新しい仲間
「急がないと先輩、喧嘩弱々ですから死んじゃいます」
「分かってるけどこれがフルスピードだよ〜」
肉体強化でビルとビルを飛んで千景を背中に乗せて移動しているが一向に実の姿が見当たらない。
「なんで玄馬さんはこんな遠いところに私たちを待機させたんですか。これだとすぐに助けに行けないじゃないですか」
「こっちにリブルが現れる可能性もありましたから仕方ないですよ。それにボクがいればこの距離でも大丈夫だと思ったんだよ」
この移動もまだ一分しか経っていないがあともうすぐで実たちのいる道路に出るはずだ。
「先輩が勝てるわけないのに……。玄馬さんは読みが甘いですね」
「仁さんがこんなに簡単にやれれるとは思ってなかったんだよ。多分マックスまで溜められなかったんだろうね。でなかったら相手がリブルでもこんなに早く負けるはずないもん」
もんってお前何者だよ、と女子力の高すぎる男の娘を背中の上から見つめながらもその確信めいた口調で話された内容が気になった。
「溜められたら倒せたんですか?」
「ん〜、どうだろう。でも互角の戦いはできると思うよ。ボクでも万全の仁にはかなわないから」
あの湖を走り、バイクに乗った人形にドロップキックをかました男よりも強いなんて想像できない。
「そうですか……。相当強いんですね」
「うん。特に全部溜まった時だけに出せる技が……ってあ!あれってもしかして実くんじゃない」
真ん中の髪の毛がピョーンと上に向かっているあの頭は間違いなく実だ。
「そうです。降ろしてください」
言われるまでもないとビルから飛び降りてその衝撃は全て足で受け止めて千景は軽々と目的の人の前に出た。
「……誰です。その女の人は」
まず目に付いたのは間抜けな顔をした先輩隣に立っているクール&ビューティという単語が似合いそうな女性だった。
「ん?僕の彼女かな」
「嘘をつくなと言っただろ篠春 実」
「あれ?それってまだ有効だったの。あ、でもこれは頭の中だけだから嘘のうちに入らないんじゃない?」
「気持ち悪いんで却下で」
「そんな〜、こんなにも愛しているというのに」
左手を自分の胸に右手を空に広げて何処かの歌劇団のような表現をしながら一歩前に出てリブルに後ずさりをさせた。
「だ、だから嘘はよせと言っているだろ」
「これは嘘じゃないよ。本とぉふぁ〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜!」
紳士的に詰め寄って愛の告白を……という途中で横から入ってきたのは途中からいない者として扱われた千景のゲンコツだった。
「すいません。誰かは知りませんがこと人とは関わらない方がいいですよ。汚れてしまいますので」
「相変わらず酷いな〜僕はただ拠点まで案内しようとしてただけなのに」
「拠点?リブルはどうすんですか。ちゃんと仕事してください」
「いやね、そのリブルが……」
「大体昔から先輩はてきとうすぎるんです。そんな人の下で働く身にもなってください。書類の整理だってろくにしないし、昼休みになったら女子生徒を口説こうとしたりして威厳なんてあったもではありません。それにですね」
「あ、あの〜千景さん」
お説教でげんなりした実はゆっくりと刺激しない程度の速度で挙手をしてマシンガンのようなそれを止めた。
「なんですか!まだ話は終わってませんよ。まだリブルのことで」
「いや、だからそのリブルが彼女なんだって〜」
「どうもリブルです」
会釈をするターゲットを初めて目にして千景は口をあんぐりさせた。
「す、すいません。さっきは無礼なことをして」
怒っていた時には想像できないほど丁寧に謝罪をしながら拠点の中を歩き、ライダーの時と同様に玄馬のいる部屋と向かっていた。
「そんなことより千景ちゃん。これ手伝ってくれてもいいんじゃない」
後ろでは実がぜぇぜぇと息を荒げなから泥棒が使いそうな風呂敷でバイクの残骸を運んでいた。
「男なんですからそれぐらい我慢してください。ほんとにこういう時は役に立ちませんね」
