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エンドレスフール   作者: 和銅修一
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エイプリルフール

「ま、待ってください先輩」

 髪の毛の一箇所が空に向かって逆立っている男にオレンジ色のカーディガンとひらひらのスカートを着た女の子が人混みをかき分け後ろから迫ってきた。

 ボーイッシュな短い黒髪でとても可愛らしい格好なのだが一つ残念なことにマスクをしているせいで口元が隠れてしまっている。

「先輩じゃない。お兄ちゃんと呼びなさい!」

「なんでそうなるんですか生徒会長」

 そう、彼は生徒会長をしている篠春(しのはる) (みのる)

「やめてくれ。生徒会長なんて萌えない呼び方しないでくれ我が妹よ」

「中学生の時から知ら合いだっただけで血の繋がりなんてないじゃないですか。そんなの妹とは言えませんよ」

 妹、妹と呼ばれている彼女は國里(くにさと) 千景(ちかげ)。中学生の時から実と知り合いで今でも一緒の高校に通っている。

 何かと一緒にいることがあったので実は妹のように可愛がっている。というか妹して迎え入れてもいいと思っている。

「血の繋がりがない?もしかして義理の妹。それなら萌える。いや燃えるよ」

 実はグッと拳を握りしめた。

「そうじゃありません。本当に変な人ですね。早く行きましょうよ。買い出しするだけでそんなに時間使いたくありませんから」

 生徒会に必要なものを買うために来たのだが実だけでは心配と千景もついて来たのだ。

「待って待って。妹の話をスルーする気なの?」

「当たり前でしょ。そんな話に興味はありませんから」

 一人っ子の千景にはまったく関係ない話でどうでもいいとそっぽを向いた。

「妹、それは魅惑の響き。実の妹、義理の妹。さらに甘えん坊な妹、クールな妹、面倒見のいい妹。種類は様々あり、親密的な関係にあるがそこから恋愛的関係になることが難しい。しかし、それを乗り越えた先にあるものは何事にも代え難いものがある。つまり妹とは夢と希望が詰まっているんだよ。分かったかな千景ちゃん」

