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エンドレスフール   作者: 和銅修一
14/21

案内

「ライダーの破片だが検査ではあの残骸からは何も検出されたかったそうだ」

 リブルの加入が決まると研究員らしいものが部屋に入って来て玄馬に耳打ちすると結果がすぐに発表された。

「つまり、どゆこと?」

「あれはただバイクだって事だ。どうやらライダーの正体は物に寄生できるアラルだったらしいということだ」

 もし、バイクが本体だったなら何らかの反応があるはずなのにそれがなかったという。

「寄生か……。そんなやつ初めてだな」

 腕を組みながらこの研究所に長くいるという仁もそれには驚いたようだ。

「確かにそうだな。しかし、これはいい情報になった。これでアラルには人型だけでなく様々な形をしたものもいるということが判明した」

 情報の入手率が日本にとってはこれだけでも世界にアピールできるまたとない機会だ。玄馬は喜ばすにはいられない。

「でもさ〜、それってアラルがどうかの判断が難しくなったてことだよね〜」

 寄生できるアラルがどれだけいるのかはまだわからないが、バイクだけでなく皆が警戒しない身近なものにも何だってなれる。

 そうなると絶対的に後手の人間は外を歩くだけでもビクビクしなければならない。食料の調達も困難となる。

「ですが寄生するアラルなんて初めて聞きました」

 世界各地を飛び回ったリブルでも知らないならかなり珍しいアラルらしい。

「なら、寄生型はあいつだけかもしれんな。それだったら何とかなる」

 たった一体だけなら無視をしてもそんなに被害は出ない。

「それよりリブルちゃんにここの案内をしてあげてもいい?大丈夫なんでしょ」

「ああ、別に大した問題ではない。監視の目を少し強くすればいいだけだ」

「なら、僕はリブルを案内してきま〜……」

 手を引いて陽気に部屋から出て行こうとしたのをガシリと服の首周りを掴んで止めたのは他の誰でもない千景だ。

「先輩が何を考えているかなんてお見通しです。リブルさんと二人っきりになって何かしようとしてたんじゃないんですか?」

「ま、ま、ま、まさっか〜。僕は良心でここを案内してあげよ〜っていうだけだよ〜。あわよくばスリーサイズを測ろうだなんて思ってないよ〜」

「やっぱりそうなんじゃないですか」

「イヤイヤイヤ。これは言葉のあやだよ〜。ちなみに千景のスリーサイズはお胸よりお尻がっぺい!」

 ほとんど言いかけたところで繰り出されたのは記憶が吹き飛ぶのではないかと心配してしまう後頭部への打撃。

「みなさん。お騒がせしてすいません。案内には私もついて行きますので安心してください」

 一礼してズリズリと倒れたそれを引きずって行く千景に戸惑いながらリブルはそれについて行った。

「やっぱり実くんと千景ちゃんは仲がいいんだね」

「というかペットと飼い主って感じだったぞ」

 お気の毒様と心の中でつぶやいた。




「ここは食堂です。たくさんメニューがあるので飽きることはないですよ」

 何故か設備がいいので自慢するところは他にもあるが一番最初に思いついたのはここだ。

 玄馬の部屋からそう遠くない場所にあったのですぐに到着した。

「ほ〜、旅ではちゃんとしたものを食べられなかったからこれはありがたいな」

「ん〜、それはいいんだけさ。なんか後頭部が痛いんだよね〜。二人ともなんか知らない?」

 痛みところを摩りながら視線を二人向ける。

「さあ、何処かに頭を打ったんじゃないでしょうか?残念ながら私は見ていませんが」

「ふ〜ん、リブルちゃんも?」

「あ、ああ……私は何も見ていない」

 何かに怯えた様子だったがこれ以上聞くことは可哀想だったのでそういうことにしておいた。

「んじゃあ、次はお風呂場に行こ〜う」

「行きませんよ。案内は私がしますから先輩は黙っててください」

「そ、そんな〜。横暴だ〜。タオル姿のリブルちゃんを拝ませろ〜」

 本能爆発。全身タイツでピッチピッチの姿もいいがその下にあるお肌を見てみたい。というか見るのだ。

