深宇宙へ
足掛け三年の歳月を掛けて建造された「ランナウェイズ」は、二十六世紀を目前にして深宇宙へ進宙した。
クルーの人選は多岐にわたり、宇宙軍や宇宙局、連邦政府は言うに及ばず、広く民間からの採用も重視された。そこから選ばれたのは、船長と副船長と副官の三名、航行・通信スタッフ四名、探査・分析スタッフ五名、エンジニア三名、医療・生活支援スタッフ三名の十八名であった。
進宙式は、華々しく太陽系全体に放映されて祝賀ムードが高まったが、深宇宙へ出発する時には幾分盛り下がっていて呆気ない出発だった。
太陽系の外側に向けての発進時には、全クルーがその発進巡航シーケンスに携わるために、巡航速度である毎秒二十五キロメートルに達する三日ほどは、船内での行動は制限されていた。
発進から二日目の午後らしい時間に、チーフエンジニアのダイスが船長に進言した。
「船長、現在の船速は二十五・二九。巡航速度に到達しました」
それを受けて船長は、クルー全員に指示を出した。
「巡航態勢に移行する。クルーの制限を解除。速やかに各自の持ち場の点検を開始せよ」
全員がシートベルトを外し、ヘルメットを脱いだ。
「やっと自由になれたぞっ」
クルーたちに安堵の表情が現れて、くつろいだ表情になった。
「簡易宇宙食には辟易したぞ。チューブから食う流動食はもう御免だ」
「三日も座ったままだと身体が痛くて仕方がないわ」
すると、ダイスが答えた。
「そう思って、大きな加速で一日早く終わらせたんだ。わしゃ腰がダメだからな」
ダイスの言葉は皆を笑わせた。だが、船長が咳払いをするとクルーたちは笑うのを止めた。
「笑いはそこまでだ。我々の仕事はクリティカル・ミッションだということを忘れないでくれ。人類初の外宇宙への探査、しかも有人での探査だ。必ず成功させねばならん。それほど重大なミッションだが、知っての通り、無人機での探査では何も分かっていない。全く未知の領域への挑戦だ。それだけに単なる『礎』となる可能性もある訳だ。それにも係わらず、クルー諸君は『このミッションに命を掛けてもいい』と自ら志願してくれた者たちばかりだ。諸君の強い意志と能力と努力で、必ずミッションを成功に導いてくれ」
クルーは各々、敬礼したり、うなづいたりと行動は様々だったが、クルー全員が鋭い眼光で船長を見つめていた。
最初の一ヶ月は、各クルーそれぞれが多忙を極めた。航法チームは、進路の確認や航路の決定、太陽系との連絡の確保、エンジニアチームは、プラズマバーストシステム、生命維持装置と放射線防護の保守とメンテナンス、探査チームは、観測機器の点検と分析装置のチェック、生活チームは翌日から、生活のケアや食事の提供が始まっていた。
こうしてランナウェイズでの生活が始まり、程なく二ヶ月が過ぎた頃、ヘリオポーズに達した。船長はクルーをオペレートルームに集めて、クルーたちを鼓舞した。
「本船はヘリオポーズに達した。これからが本船の本領と我々の能力を発揮するところとなった」
一息入れた船長は、淡々と命令を下した。
「観測チームは全観測機器をオープンにして観測を開始、同時に分析を行う。それに伴って、観測領域の変更に際しては航法チームが支援すること。また、観測機器の故障に関してエンジニアチームは迅速な手当てをしてくれ。そしてその他のスタッフ、船長以下、副船長や副官も含めてだが、観測を第一に行動してほしい。これは人類史上初の太陽系外部への一歩だ。気を引き締めてミッションに当たってくれ。以上だ」
その後すぐに、クルーたちはまるで打ち合わせたかのように一つの台詞を叫んだ。
「ラジャー、キャプテン!」
そして、クルー達は各自の持ち場へと散って行った。