「とりあえず先輩が変態だということが再確認できました」

 初めてあった時もこんな感じだった。変わらないというかぶれない人だ。

「ちょっと、ちょっと。呼び方変わってないじゃないか。お兄ちゃんが駄目ならにーにとかお兄様とかでいいんだよ」

「ハードル上がってるじゃないですか!私は絶対にそんな呼び方しませんからね」

「いやもいやも好きのうちと言うから、僕は期待しているよ」

「変な期待しないでください……ってどこ見てるんですか?」

 目的地まで歩いていたのだが実がふと立ち止まってビルに取り付けられた巨体なテレビを見上げていた。

 その画面にはペンギンが空を飛んだり、マダガスカルが砂漠になったとかデタラメな映像だった。

「そうか、今日はエイプリルフールだったけ。でもあんな嘘なんかよりもっとみんなが幸せになれる嘘の方がいいと思うんだけどな〜」

 今流れていたのはエイプリルフールなのでそれに合わせてつくられた合成映像で真っ赤な嘘だ。

「先輩にしては珍しいですけど確かにその方がいいのかもしれませんね」

「そうそう例えば僕以外の男が消えてハーレム状態になっちゃうとか」

「欲望の塊しかないじゃないですか。なんですかそのソシャゲみたいな設定は」

 感心してしまった自分が馬鹿だったとため息をついた。

「ん?待てよ。なら千景ちゃんのさっきの言葉もエイプリルフールの嘘ということに」

「なりませんからね。本心からの言葉です」

 いつもの実ならここで何かしら返てくるはずなのに今回は何か思いつめた顔をして黙っている。

「ど、どうしたんですか?そんな顔するなんて先輩らしくありませんね」

「いや〜、なんかこんなこと前もあった気がするだよね〜」

「デジャヴですか?そんなの誰だって一回はありますよ。それに先輩は同んなじような事しか言ってないからそんな気になるんじゃないんですか」

 いつも話題なのに場所が変わらないと前にもこんな事があったような……という感じになってしまう。

「いや〜、そんな風じゃないんだよな〜。なんていうか同じことが繰り返されてる……みたいな?」

「よく分かりませんよ。それも早く買い出し終わらせましょう」

「なんだそんなに早く帰りたいの?僕はスローで歩いて出来るだけ千景ちゃんと一緒にいたいのにな〜」

 目線を元に戻して再び歩き出して行った。

「それが目的でしたか、さっきの話でも時間を稼ぐ為の嘘でしたか?」

 よく相手されないと実は妙なことを言い出して人の気を引くことが癖みたいでたまにこういったことがあるが、こんなにあやふやな感じは初めてだ。

「そうじゃないよ。でも千景ちゃんと一緒にいたいのは嘘じゃないと断言できるよ」

 不意をついて手を握って顔を近づける。

「な、なに言ってるんですか!」

 急に顔を赤くした千景は手を振り払って細い路地裏の方を向いてしまった。

「あれ?ここ何だか見たことのある道ですね」

「こんな路地裏が?そう言われると僕も見覚えのあるような道だな〜。少し気になるし近道にもなるから通ってみる?」

 誰も通らなそうなところだが何故か二人だけはここを通りたくなっていた。

「そうですね。先輩が妙な話をしたりするから時間かかっちゃいましたし、私は別にいいですよ」

「素直じゃないな〜。でもツンデレは萌えるよ。さらに妹属性……最強じゃないか」

 実はなにか重大なものを発見してしまったような驚愕な表情を浮かべてワナワナと震えた。

「ツンデレでも妹でもありません。ほら、行きますよ先輩」

 気がつくと話を聞き流した千景は裏路地をズカズカと突き進んで行ってしまっている。

「ちょ、ちょっと千景ちゃん?なんでそんなに怒ってるの。それだとデレがないよ。ただのツンツンだよ。ツンデレっていうのは敵対的な態度つまりツンと過度な好意的な態度つまりデレがあって成立するものであってそれではただ僕を嫌っているようにしか見えないよ〜」

 長ったらしい話をしたが、用はツンだけでは萌えない!という結論だ。

「見えるじゃなくてそうなんですよ。そろそろ自覚してください」

「そんな……でもなんだ?この胸の中がざわついている。もしかしてこれが恋?」

「普通にショックだったんですね。それよりも早く来てください。妹なら萌えるシスコンさん」

「シスコンは否定しないけどならっていうのはちょっと悪意があるんじゃないのかな〜。それだと僕は妹属性にしか興味のない変態みたいじゃないか」

「違うと言うんですか?」

 必死の訴えにやっと足を止めてくれて何故か冷たい視線が飛んできた。

「もちろんだよ。僕は全て女性を愛する紳士。自分の欲望にしか頭がない変態とはまるで違うよ」

 変態と紳士はまるで違う!と正論を伝えたつもりなのだがさらに機嫌が悪くなった。

「全て女性を愛するって浮気する気満々じゃないですか。そんな人は一生結婚できませんよ……」

「ん?どうしたの千景ちゃん。それはもしかして“そんな貴方の相手をするのなんて私ぐらいなんだかね”というコンボへとつなげる前置きかな?」

 まだデレを諦め切れていない実はしつこいようにそう言うがそんなわけがなく、路地裏を抜けて見た光景に驚いていた。

「いえ、なんか急に人がいなくなったので」

「ほんどだ。人っ子一人いないね」

 多くのビルや店が立ち並ぶ大通りだというのに大型スーパーができた後の商店街みたいな空気がそこにはあった。

「おかしいですね。あっちの道はあんなに人がいたのに」

 ここら辺は相当人が多く、移動だけでも疲れてしまう都会だ。どんな道でも必ず人がいるはずなのに影も形もない。

「そうだな……二人っきりだね」

「こんな大規模な二人っきりはお断りです」

「それって規模が普通なら二人っきりはウェルカムってこと?」

「ち、違います!言葉の綾というものですよ。しかしこれはおかしいですよ」

 不審に思い、とりあえずバックから携帯を取り出して電源をつけてみるが左上には圏外と表示された。

「さっきまで普通に繋がってたのに」

 実のガラケーも同様だ。携帯に問題があるわけではないらしい。

「もしかしてドッキリとかかな?ほら、今日はエイプリルフールだしさ。それにちなんでどっかのテレビ局がやってるんじゃない」

 特にエイプリルフールはそういう企画が多い。たまたまそれに当たったのではと推理するが幾つか引っかかる点がある。

「でもこんな地味なことしますか?それに私たちがこの路地裏を通るなんて分からないじゃないですか。それにそんなのいろんなところを歩いてたらそのうち分かりますよ」

 もし実の推理通り、ただのドッキリだとしたら何処かでボロが出るはずだ。

 まずは目的地である店まで来た。ビルの中の一つの店だが客どころか店員も一人もいない。

「ここも誰もいませんね。もっと遠くに行ってみましょう」

 公園、駅など人がいそうなところに行ったが結果は同じだった。

「あと思いつくところといったらここぐらいですね」

 あの路地裏からは遠いこの学校は二人が通っている学校で今日は創立記念日ということで休みだ。

「でも人はいないね。先生ぐらいいてもいいと思ったのにな〜」

 ふと視線を横の道に向けて一応人がいるかどうかを確認すると中学二年生ぐらいの金髪少女がこちらを見つめて立っていた。

「獣耳……」

 しかし実が気になったのは何故いきなり人が消えて金髪の少女が目の前にいるかではなく、何故彼女の頭に獣耳があるかだ。見た感じだと犬や猫の耳に近いが髪と同じ金色に染まっている。

