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エンドレスフール   作者: 和銅修一
16/21

束縛のヴェント

「本当に先輩とリブルさんを一緒に良かったんでしょうか?」

「まだ言ってるの?玄馬さんも言ってたでしょ。そんな暇なんてないよ。そんなことよりボクたちは束縛のヴェントさんと戦わなくちゃいけないんだから。千景さんは本格的に戦うのこれが初めてでしょ」

 そういえばそうだ。ライダーの時はただ見ていただけ、リブルの時は着いた時にはもう全部終わっていた。

「先輩も……そうですね」

 ライダーの時は一緒に祐のドロップキックに唖然したり追いかけてパンクさせたがそれだけだからノーカン。リブルの時に関しては話し合いで解決しているから一切戦っていない。

「あ〜、そうだね。でもなんでいきなり戦う気になったんだろ」

 どちらかというと玄馬や咲のように安全なところで傍観しているのがお似合いだ。

「多分、あれなんじゃないですかね。自分のギミックを試したいとかじゃないですかね?子供が新しいおもちゃを買ってもらったら他のものに目もくれずに遊ぶあれと同じですよ。きっと」

 高校生なのにたまに子供っぽいところがあるからきっとだ。自分でだって見た目は高校生、中身は小学生とか言ってた。

「まあ、ボクも分からなくはいかな〜。やっぱり人間って試さずにはいられないもんね。千景さんはそうおもわない?」

「思いませんね。逆に使いたくないと思ってます。私っておかしいですかね」

 なんだか話や聞いていて自分が間違っているのではと思ってしまった。それに祐は人間って言うので自分は本当は人間ではないのかもしれないとも。

「いえ、そんなことないですよ。千景さんはあれなんですね、無駄な戦いをしたくない優しい人なんでね」

「優しい……人」

 救われたような気がした。

「そうだよ〜。だから実くんにも優しくしてあげたら?」

「それは無理です。隙を見せたら一瞬のうちにやられます」

 経験者は語る。

「え〜、そんなことないと思うよ。実くんは普通に優しいし、いろいろと気遣ってくれるよ」

「それは祐さんが可愛いからです。先輩の本性はムカつく男性にだったら鬼になる裏表ありありの人なんです」

「ん〜、実くんはそういうのなさそうだけどな〜」

 変態が表だとしたら裏が想像できないし、そんな器用な人でもなそうだ。

「とにかく祐さんも気をつけておいてください。いつ牙を向けてくるか分かったものでありません」

「ボク男なのに〜」

 毎回こんな扱いで嫌になってきた祐を置いて千景は覚悟を決めてスーパーに入ろうとすると見慣れない看板があった。

 “こっち”と矢印だけが書かれた看板だ。

「もしかしてこれが果たし状を送ってきた人がいる方向かな?」

「まさか、罠かもしれませんよ」

 このスーパーにいるのは咲の未来予知で分かっているが「ごめんなさ〜い。詳しい場所は分からないの〜」ということなので自力探すしかないのだが流石にこれはない。

「でもこれ以外手がかりないだから騙されたと思って行ってみよ」

 嘘が力となるこの世界でそれは駄目じゃね?と思いつつこんなだだっ広いスーパーを探し回るよりかは騙される方がマシだ。

「う〜ん、まあ、そうですね。でも注意してくださいよ。いつ敵が現れるかわかりませんから」

「大丈夫だよ。ボクの肉体強化は反射神経も良くするからね」

 仕方なくその看板に従って進んで行くとまた同じような看板があり、矢印の方向へ。

 それを何回も繰り返して看板が見当たらなくなった時には日用雑貨のコーナーまで来ていた。

「ふーはっは。遅かったな人間」

 ティッシュの山の上に片足立ちで両手を広げてポーズを決める緑髪の青年が高らかに声を上げる。

「あなたが束縛のヴェント?」

「そうだ〜、俺が束縛のヴェント。相手がリブルじゃないことは残念だがちゃんと相手をしてやる」

「待ってください。その前に何故戦わなくてはいけないのな教えてください」

「な、何故?え、え〜とそれはリブルが持ってる無月を奪うため……だけど」

 予想通りだ。玄馬もそう言っていた。

「それって私たち関係なくないですか?あなた達の目的が無月ならそれを持ってない私たちと戦う理由なんてあるの?」

「いや〜だってお前達理由リブルの仲間だろ?だかさ、その……ええい!そんなのどうだっていいや。とりあえず俺と戦って死んでくれればいいんだよ」

 それはアラル本来の目的だ。どうやら考えるのが苦手らしい。

「千景さん下がっていてください。ボクが相手しますから」

 ギミックは既に発動している。ヴェントに女だと思わせることに成功したらしい。

「女二人か……。だが俺は手加減せんぞ。トゥ!」

 ティッシュの山からジャンプして同じ目線の高さになった。

「せいや!」

 先に動いたのは祐だ。牽制の右ストレートを放つが当たらない。

 左も当たらない。フックも当たらない。アッパーも。

「ど、どうなってるんだ。ボクの攻撃がことごとく避けられていく」