「駄目ったら駄目です。リブルさんが困ってるじゃないですか」

「いや、別に減るもんではないから見せるぐらいなら構わないが」

「ほんと?ほんとほんとほんと?」

 意外な一言に思いっきり食いつく実はグイグイと顔を寄せて迫った。そのしつこさは蛇にも負けないだろう。

「あ、あー。この傷を否定しなかったのはお前が初めてだし、なんだか可哀想に思えてきてな」

 後頭部の件もだが様子を見てて凄い舐めて来るけど邪魔者扱いされている子犬みたいだと思った。

「だ、駄目ですよリブルさん。この変態は隙を見せると襲ってくる狼なんですよ!」

 リブル詰め寄っていていた実の顔を押して遠ざけて子供に言い聞かせる様に注意するがそれは全く通じない。

「狼?具体的にどういったことをしてくるんです」

「そ、それは……」

 言えるはずもない。しかも頭はいいけどちょっと抜けているところがあるこんな()に教えたら今後どうなるか……想像しただけで恐ろしい。いや、一番危惧すべきなのは先輩が間違ったことを教えること。その前に自分がなんとかしくては……。

「あら、騒がしいと思ったらハルハルたち帰ってたんだ〜」

 頭の中で苦戦を強いられていると今まで姿を現していなかった咲が急に出てきた。

「あ、咲さん。今まで何処にいたんですか?玄馬さんのところにも来なかったみたいですけど」

 他は全員揃っていたのでどうしたのかな?と心配していたので会えたホッとした。

「それはあれだよ〜。道に迷ってたらもう終わってた〜みたいな感じだよ〜」

 確かにおっとりしているし、リブルよりダントツに抜けているところがありそうなのでこの広大な研究所は彼女にとっては迷路かもしれない。

「ほ、方向音痴(ほうこうおんち)()。略して……」

「コラーーー!それ以上言ったら怒ります!」

 付き合いの長い千景はその後にピー音が入る単語を言おうとしたのが分かったのでガチ切れしたが、それが分かってしまった自分がなんだか虚しい。

「あらあら〜。仲が良くても喧嘩はダメよ〜」

「いえ、雨降って地固まるということわざがあります。それに先輩はこれぐらい言わないと怒ります」

「でも〜あれ〜」

 ゆったりしたペースで差された方向には隅っこで体育座りをして何かをブツブツ言っいる姿があった。

「ま、またですか」

 祐が男だと判明した時もこうだった。毎回こうだとめんどくさい。

「はう〜、千景ちゃんに怒られた。初めて会った時はこんなことなかったのに、僕のことが嫌いになったんだ。きっとそうだ。千景ちゃんに嫌われたなら僕が生きてる理由なんて……」

「なんか話が飛躍してますね」

「ですね〜」

 まず最初からマイナスだったのでこれ以上下にならないし、変な人だということは今までのことで学んでいるので嫌いになるとかそういうのはない。

「元気出して」

「リ、リブルちゃん……」

 慰めるかのように体育座りをした実の肩をポンと叩くと涙目の顔が上がった。

「大丈夫ですよ。謝れば許してくれます。私も一緒に謝ってあげますから」

 子供が悪いことをして親に怒られてしまった時みたいな展開だ。

「リ、リブルちゃ〜〜〜〜〜ん!」

「ひゃ!」

 感極まって飛びつくと顔が谷間にフィットして無防備だったリブルは可愛らしい声を上げて戸惑う。

「やっぱりリブルちゃんは僕が思っていた通りの娘だよ〜」

 谷間に中で顔を擦り付けてその感触を味わい至福の時を得る実だがやられているリブルはどうしていいか分からず、硬直状態でアタフタしている。

「いい加減にしてください!」

 それを助けるために今日何度目かのゲンコツを後頭部に振り下ろした。




「酷いよ千景ちゃん。こんなに強く叩かれたら僕の脳細胞が死んじゃうよ〜」

 ほんの少したんこぶが出来上がってしまうほど痛く、今なお摩り続けているが一向に痛みがひかない。

「大丈夫です。先輩の脳細胞は全部腐ってますから死のうが何ら問題はありません」

「なんかここに来てから千景ちゃんの態度が冷たくなってきた気がするな〜。あ、そうか僕が咲さんやリブルちゃんと仲良くしてるからヤキモチを焼いてるのか〜。それならそうと早く言ってくれればよかったのに〜」