「け、け、獣耳の美少女。来たこれ!まさかこんなところで出会うなんて」

「せ、先輩?」

 ずっと校舎を眺めていた千景はその獣耳少女を発見できなかった。騒がしいのでそちらを向こうと思った矢先に走り去ってしまったからだ。

「待って僕の獣耳〜〜〜〜〜〜〜」

 走ったのを確認したと同時に有無を言わせず追いかけることを決めた。

「ちょ、先輩。いきなりどうしたんですか?誰か見つけたんですか」

「そうじゃなかったら走ってないよ。しかも獣耳だよ。遠くてよくわからなかったけど耳があった」

 ほんの一瞬のことだったが見間違えるはずがない。あの少女にら耳が存在していた。

「耳?そんなの偽物つけてるだけでしょ」

「確かにその可能性は高いよ。でもね、僕たちが今置かれている状況を考えてみてよ。人の姿がまったくない。つまり人間でない者がいてもそれって不思議じゃないよね」

「そんなのめちゃくちゃですよ。これが罠だったらどうするんですか?」

 ここが何処でどうなっているかは分からないが、ここが安全とはまだ確認できていない。

 実の言う人間でない者が恐ろしい敵だという可能性も十分にあり得る。

「それでも無闇に歩き回るよりはあの獣耳少女を捕まえて話を聞いた方が早いでしょ」

 手がかりなしで今の状況を把握するには無理があってこれを解決するには知っている者に直接聞くのが早い。それとあの耳をモフモフしてみたいという理由もある。

「それはそうですけど。あの子足が速すぎませんか?全然追いつけないんですけど」

 走りに自信のある千景だが差は一行に縮まらない。

「だね。まるで彼女の空間だけ時が加速してるみたいだよ」

 耳を澄ませば空気を切り裂く音が聞こえる……そんな気がした。

「ただ単に先輩の足が遅いんですよ。後から来た私に追いつかれてるぐらいですからね」

「人には得手不得手ということがあって別に足が遅くても得手の方で挽回すればいいだけだから心配しないで、そして僕のことは構わず先に行け」

「わかりました。でも迷子にならないように後ろ姿が見えるくらいに走ってくださいよ」

 携帯は圏外で少女を捕まえられてとしてもメールで居場所を教えることはできない。

「え?ここは“先輩を置いて行くことなんてできません”」って盛り上がるところじゃないの」

「バトル漫画じゃないんですからそんな展開にはなりませんよ。じゃあ私は本気を出すので」

 ずっとつけていたマスクを下にずらして一呼吸するとアクセルを全開にした車のような走りで後ろ姿しか見えない獣耳少女を追いかけて行った。

 少女は曲がり角を駆使しながらもたまにこちらの方を向いてついてこれているかを確認してくる。

「先輩ほどじゃないけどムカつく」

 そのイライラを力に変えてスピードを上げる。

「女の子がそんな走り方するんじゃありません!」

 陸上選手さながらのフォームに萌えないと絶叫しながらついてくる変態はフラフラで今にも倒れそうな勢いだった。

「そんなゾンビみたいな走り方よりマシですから」

 しかし、ここまでついてくる根性はなかなかのものだ。

 これなら当分は大丈夫だと安心して獣耳少女に集中して後ろ髪を追いかけて角を曲がった。

「あれ?これは……」

「どうしたの千景ちゃん。もしかして待っててくれたの?」

 しばらくすると後ろからハァハァと汗を流しながら実が追いついた。

「違いますよ。見てくださいこれ」

 指差す先には大きくてシンプルな作りの建造物があった。

「こんなとこにこんな建物なかったはずなんだけど」

「そちらから出向いてくれたか。無駄な時間を過ごさなくて済むから助かるよ」

 見覚えのない建物から出てきたモジャモジャ頭の白衣を着た男が現れた。

「な〜に、者で〜すか?」

 間の抜けた実の問いにその男はサングラスを軽く押し上げて答える。

早乙女(さおとめ) 玄馬だ。この研究所の責任者でこの世界を調べている者だ」

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