辻斬りのリブル
拳の球体の点から伸びた黄色い線は刀で防がれたが、それだけでは終わらない。
伸びきった線を一気に縮めて瞬きする間もない速さで距離をつめて渾身の蹴りを放った。
「どうした辻斬りのリブルの力はそんなもんか」
刀につけていた点を戻して一旦距離をとって挑発する。
「だからその呼び方はやめてくださいと言ってるじゃないですか!」
少し怒り気味に突進をして来てイフトリガーで飛んで空中で地面につこうしたところを狙って居合切りを繰り出したが、もう片方の手にあるイフトリガーを発動させて左にある建物に点を当てると距離を詰める為に使ったことと同じことをしてそれを避けた。
「鋭い太刀筋だな。何処でそんなにを習った?」
「あなたには関係ありませんよ。それとも怖気ずきましたか?それならここを通してください」
どうしてもこの先に行きたいとみえるが噂で聞いていたのとは少し雰囲気が違う。なんというか覇気というか殺気がない。
だからこそ実の言葉が頭によぎる。
「逆に無理だな。お前が何を探しているのか気になってるんだ」
その探し物がこちらの知りたいことに繋がる可能性があるのでやられそうでも退くことはできない。
「ふぅ……。仕方ないですね。これから痛い目にあってもらいますが構いませんよね」
しかしその答えを聞かないまま体は既に動いていた。右足を踏み込んでそれを右回転させて遠心力を利用して刀を流れるように横に振った。
「うお!さっきのは本気じゃなかったのか」
威力はあらかじめ後ろのコンクリートにイフトリガーを飛ばしておいたものを使って避けたからわからないが刀がくるスピードとか鋭さが増していた。
「そういうことです」
間髪入れずに切りかかってくるがそれらもイフトリガーを使って避け続けた。
「どうしたんです。そちらから喧嘩を売ってきたのに逃げてばっかりじゃないですか」
「戦い方は人それぞれだ。文句を言うな」
「人ではないので無理です」
上から叩き込まれた斬撃はコンクリートにめり込み、地割れのような跡をつくりだした。
「流石だな。ギミックの量が違う」
アラルも嘘をついて力を溜めるがそれは使い尽くしたらの話だ。最初から力があり、何日経ってギミックを使わない限りは決して減らない。人間はその逆と考えればいい。
「口は達者ですね。邪魔をするなら斬りますよ」
というかもう既に斬りかかっている。しかしここで仁はニヤリと笑った。
「それは困る。今度はこちらが攻め込む番だからな」
何かに引っ張られているようにスライディングをしながら迫るがそれも外れ。
「そんなのは当たりませんよ」
確かに速いがリブルからしたらジャンプするだけで避けられる簡単な攻撃なのだ。
「油断したな」
その声が聞こえるとリブルの背中に強烈な蹴りが決まり、その勢いでビルに突っ込んで大きな音を立てた。
しかし、それだけでやられるリブルではなく、瓦礫を刀で粉微塵にして這い出てきた。
「なるほどそういう仕組みですか」
どうやって背中を攻撃したか理解できなかったリブルはそのイフトリガーが地面から街灯の真ん中らへんに着弾していて、線のところが何回も曲がっているのを見て納得した。
「そう。これが俺のギミックだ」
自由性の高く、それを縮めたり曲げたりして速く行動することができる。それにもしの言った数だけ黄色い玉があるのでそれだけの逃げ道がある。
「なら……も見せましょう。ギミックを」
「な!お前今なんて」
ならの後の言葉が聞き取れなかったがかなり需要なことというか意外なことを言ったので声が裏返るのも気にせず叫んでいた。
「無月・烈桜」
だが目つきの変わったリブルは技の名前らしきものをつぶやいて刀を引き抜き、そこかは幾つもの黒い塊を飛ばして街灯につけていたイフトリガーを壊して仁は宙に浮き、無防備になりそこを逃さまいと刃とは裏側を向けた。
「無月・椿炎発」
先ほどとは比べ物にならないほど大きな黒い塊が刀が振られたことによって仁に襲いかかる。
「速い!だが……」
空中だからといって何もできないことではない。
