復路途中
初めまして。
「壇 敬 (ダンケイ)」といいます。
遂に「空想科学祭」にデビューしました。
どうか、お手柔らかに……。
【空想科学祭2010参加作品】
「大丈夫か?」
「今のところはな」
オペレートルームの座席にぐったりと身体をあずけた二人のクルー、シマとモリはお互いを見てうなずき合った。
オペレートルームの分析チームのシートに座っている、モリはかろうじて稼動している分析記録コンピュータを操作した。
オペレートルームにいるもう一人、シマは操船席に座り、航法コンピュータを動かしていた。
「全くひどい有様だな、この『ランナウェイズ』は」
「あぁ、全くだ。これ程の状況になるなんて……」
二人のクルーは溜息をつきながら、更に深く座席に身体を埋めた。
『ランナウェイズ』とは二人の乗っている宇宙船の船名で、太陽系の外側へ、ヘリオスフィアの領域から飛び出した、人類初の深宇宙有人探査船であった。
『ランナウェイズ』のオペレートルームには数人が操作する座席があったが、もう二人の他は誰も座っていなかった。
「もう、俺たち二人だけか」とモリがたずねた。
「動けるのはな」とシマが返答をした。
『ランナウェイズ』のクルーの総人数は十八名だったが、シマとモリの二人以外は動けない状況に陥っていた。クルーの半数は既に死亡し、二人を除く残りの者はメディカルカプセルに入って治療を受けていた。だが、メディカルカプセルで施される施術は限られており、遅かれ早かれやってくる死を待つのみの状態だった。
「現在位置は太陽から百九十五AUの位置だ」とシマ。
「『思えば遠くへ来たものだ』ってか……歌を歌う気にもならないな」とモリ。
その時、船体が大きく揺れた。
「また『反物質』か?」とシマが訊いた。
「あぁ、そうだ」とモリが返答した。
船体に半物質素粒子が衝突して対消滅が起こり、船体表面で爆発が起こるためだ。素粒子レベルでの対消滅なのだが、それ相当の衝撃がある。百二十五メートルもある『ランナウェイズ』の船体でも、かなりのショックとして感じられるのであった。
「船体はかなりやられたな」
「反物質だけじゃなくて、放射線にもな」
「防御シールドもボロボロだったな」
「太陽系内への帰還は無理か?」
「いや、もう既に"帰還シーケンス"には入っているぞ」
「そうか」
「ただ、生きて帰れるかは疑問だ」
「……」
時折、船内の一部、操作パネルや壁面が光り輝いた。
「この光が曲者だよな」
「高エネルギーの放射線か」
「間違いなく、身体を蝕んでいる」
「要するに『被曝』だから」
シマとモリの二人には、既に放射線障害の症状があり、吐き気や頭痛が絶え間なかった。
シマが、ポツリとつぶやいた。
「我々はあまりにも知らなすぎた……」
そして、モリがそれに呼応するようにつぶやいた。
「あぁ、その通りだ。宇宙のことをな」
『ランナウェイズ』は少し明るく輝いている深宇宙から、太陽を目指して復路を進んでいた。