「ならボクが手伝ってあげるよ。実くんそれ貸して」
ここは男の見せ所といつも女性扱いされている祐が嬉しそうな顔をして手を差し伸べるが前屈みで辛そうな顔をする実は思いっきり首を振った。
「い、いくら辛かろうが可愛い子にこんな重労働させるて僕にはできない」
何故かこんな時だけカッコイイ顔で決めた。
「そ、そんな〜ボク男なのに〜」
後ろ二人はほう放っておいてもいいな。
「ですがなんでついて来てくれたんですか?仁さんは容赦なく倒したそうですが」
「仁……ああ、あの男は邪魔てましたしあちら側がかなりやる気だったので戦わないといけなかったんだが篠春 実はまるで殺気を感じられなかった。逆にこちらに好意がある感じがして戦おうなんて思えなかったんだ」
世界各地を行き渡っていろんは者と出会ってそういった気配を読み取れるようになっているのだ。
「まあ、先輩ですからね。でもライダーは殺し……壊したんですね」
後ろでせっせと運ばれている荷物に目をやる。
「あれは別だ。無月を奪おうとしたから他のやつと同じだった」
「他のやつ?」
「そこんところは後でまとめて話すから」
そう告げると急に後ろに戻って死にそうな男が運ぶ風呂敷を押した。
「まさか辻斬りのリブルが俺の目の前に現れることになると夢にも思わなかったよ」
いつもの白衣姿の彼の隣には倒れたはずの仁の姿があった。
「だからそれはやめてください。それであれを調べてほしいんですけど」
協力して持ってきた黒いガラクタを指差した。
「言われなくてもやるさ。時間はほんの少しかかるが君の話を聞かせてくれないか?」
特に聞きたいのはここに来た理由。その他にも聞きたいことは山ほどある。
「いいですけど。何から話しましょうか」
戦いばかりで話す機会が少なかったし、話すことが多すぎて何から始めたらいいかわからない。
「好きに話してくれて構わない。話したくないこのなら話さなくていい」
本音は知っていることを全て話せと言いたいが、今の立場はリブルの方が上だというのは誰の目からしても明白だ。それに戦力的にそんなこと言えない。
だからこそ本人に任せることしかできない。
「なら、まずこの無月のことから話しましょう」
刀を見せびらかせて昔のことを思い出しながら話を始めた。
「あれは私が小さい頃。アラルに歳なんて概念なんてないからもう何年前のことか忘れちゃったけど本当に小さい頃。私は小さな一族でみんなに囲まれて生きていた。でも普通のアラルではありません。私たちの一族は昔からある刀を守っていたんです」
さすがの実でもこういった真面目な話になると黙って大人しくしている。
「それってもしかして……」
良くある反応をしてくれたのは千景だ。
「そう、それが無月です。しかしこれはただの刀ではありませんでした。ある男からつくられた一振りでそれを危険だと悟った私たちの一族の末裔が奪って来たものなんです」
「あ〜、あの男って全身がギミックでつくられたっていう男のこと〜」
質問された時からそんなのいるのか?と気になっていたのですぐに分かった。
「そうです。実際に見たことがありませんが一族の長である大婆様が言っていましたから間違いありません。それで私たちはこの刀を中心に団結して楽しい日々を過ごしていたのですがそれは長くは続きませんでした。あの男の手下がこの刀を奪いに来て一族を滅ぼしたんです。残ったのは私と刀だけ。両親も仲の良かった友達も大婆様も全員殺されてしまいました」
それは本当に最悪の一日だった。今でも目を瞑るとあの日の惨劇が蘇ってくる。
「それは残念なことだ。しかし、全身ギミックで出来たアラルなどいるはずがない」
「何故?私はそいつを殺す為にここまで来たのに」
刀にしかない彼女が滅ぼされた一族の村を見て湧き上がって来たのは悲しみではなく、憎しみだ。
中でも憎しいのは一族を危険に導いた無月。それをつくったのは誰か。あいつらが言っていた。全身ギミックの男。
「まずギミックは蓄えるものだ。全身ギミックなら全機関がギミックに蝕まれるということだ。そうなったらどんなに頑丈なアラルでも溶けて消える」
