疾風のシェエーム
「リブルちゃん。これなんだか分かる?」
「か、紙おむつだがそれがどうかしたのか主よ」
実の手に持っているのは誰でも見たことがある紙おむつだ。常識が頭に埋め込まれているリブルでもそれぐらいはわかる。
このスーパーには何でもある。CMでもいらない物も揃ってるというので有名だ。
「そう。赤ちゃんが良く使う紙おむつだよ」
「何か今回のことと関係が?」
「いや、特にないけどただ一つ言いたくて仕方ないことがあるんだ」
どうせ急がなくてはいけないというわけではない。ちょっと雑談をしてても問題はない。
「僕はこれが嫌いなんだ。だっておむつってパンツじゃないんからね。だから萌えない。リブルちゃんは今日はどんなパンツを履いてるの?」
何故紙おむつの話からパンツの話につながるかは理解できないが、無視するのは可哀想だ。
「え、え〜。それは絶対に言わなくてはいけないのか?」
世界各地を回ってはきたがこんな質問は初めてでどう答えていいか分からない。いや、分からなくてもいいんだけど彼女は真面目なのだ。
「う〜ん、その受け答えは萌えだよ。でもまあ、いいよ。ちょっとした好奇心だからそれほど重要なことじゃない。あ、いやでもそれは話をすることに困らないってことで本当はめちゃくちゃ見たいよ」
手が千切れるほど振って否定する。
誰だってそうだ。本能には逆らえない。それは変態だって同じこと。どんなパンツかな〜と思ってしまう。
「いいですから続けてくれ。主のそういった話はやたらと長い」
相手が待ちくたびれて帰ってしまうかもしれないほとだ。彼の性格は極端なので分かり易い。それに千景からの予備知識がある。これはレッスン3にあった“スイッチが入るとやたら喋る”だ。
「そもそもパンツを愛する者は多くいるけどパンチラ派とパンモロ派に分けられんだ。パンチラは有名だよね。スカートの中からチラッと見えるあれだよ」
エッチ系のアニメとかには良くあることだが実際に見た人は少ないと思う。もし見たという人はご連絡してほしい。
「パンチラの良さはなんといってもチラリズムだよね。あの感じがなんとも言えないよ。そんなことが体験できるラッキースケベは憧れの的だよ。それとパンモロ。まあ、略さずに言うとパンツモロミエテルーなんだけどこれは現実ではレアだね」
パンモロを見た、体験したという人はリア充確定なので非リア充を敵に回したと考えてください。
「パンモロはパンチラより知名度が低いかもね。でもねモロはモロなりの良さがあるから派閥ができたんだよ」
「ぬ〜、つまり主は何が言いたいのだ」
真面目に聞いてたリブルは何か意味があると思っているらしいがこれはただパンツの話をしているだけだ。
「つまり、パンツ、それは魅惑の響き。全ての男に夢とロマンを与え絶望の中の一筋の光。生きる希望なんだよ」
まあ、これでお話は終わり。結論から言うとパンツバンザイ!ということが言いたかっただけ。
「は、は〜。なるほど。それで主は一体何派なのだ。念のために聞いておこう」
多分、というか絶対に必要ないだろうが真面目すぎる彼女は気になってそんなことを聞いてみる。
「ふふん、僕はどっち派だとかじゃないんだよ。チョコのお菓子でもどっち派かで戦争が起こっているでしょ。僕はそれが嫌なんだよ。なんかそれが絶対で他は全然ダメ〜みたいな感じの雰囲気が。だからこそ僕はどちらにも属していないんだ」
属している方を否定するわけではないが実はそういうのに参加するのは嫌なのだ。
「なるほど。争いを好んでいないと。実に主らしい考えだな」
初めて会った時もそうだった。話し合いで解決したいと言い出している。それにその後のリブルは隙だらけだったのに攻撃しなかった。
