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太陽系の外側  作者: 檀敬
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建造思想

 深宇宙有人探査宇宙船『ランナウェイズ』は、木星のISSBに増設されたスペシャルドックで建造が始まった。

 『ランナウェイズ』の設計には、慎重な検討と十分な思慮が払われた。何しろ、無人探査機が音信不通になるほどの宙域に送り出す宇宙船である。第一に安全である。今回の『ランナウェイズ』は有人宇宙船だ。クルーの安全は十分過ぎるほど考慮されなければならない。

 今までの無人探査機が故障して消息を絶った原因の一つとして、考えられることは放射線である。放射線とは、アルファー線、ベータ線、ガンマ線、中性子線、そして完全にイオン化した軽元素の核もその一つとして考えられ、実質的に宇宙放射線や銀河宇宙線と呼ばれるものと同質である。

 だが、銀河宇宙線「GCR」が地球上の放射線と決定的に違うのは、それぞれが持つエネルギーの違いである。GCRのエネルギーは桁違いに大きいのだ。その違いは、粒子が衝突した時に及ぼす効果に現れる。威力と言い換えても間違いではないだろう。これらの高エネルギー粒子は、いとも簡単に核破砕反応を引き起こす。また、陽子や中性子などの核子が原子核から弾き出されることにより、核分裂や原子核合成で元素が形成されたり、同位体が生成されるのだ。超高エネルギーの状態は、恐らく全ての粒子に当てはまるだろう。それは、地球も透過してしまうニュートリノでさえそうだろう。

 だが、我々は超高エネルギー状態の粒子についての研究は進んでいない。なぜなら、太陽系内では太陽風や太陽磁場のために実際のGCRを観測できないからだ。

 それでも、現在分かっている放射線に対する防御を『ランナウェイズ』に造り込んだのだった。放射線防護の原則は「遮蔽」「時間」「距離」の三つである。

 ところが、三つ目の「距離」は無理な話なのである。超高エネルギーの宇宙線が渦巻いているであろう太陽系の外側へ探査に行くというプロジェクトなのだから。その他の要素で補うしかないのだ。

 一つ目の『ランナウェイズ』の放射線に対する「遮蔽」は次のように行われた。

 七十センチメートルの厚さのアクリル樹脂によって作られた、直径十二メートルの水槽に水を充満させ、直径九メートル、長さ二十メートルの居住エリア・モジュールと、直径は同じく九メートルで長さが十メートルのオペレーション・モジュールをその中にフロートさせる構造になっている。

 その外側には、厚さ一メートルの過剰水分型コンクリートによって包み込むように覆われた。このコンクリートの塊は、直径十五メートル、長さ三十八メートルとなり、八階建てのビルディングに相当した。

 ハッチの部分には、十センチ厚の鉛をアクリル樹脂で積層した構造とし、この部分から放射線が侵入しないように念入りな設計デザインがなされた。

 そして、動力源にはプラズマバーストシステムを、推進装置にはプラズマバーストエンジンを、それぞれ独立に採用した。これは、動力源と推進器を別々にすることによってその冗長性を持たせること、そして独立した推進装置は最大限の加速をもたらしてくれるのだ。

 このことは、放射線防護の原則の二番目である「時間」に係わることだ。出来るだけ速い速度で巡航し、船体及び乗務員がGCRに曝される時間を出来るだけ少なくしようという思惑なのである。

 その他に、観測機器や分析機器、食料や燃料を装備・艤装すると、全長は百二十五メートル、直径が二十メートルの、人類史上で最大の宇宙船となったのであった。

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