 肉体強化されてパンチは目にとまらないのだが、ヴェントはそれ以上の速さで避けてしまう。

「遅い!遅い!遅い!拳が止まっているように見えるぞーーー」

 挑発の仕方がバカっぽいがそれでも速い。千景は目で追うのがやっとだ。

 そしてよく見ると足が黒に染まっている。

 最初はニーソ?男なのに気持ち悪い。まさかあっち系の人?と勘違いしてしまったがギミックで足を覆って速くしているだけだった。

 全体的にギミックをかけている祐とは違って足に集中させることで上回っているようだ。

「動きさえ止められれば……」

 射程距離は拳が届く範囲。しかし、それを高速移動しているものに当てることは容易ではない。

「ふっーはっは!そんなこと不可能だ」

 肉体強化された祐でもその動きについていけず、四方八方からの蹴りを防御することしかできない。

「私は無視ですか……」

 縦横無尽に動くヴェントの移動パターンの外に出されていてただジッとしていることしかできない。まるで高速で回される大縄跳びの前に立たされた気分だ。

「どうやらこっちの方が強そうだからな。先にこいつを倒して次にお前の相手をしてやる」

 各個撃破は正しい選択ではあるが千景が邪魔できないと決めつけているところからしてやはり頭が足りていない。

「祐さん!こうなったら出し惜しみはしませんから隙をつくってください。その後は私が何とかします」

「隙をつくるだと?ふっーはっは!無駄無駄〜。この足がある限り隙などでき〜ん」

 と叫びながら祐の真っ正面に現れて凄い勢いで突っ込んで来た。

「後は任せます!」

 この時を待っていたとばかりに床を拳で壊してその破片を周辺に撒き散らす。

「うわっぷ、ぷ」

 それらは思惑通り、ヴェントの顔に当たりそれを手で払うがその時に隙ができた。

「これで終わりです」

 払い終わって見えた光景は祐が出来るだけしゃがんで後ろの千景がヴェントが見えるようにしているものだった。

「くぅっ!」

 咄嗟にご自慢の足を盾の代わりとして構える。

 その時にはいつもは頑なに下げないマスクを顎のところまで下ろして犬のように鋭い歯を見るがそれはお歯黒にしかのごとく黒い。

「ライカノン!」

 歯の黒は大きく開かれた口の前に集まり一直線に飛んでヴェントの足に当たったが、ただ吹き飛ばすだけに終わった。

「ふっーはっは。どうやらお前らの策も不発に終わったようだな。ならば今度はこちから……」

 一歩で飛んで斜め右にある柱に飛んでそこからさっきと同じように攻撃を仕掛けようとしたがその前に足に違和感があった。

 足が急に重くなったのだ。今までは羽が生えたように軽かったのに、それがもぎ取られてしまったかのようだ。

「まさか……ギミックの無力化?」

 足を包んでいた黒色がなくなっていたのでそれぐらいヴェントにでも想像できた。

「そういうことです。」

 最後にとどめを指したのは祐の拳。当てたのはお腹だし、ギミックがなくなっているので簡単に気絶させることができた。

「思った時より手強かったですね。一体いつ嘘をついたのやら……。こんなに溜めてるなんて」

「ん〜、それがね。ちょっと異名のことが気になって調べてみたんだ」

「異名?あ〜、束縛のヴェントっていう変なやつですか」

「うん。そしたらねヴェントって風っていう意味らしいですよ」

 何で調べたかどうかはまず置いておこう。

「束縛の風……。意味が全然合ってないですね。まさかここで嘘をついていたんですか?」

「そういうことになりますね」

 手紙でもそう書いてあったがそんなもの何とも思わなかったが、どうやら結構重要な部分だったらしい。

「やられましたね。だとすると先輩のところも」

「疾風のシェーヌですね。たしかシェーヌは鎖という意味でしたね」

 疾風の鎖……。また何とも言えないミスマッチ。これが彼らの強さなのだろう。狙ってやったのか無自覚なのかは知らないが恐ろしい。

「でも心配いらないんじゃないんですか?実くんにはリブルさんがついていますし」

 無月を持った彼女は無敵だ。監視カメラで撮ってあった映像を見たので安心して任せられる。

「それが心配なんですよ。先輩、変なことしてなければいいですが」

「へ、変なことって……。それよりもこの人をこのままにしておくわけにはいきませんね」

 肩を持って帰る支度をする。

「私も手伝いましょうか?」

 一応、男だから心配いらないかもしれないが何もしないのはムズムズする。

「いいえ、まだ肉体強化が残っていますから千景さんは休んでいてください。あれだけの量のギミックを使ったんだから疲れているでしょ」

「これぐらい大丈夫です」

 いつの間にかマスクはいつもの定位置におさまっている。

「でも、一体いつ溜めてたの?そんな素振りなんてなかったからその前ってことだけよね」

「そ、それは秘密です」

 このあともいくら聞いても教えてはくれなかった。余程恥ずかしいのだろう。

 何はともあれこれで一人片付いた。後は実たちの方だけだ。

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