「だがそんな主がなんであそこで挙手をしたんだ。こういうのは他の人に任せると思ったのだがな」
後は仁しかいないが彼のイフトリガーならどんな的にでも対応できる。
「ん〜、リブルちゃんにかっこいいところ見せたかったからかな〜。やっぱり男としてビシッと決めておかないとね」
このままでは変な話をする人になりかねない。まあ、その変な話をする人が変な人になる。
「そういう冗談はいいから本当のことを言ってくれ主。別に次の敵は私一人でも十分だ。大した理由がないんだったら邪魔はしないでくれるか?」
相手は一人に対してこちら二人。誰かが余ってしまってしまうは仕方ないことだ。
「違うんだ千景ちゅん。僕は自分がどれくらい行けるか確かめたんだ。それに僕は男として女性であるリブルちゃんばかりが苦労するなんて耐えられないんだ。それともそんなに僕が信じられないの?」
ウルウルとした目で訴えかける。
「あ、主……。わかった。私の負けだ。ただし危険になったらすぐに助けに入るから邪魔をしない。そして絶対に無理をしない。この二つを守ってくれるなら許します」
「は〜い。やっぱりリブルちゃんは優しいね」
「な、これは主に死なれたら困るだけであってそれ以上でもそれ以下でもない!」
そっぽを向いて顔を赤らめるリブルちゃん可愛い。目の保養目の保養。
しばらくその様子を拝んでいると突然上から声が降り注いできた。
「ぬーはっは。どうやら話はまとまったようだな。待ちくたびれたぞ」
「だ、誰だ!」
古典的な反応をして声のする方向へバッと視線を向けるリブルに実も合わせる。
そこには子供が遊ぶスペースがあり、そこに良くあるちょっと硬いブロックを天高く積み立て、その頂上に片足立ちをしている赤髪の男がいた。
「ようぞ聞いた。俺は疾風のシェーヌ。辻斬りのリブルが持つ無月を頂きに来た」
台詞は悪役っぽくてかっこいいのだが言う場所が場所なので上手く聞き取れないし、上すぎて顔を上げるので首が痛い。
「そんなの渡すわけないだろ。特にお前みたいに変なことをしている奴には余計にな」
「仕方ないだろ。お前たちが来るのが遅いからこうやって、時間を潰してたんたら結果的にこうなったんだ」
「それって馬鹿だね〜。子供でもしないよそんなこと」
聞けるように大きな声で言ってやるともう飽きたのかそのブロックの塔から飛び降りるとそれは音を立てて崩れ落ちた。
「お前ムカついた。まずはお前から殺してやる」
先ほどとはまるで違う雰囲気を漂わせて実にジリジリと近づいて来るのを危険だと思ってリブルは手を無月に置いて構えたが突然下から黒い鎖が現れて、手元にあった無月をあらぬ方向へと飛ばしてリブルの体を近くの柱に縛り付けた。
「ぐはっ!な、なんだこれは」
いくらもがいても食い込むばかりで、断ち切ろうとにも無月は手を伸ばしても届かない距離にある。
「ぬーはっは。俺がただ待っていたとでも。辻斬りのリブルの噂は嫌になるほど聞いていたからな。そこら中に罠をしかけて置いたのだ」
その一つにはまってしまったリブル。これでは実に何が起こっても助けにいくことはできない。
「なんてことを。鎖が胸に食い込んでエロ……痛そうじゃないか!」
「主、今本音が出ておったぞ」
もがくことは逆効果だと学習したリブルは動くことを避けたが口だけは動かせる。
「どうだ。羨ましいだろ。俺のギミックは強いし、こんな事だってできるのだ」
「ふふん、全然羨ましくないね。おかげでもがいてる最中にパンチラを拝ませてもらったからそれで十分だもんね〜」
そうここで序盤のパンツの話が役に……立つ?