「全然違います。やっぱり先輩の脳細胞は腐ってますね。私が先輩にヤキモチを焼くなんて地球がひっくり返ってもあり得ませんから」

 冗談で言ったつもりなのにそこまで言われると結構へこむ。

「篠春 実。あれが前に言ってた妹のように可愛がっている後輩なんだろ」

 名前も聞いていたし、この研究所で彼のことを先輩と呼ぶのは彼女しかいないのですぐに分かった。

「ん〜、リブルちゃん。その前にその呼び方やめてよ〜。せっかく仲間になったんだから好きに呼んでくれていいよ。咲さんみたいにハルハルとかでも」

「いえ、それは遠慮しておきます。それに手を組むのは一時的なものと決めています。ずっといたらこれを狙って来るものがあなた達も襲うかもしれません」

 そう言って頑なに離さない刀を実の目線に合わせて出して警告する。

「あ〜、確かに無月だっけ〜?」

 リブルの一族が滅びる原因になった忌まわしい刀。好奇心でチョンと人差し指で触れてみるとそれはガタガタ震え出した。

「な!これは……」

 しかし、それは一瞬で収まった。

「ふ〜、ビックリした〜。壊しちゃったかと思ったよ〜」

 そんなことになったら直せないし、リブルを悲しませてしまうことになっていたところだ。

「無月が反応した……ということは」

 震えの原因であろう実を見つめて昔のことを思い出す。

「ん?僕の顔に何かついてる?」

「いや、大婆様から聞いたんだがこれには意思があって、動く時があるらしい。それができるのは絶対の悪を滅ぼす勇者だけと……」

「ん〜、つまり今僕が無月を触ったから動いたから僕は勇者ってことかな?」

 話の流れからして必然的にそうなる。

「そうなる。そして私たち一族はその勇者の手助けをするためにつくられた。そういえば呼び方は何でもいいと言っていた……」

「そうだけど〜それが何?」

「ならばこれからは主と呼ばせてもらう」

「い、いや〜僕的にはご主人様のほうが……」

 まだ一度もそんな風に呼ばれたことなんてないのでちょっと期待なんかしてみたり。

「ならご主人様で」

「じょ、冗談冗談。主でお願いします」

 まさか食いついてくるとは思わなかった。

 流石にこんなクールな感じの女性が真顔でご主人と言ってくると違和感があるのでまだそっちの方がマシだ。

「でもさ〜、僕は世界を元に戻したいだけでその〜全身ギミックの化け物と戦う気なんてないんだけど」

 玄馬の話からいない可能性の方が高いが、もし戦うなんてことになったら勝てる自信があるでない。

「世界を元に戻すこととあれを倒すことは同義ですから心配しなくても大丈夫です。我が主」

 う〜ん、それはそれでまずい気もするがとりあえず我が主とかなんか新鮮でいいね!




「遅かったな。何をしていた」

「少しぐらい大目に見てくれていいじゃな〜い。ちょっと道に迷っただけよ」

 玄馬の部屋には珍しくまた客が来ていた。

「俺と二人でここを設立したのにか?」

「え〜、そうだったけ?随分前で忘れちゃってるかも〜。ここ設立してもう何年経ってるっけ?」

「そんなもの数える趣味はない。さっさと報告してここから出ていけ」

「あら、随分と嫌われてるみたいね。なんでそんなに怒ってるよかしら」

 昔からの付き合いでほんの少しの違いも気づかれてしまう。

「そりゃあ、面倒ごとが立て続けにきたら誰だってストレスが溜まるだろ」

「面倒ごと?それってリブルちゃんのこと、それともハルハルのこと?」

「両方……といえばいいのか?俺にとっての面倒ごとはお前だ。お前と話していると無性に腹が立つ」

 親に何度も「ハンカチ持った?」とか言われた時のあれに似ている。

「そう、やっぱり私のことが嫌いなんだ〜。ハルハルは素直で可愛いのにこっちは棘があるわね〜」

「報告……」

「そうだった〜。これから二日後ぐらいにシェーヌとヴェントっていうアラルが動き出すみたい」

「二日後か……。随分と早いな。リブルが仲間に入ったばかりだというのに」

「それで私はどうしてらい〜い?」

「いつも通りだ。ここを守ってさえくれていればいい。そら、報告が終わったんなら出て行け」

「は〜い」

 しっしと虫を追い払う仕草で報告を終えた咲を部屋から出した。

「また待機か〜。外にでてみたいな〜」

 ドアを閉めてポツリと愚痴を言うが誰にも届きはしなかった。


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