないんだ。それと洋館までの食事はこっちで用意しておく。余計なものは持っていくなよ」

 心配だが研究の続きをしなければいけないのでついて行けないのは何とも虚しいと思ってしまった。




 古びた戸を鳴らしながら一室に入りこんだ少年は机に置かれた本を手に取った。

 革製で手触りはシッカリしていて本の暑さはそこらへんの辞書程度ぐらいはあって細腕の少年にとっては長時間持つのはキツイ本だ。

 腕が痛くなる前にと白紙の本をペラペラと適当なところで開いて止めて目を閉じた。

 そして数秒後にそっと開ける。

「やっぱりだ……お姉ちゃん。リブルがこっに近づいて来てるよ。二日後……。本がそう言ってる」

 白紙だった本には“二日後、リブルは必ず来る”と書かれてある。

「焦ったら駄目……」

「で、でもあのリブルだよ!これまでに色んな仲間が殺されてる。僕たちも……。ここから逃げようよ。本さえあればリブルから逃げ切れるよ」

 姉に本を突き出す。彼はこの本に絶対的な信頼を寄せている。どちらを信じると言われれば自分の力よりもこっちの方を選ぶだろう。

「それは無理……。本は私たちに情報をくれるだけ。それにここを離れるわけにはいかないわ」

「どうして!ここは父さんが残してくれた家だけど命の方が大事でしょ」

「そう……。だけどここには思い出がある。外にはそんなものない……」

「思い出?そんなの僕はいらないよ!ただお姉ちゃんが無事なら。なんでそれを分かってくれないんだよ」

「あ……」

 手を差しのばして止めようとするが戸が大きな音を立てて、それに驚き体をビクつかせた。

「いいよ。あいつは子供っぽいからいけね〜な。お前もそう思うだろ」

「そうですな〜。でもそこが可愛いとこちゃいます?」

 Tシャツにホットパンツの彼女は強気な口調で声が大きく部屋に響き渡るが、一方の彼女は浴衣美人でおっとした感じでそれを返す。

「二人とも……。そうだね。でもどう……しよう」

「リブルのことか?そんなもん返り討ちにしてやりゃあいいんだよ。何を恐る必要があるんだ。あの野郎噂なんかで怖気やがって」

 握る拳はプルプル震えて怒り我慢しているが、それでも凄い怒っているのは見た感じだけで分かる。

「まあ、まあ〜。それよりもどうします。本はあの子が持って行ってしまったわ」

「けっ!逆に考えろ。本と一緒にいた方が守りやすいだろうが」

「三人で……なんとか…する」

「そんな無茶苦茶な。でもどうせ地下に行ってるでしょうからそれを踏まえて策を立てましょうか」

 猶予は二日しないが何もしないよりはマシだ。

「そんなの玄関で待っててやればいいだろ。タイマンだタイマン!」

 両拳を合わせてやる気を見せつけるが二人はあまり乗り気ではない。

「戦う前提ですか。血の気が多いこと」

「あ?そうするしかないだろ。何かいい案があんのかよ」

「ないから今から考えようとしてるんやないですか」

「なんだと?文句があるならハッキリ言いやがれ!」

「文句言ってるわけやない。ただ冷静になって考えてみたらって提案しとるだけや」

「そんなの文句と一緒だ」

 顔をズイズイも近づいていき目から火花がばちばちと飛ばす中、もう一人がおずおずと手を挙げた。

「あ、あの……策なら」

「なんや、思いついたんか?」

 策なんて考えつかないので頼るしかないので強く詰め寄る。

「え、そう…だけど。そんな大したのじゃないし……」

「言うだけ言ってみてください」

 二人からの期待の目が痛いが喧嘩が始まるよりはいい。

「じゃ、じゃあ……」

 オドオドした彼女は思いついた策を口した。

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