「な、なに!パンチラだと」
「そうだ。いいだろ〜羨ましいだろ〜。でもお前なんかにどんなパンツだったなんて教えてやんないもんね〜」
子供を通り過ぎて幼稚園児の喧嘩だ。馬鹿馬鹿しいにもほどがあると柱で黙っていて、話題にされているら者はため息をついた。
「くっ〜〜〜。こうなったらムカつく!本当にお前を殺してやる」
顔が般若みたいに変形して怒りを露わにしてくる。
「でもさ〜。僕らが来る前に罠を仕掛けたとか言ってたよね〜」
「あ?それがどうした。そうか、やっぱり俺のギミックに怖気ずいたか。そうだろそうだろ。一歩も動けないだろ〜」
さっきとは打って変わってもの凄いドヤ顔をする。なんだかこの人はこういう時に生き生きする。
「うん、そうだけもお前ちゃんと自分が仕掛けた場所とか全部覚えてんの」
数は知らないがブロックで塔を建てるほど時間に余裕があったようなのでこの辺りはほとんど危険地帯だろう。
「も、も、もちろんだぜ。だが俺のギミックは近づいて攻撃するとかそういうのじゃないからな〜。ここでお前が死ぬまで見学でもしてよ〜かな〜」
足をガクガクさせながらも強がっているがこれは百パーセント忘れている。
「ふ〜、なら今すぐそっちに行くから待っててよ。一発で終わらせてあげるから」
既に溜めは完了している。迷いもなく一歩を踏み出した。
「い、一発だと〜。しかも俺が仕掛けた罠をすり抜けるなんて出来るわけないだろ」
そりゃあ仕掛けた本人ができないなら他の人なんて不可能だ。しかし、実には策がある。
「ふふん、こんなの赤子の手をへし折るぐらい簡単だよ」
「それは虐待です」
様子を見ていたリブルがツッコミを入れる。みんなもやってはいけないよ。
そんな冗談が言えるほど彼は平常心でシェーヌの元へと近づいて行く。
「な、なんで来れるんだよ〜。お前は怖くないのか?下に罠が仕掛けられてるんだぞ。リブルはたまたま拘束用だったが次は杭が仕込んであるやつが出てくるかもしれね〜んだぞ」
恐れと戸惑いで情報を漏らしながら叫び続けるその姿は憐れというより、虐待に怯える子供のそれに近かった。
「何でって、そりゃあ〜僕が僕を信じてるからさ。もちろんリブルちゃんや千景ちゃん。祐たんのこと。仲間のことも信じてる。嘘が力になるこの世界だから信じることが仲間を救うことになる。そしてリブルちゃんはこんな僕を信じてくれた。だからこそうして歩いていられる。お前たちの敗因をあげるとすれば仲間がいなかったことさ。本当に信じられる仲間がね」
とうとう目の前まで来た。其の間罠が発動するどころか靴音に一つ立たなかった。
「……最後に聞かせてくれ。お前はこの世界をどう思っている」
「そうだね。可愛い子が多いけど静かすぎるところかな」
本心からの言葉だった。
「そうか……。ならお前が変えるとこをあの世で見ているよ」
罠系のギミックで攻撃手段などないし、全て周りの罠に使ってしまっている。お手上げ状態だ。だからこそ
「クライムイーター」
手をかざすと黒い何かが海賊の剣のような形状となり、体を真っ二つに引き裂いた。
するとリブルの体を縛り付けていた鎖は溶けて消え、晴れて自由の身となった。
ギミックは発動した本人が消えるとそれに応じて全部消えることになっている。だからなんの迷いもなく最短距離で実に近づけた。
「主、これはすごいな。一体何をしたんだ」
「簡単だよ。踏んだら反応するタイプみたいだったから靴にギミックで小さい棒をつくって直接踏まないように気をつけたんだよ」
「ではいつを嘘をついたのだ?」
そんな素振り一切なかった。ただ子供っぽく喧嘩していたことだけは覚えている。
「ふふん、やつと会う前。パンツの話をしていた時だよ。僕は中立な立場とか言ったけど本当はパンモロ派なんだ」
彼の勝因は自慢できないものだが胸を張ってそう言い切った。
「これは面白いことになったわね」
その全てを監視カメラをハッキングして見ていた二人。
「ああ、あの二人。危険な匂いがプンプンしてきた。特に男の方は今後化けるぜ。早いうちにやっとかないと俺たちの身もやばくなってきやがる。まだ新しい依り代も見つかっていないというのに」
まだ水晶玉の周りにグニュグニュしたスライムを纏わり付かせている。
「あら、別にそのままでいいじゃない。その方が面白いわ」
「面白いとか位ってられねーよ。これ不便なんだよ。移動する時おせーしよー」
だから移動が速くできるバイクは戦闘能力とかなしで気に入っていた。
「相変わらず頭が固いわね。あの変態さんを見習ってほしいところだわ」
「するかよ。でもマジでとうにかしないとまずいぞ。俺たちが直接動くか?」
「まだよ。時を待たないと」
ライオンはウサギを狩る時でも全力を尽くす。
「なら、こいつらが力つけていくところを見てろってか?情報じゃない。相手には世界各地を回って情報を腐る程持ってるリブルだ」
「だから問題ないと言ってるでしょ。次はあの姉妹が仕掛けるみたいよ」
「なに!あいつらが動きだきたのか。ならこいつらの情報は掴んでいるな」
「理由なんてどうでもいいわ。それよりも準備をしておきなさい。もうそろそろ出番よ」
少女は口角を吊り上げみせた。