咄嗟にイフトリガーを飛ばして着弾すると同時に一気に縮めて黒い塊に当たるのだけはなかったが、ついさっきまで仁のいた場所でそれは爆発してその風圧で着地することに失敗してしまった。
「いっ……。これはこれは」
起き上がって見たものは街灯の半分から上が吹き飛んで道に転がっている光景だった。
「これで邪魔をする気はなくなりましたか?」
「残念だがそれはない。男とし、何より仲間のためにお前が持ってる情報がいるんだ。この程度の脅しじゃあ屈しない」
アラルの情報は世界でも大したものが取れていない。それは捕まえるという余裕がないからだ。それに捕まえることに成功したとしても知りたい情報を吐くとは限らないし、持っているとも限らない。
「あまり大事にはしなくなかったんですが仕方ないですね」
「やる気になってくれたか。そうでなくては困る」
ここで逃げれてライダーから話を聞いてこれまで準備をしてきた時間などが全て水の泡になってしまうのが一番恐れていたことなのでこれでいい。
「くらえイフトリガー!」
攻撃力は無に近いがまだそれに気づいていないリブルは律儀にも刀で防いだ。
「まだだ」
イフトリガーは着弾してからが本番。
もう片方のイフトリガーを右斜め上にある建物に当てて、すぐに縮めて勢いをつけたらそれを外して刀の方についたイフトリガーの線を折り曲げて後ろから横腹に膝を当ててやろうと思ったが思惑に気づかれ、イフトリガーの線を刀で斬ってその刃の裏側で防がれた。
「読まれたか、クソ」
そう言い捨てて舌打ちをする仁は膝から伝わってくる感触が違うのですぐにイフトリガーで後ろに飛んで距離をとっていた。
「人間は後ろから攻撃することが好きですからね」
好きというかそこが一番空いている場所だからそこを攻撃しただけだ。
「そうだな。だがこれで終わりと思うなよ」
イフトリガーを発動させてリブルの周りを縦横微塵にグルグルと回り始めた。
ただ動いているわけではない。あちらが攻撃しようとしたら視界から消えているようにしている。
「動くことで隙を伺っているんですか。ですがそれは無駄ですよ」
目で追うことをやめてそのまま閉じると左手に持った鞘に刀を入れ始めた。
「無月・睡蓮鎖」
刀が全て鞘に収まると周りの地面から黒い鎖が山のように吹き出して飛び回っていた仁はそれにぶつかってしまった。
「うっ……なんだこれ」
動けば動くほど食い込んで来て無意識のうちにイフトリガーは解除されてそのまま地面に激突してそれだけで動けない体になった。
「がっ〜〜クソ!」
四、五メートルから落ちてそこらじゅうが痛み、鎖で体の自由を奪われて指一本動かせない状態でイラつきを大声で出したが現状が変わるわけではない。
「すいません。ですがこれ以外にあなたを止めることは出来ないと思ったんです」
「い、いつだ。いつ嘘をついたんだ」
この量を出すほど蓄えがあったのかそれとも……。
「どうでしょうね。そこで考えていてください」
刀を元のところに戻すとローブを翻して追いかけて来た時のように足にギミックを使い、ライダーと実が逃げた方へと飛んで行った。
そんな後ろ姿を見ながら仁はギミックを発動する前の一言が頭から離れず何もできなくなった今、それを思い出している。
「くっ……確かに言ったよな。上手く聞いとれなかったがあいつ私って言ったよな」
「霧雨 仁がやられた。死んではいないが行動不能だ。回収は俺たちでやるから待機している者はすぐに準備に移れ。特にライダーさんと実の方に向かっているから気をつけてくれ」
監視カメラで戦いを見ていた玄馬は鎖によって拘束された映像を見たらすぐに全員にそう指示した。
でないと間に合わないからだ。それほどにリブルの移動速度は速い。
「仁さん……。まさか負けるなんて」
遠くで黒い何かが動いたことぐらいはわかってはいたが、それが仁の劣勢だったとは思いもしなかった。
「仕方ないですよ祐さん。それよりも今は一刻も早くリブルの元に行くことだけを考えましょう」
マスクをつけて走りながらも息の乱れをみせない千景は深刻そうな顔をしていた隣の人を叱咤した。
「実くんが心配なんだね」
