ブランシュ×セーブル
ブランシュは、自分の色をあまり好きではなかった。
首都では、皆が高貴な色だと持て囃したが、自分達種族にとってこの色が適していない事くらい、自分自身が良く知っていた。
それを彼女は、たった一言で誇れる色にしてくれた。
今は、この色を彼女の色の次に愛しいと思っている。
「ブランシュ、お茶を入れましたけれど、どうします?」
そう言って、愛しの黒セーブルがティーセットを持って側にやって来た。
ティーセットと共に、添えられているのはバラのジャム。
それを見て、ふっと表情を和らげてしまう。
「頂くとするよ、セーブル」
彼女とのお茶会はもう何度目になるのか、数えた事は無いが毎回楽しみである事に変わりは無い。
外交官としてアストルニアに仕える彼女は、多忙ながらもこうして必ず月に一度はブランシュの元を訪れてくれる。
最初は、どちらも国や領地の為の話をしていたというのに、最近では芝居や文学、花や音楽の事について話す時間の方が多くなった。
それからは、お忍びではあるものの、視察と称して舞台を観に行ったり、コンサートにも通った。
まるで、初恋の頃の様だと、時折自嘲してしまう。
それでも、セーブルの隣は誰よりも心地良く、離れ難い物があった。
「セーブル、覚えているか不安なんだが、私に貴方が言った言葉を覚えているだろうか」
それは、何度目かのお茶会の時、偶然届いた手紙を読んでいた時だった。
首都から離れて、もう数年は経つというのに、それでも届く貴族達からの社交場への誘いに、正直ブランシュは辟易していた。
その冒頭には必ず『高貴なる白の狼王』と綴られている。
その部分を読んでいた時の、僅かな表情の違いに気付いたセーブルが、ブランシュの持つ手紙の内容を確認して来たのだ。
『以前から気になっていたのですが、ブランシュはご自分の色が嫌いなのですか?私は、何者にも染まらぬ黒を誇りに思っているので、出来るならブランシュにも自分の『白』という色を誇りに思ってもらいたいのです。黒は、白と対極に並ぶ、謂わば対の色なのです。どうか、私が側に居る事を許して頂いたように、ご自分の色を愛して差し上げて下さい』
あの言葉から、ブランシュは自分の色を愛せるようになった。
自分が『狼王』と呼ばれるまで、この色が種族の者から好ましく思われていなかった事も、セーブルのような黒に憧れていた事も、全てセーブルに出会う為に神が与えた試練だったと思えば、前ほど嫌う理由が無くなったのだ。
その言葉は、ブランシュにとって宝物になっている。
「覚えていますよ。ブランシュがご自分の色を嫌っているようでしたので、勿体ないと思いましたの。だって、貴方に会った時、私は自分の色をもっと好きになる事が出来たんですもの。だから、貴方にも私の好きな色を好きになって欲しかったんです」
側に寄り添うように。
共に歩く事の出来る存在でいたいと思う。
いずれ、彼女が外交官で無くなったなら、その時はこの家で暮らして欲しいと話すつもりだ。
しかし、そんな自分の我慢がいつまで続くのか、ブランシュは自信が無いなと最近思っている。
その内、彼女がこの屋敷に宿泊する事があったなら、その時は分からない。
自分の理性が勝つか、彼女を欲しいと思う本能が勝つのか、いつか来るその時まで、ブランシュはこの暖かな関係のままでいたい、そう思うのだった。