つまりオーバーヒートを起こして死んでしまうということだ。人間だってエネルギーを取りすぎると逆に毒なってしまう。
「でもそうでなければこの刀どうなる」
実際に物が存在している。その強さは仁を圧倒したことで証明できている。
「仕組みはどうなっているんだ。詳しく調べれば分かるだろうが……」
「それは無理です」
こんなのでも一族の形見。見ず知らずの男になんて渡すはずもない。
「ならばその男がいるかどうかは証明出来ないわけだな」
そうなれば全て嘘だということになり、一族がとかの下しもなくなってしまう。
「ちょっと待ったモジャモジャ博士!」
「モ……なんだ。何かあるのか?」
「大抵こういう話は絶対なんだよ。だから温かい目でリブルちゃんを見守ってあげてよ」
「感情論に走るな。確かに聞いてて可哀想だとは思ったが嘘ならどうだ?ムカつくだろ、腹立つだろ。そうに俺たちは安易に行動してはいけないんだ。ここが日本の要だからな」
「ふ〜ん、信じてくれないのなら僕にだって考えがある」
「考え?俺が納得できるものならいいぞ」
「リブルちゃんを仲間として迎え入れるんだよ〜」
「な!正気か?相手はアラルなんだぞ」
アラルは人間を消しにかかって来る絶対的な敵。
「でもさ、アラルもそれぞれじゃん。その中でリブルちゃんは優しくていい子だよ。」
「だからと言って……」
周りを見渡すが他に文句のある者はおらず、ため息をついた。
「本人がいいなら俺はもう知らん」
もはやヤケクソ感があるが、オッケーは出たので皆の視線は自然とリブルの元に集まった。
「……あの男に近づくにはここが一番なので少しの間だけお世話になります」
仲間がまた一人増えるとライダーの残骸の検査結果が出た。
「随分と無様なお帰りね」
本を閉じた少女の前に現れたのは溝から這い上がって来た黒い水晶なものがゼリー状の何かを纏わり付かせている物体。
「すまねーな。思ったよりリブルの力が強かった。やっぱりあの時、殺しておくんだったな」
「あら、不思議ね。口もないのにどうやって喋っているのかしら?私なら失敗した悔しさで一言も発せれないと思うわ」
「俺は元からお喋りなんでね。こいういったこともネタにしてでも喋ってやるよ。寂しがり屋のお嬢さん」
「言う様になったじゃない。お気に入りの依り代を壊されてショックのあまり道中で野垂れ死んでいるのかと思ったけどその分ならまだ大丈夫そうね」
「過ぎてしまったことを考えるのは時間の無駄だしそんなの人間がやることだ。それよりこれからどうするよ。俺が見てた感じだとリブルはあいつらと組みことになるぜ」
「それは何ら問題はないわ。だけど一応シェーヌとヴェントが動き始めたからそれで様子を見ましょう」
「おいおい。様子なら俺がバッチリ見てきた。全員大した戦闘力じゃね〜。俺ら二人でも十分に勝てる相手だ」
この黒くてグニュグニュした物体とその中にある水晶体はこの少女に言われてバイク姿で彼らと接触して力量を測ったがリブル以外はどうとも感じなかった。
驚いたのは胸の少ない女性の力が予想より強かったことぐらいだ。
「別にあなたを信じていないわけではないの。それにこんなの奴らに先を越されてもその後奴らを消せばいいだけじゃない。」
「そうだな。あいつらは馬鹿だからなんとでもなりそうだな」
しかし、実際に会ったことはなく噂を聞いたからそんな印象があるだけだ。
「あなたに言われるんだからそれは相当なものね。それならミジンコより頭が悪いことになるけど大丈夫かしら」
「ミジンコって、それだって俺は何と比べられていたんだ」
一つ下だけでそこまでいくと自分の立場がらどんなものか気になってしまう。
というかミジンコに脳なんてあるのだろか。
「鴨かしら。だって何回負けても何も覚えてこないんだもの」
「そうかよ。でも、無月を取り戻すまでは何度でも挑んでやるよ」
「その調子よ。まずはこの街を快適に過ごせるようにしまょうか」
重い腰を上げて早乙女研究所のある街に目をやった。