「な!ち、違います。ただこのまま死なれると今までされたお返しができないし、私が間に合わなかったから二人が何てことになったら気分が悪いじゃないですか!」
女子のじゃないですかはズルいと女っぽい祐も思ってしまう。
だってじゃないですかは個人的な考えを一方に押し付けるもので聞いた方はそれに頷く他ない。
無意識か意識してかは定かではないが今ここでそれを使われたらもう何とも言えない。
「そ、そうだね。じゃあボクの背中に乗って」
なのでとりあえず同意をして千景の前でしゃかで背中を指でさした。
「え、え〜と。どうしてですか」
「ボクの肉体強化を使えばこの距離でもなんとか間に合うかもしれません。それと嫌ですか?」
上目遣いでウルウルした目で見つめてくるが男だ。実や仁たちと同じ。
流石に男子の背中に乗るのは抵抗があるが彼の容姿ではそれが半分以下になってどっちでもいいやと思ってしまった。
「いえ、こうして喋っている時間もおしいです。早く出発してください」
考えた時間は三秒。その後は何の迷いもなく用意された背中に体重を任せた。
「やっぱり実くんが心配なんだね」
聞かれたらまた何か言われそうなので小さい声でつぶやいてまずはリブルが現れた道路へと向かった。
「来てるみたいですね。こっちに。どうします?逃げます?」
「せやな〜。でもわいらだけやったら確実に捕まるやろ。こっちはただのバイクなんやぞ」
ただのバイクではなく喋るバイクだ。なんであの人型のやつにならないんだよとはつっこまない。
「だったらあの人形出してくださいよ。あれで時間稼いで千景ちゃんたちと合流しましょうよ〜」
「あれはつくるのに時間がかかるんや。それに大抵こういうもんは絶対に追いつかれるパターンのやつや。どう足掻いても無駄やろ」
確かに映画とかでは逃げても逃げても現れて最終的にはキャーというパターンだ。
「それに逃げたらわいらが悪いことしたみたいで嫌やろ?だからここで迎え撃ちたいと思っとるんや」
何となく言いたいことは分かるが、迎え撃つには心許ない戦力だ。
「でも勝てる見込みあるのライダーさん。仁を突破したとなるとかなり強いじゃないの?」
「そら強いで。噂で聞いたのはアラルは軽く二十人以上、人間は数え切れないほど斬っとるちゅうやつやでな。わいらじゃあ倒せへんかもな」
ライダーのつくる人形は柔軟性があってどんな動きにも対応できるがそれがあったとしても倒せないであろうというのが本音らしい。
「でもさ〜、数はこっちの上なんだからそれを利用した作戦とか考えた方がいいんじゃない?」
格上の相手にはそうすることでしかかてない。漫画とかでも主人公はそうやって頑張ってる。
「作戦?相手は辻斬りのリブルやで。ちよわっと考えた程度の策やったら簡単にぶち抜かれるで。なんたってあいつの手元には無月があるからな」
「無月?何ですかそれ」
「リブルが持っている刀の名前や。昔からあるものなんやけど、その刀自体がギミックでできとって使えるのは何故かリブルだけらしいねん。せやけどわいが言いたいのは……」
「それは強さであり弱点でもあるということですね」
ライダーが話をしていると実が横から続きを言った。
「せや。よ〜分かっとるやないか。無月さえ奪ってしまえばわいらで何とかなるかもしれんちゅうことや」
つまり長所と短所は表裏一体なのだ。
「なるほど〜。で、その無月はどうやって奪うんです?僕は自身ありませんよ」
仁がやられたのならば僕も負けるかも〜という感じでその役目は絶対にやらないと決めている。
「ん〜、わいのギミックで気づかれへんように近づいて奪う。それまでの気を引く役目は任せるで」
簡単にいうとわいが後ろであんさん前という役目だ。
「は〜い。でも僕は最初から戦う気なんてないですからそのつもりでお願いします」
「戦う気ないってそれどうするねん。無月なくても相手がアラルやっていうこと忘れたんか?」
そんな重大なこと忘れるわけがない。一応そういうのはちゃんと覚えられる。
「そ〜じゃないですよ。でも僕は戦う気はありません。ライダーさんが攻撃してきたら返り討ちにしま〜す」
そんな宣言をしていると小さな影が一つ。まっすぐ一台と一人の元へ近づいてきていた。