「僕はアナベルと結婚するから。君は成り上がりの騎士団長へ嫁ぎなよ」王太子のエドワードはそう言って、婚約者の私を王宮から追放した。
王宮にある庭園で、シャロンは紅茶を淹れながら王太子のエドワードを待っていた。
時間の都合が合えば、こうして二人だけの茶会をするのが義務付けられている。エドワードの婚約者として王宮に招き入れられてから、シャロンはどれほど忙しくてもエドワードの予定に合わせてきた。
本当は部屋でゆっくり休みたかったのだが、自分の都合を優先させると王妃に厳しく躾けられてしまう。
王妃が言うには、いついかなる時でも夫を優先するのが常識らしい。間違っても「疲れた」などと口にしてはいけないそうだ。だからシャロンは疲労を表情に出さないようにしていた。
約束の時間ちょうどになり、エドワードが庭園に現れた。だが隣にはシャロンと歳の変わらない令嬢がいる。
――あの方は確か……。
隣国から留学してきたアナベルだ。吊り目がちの綺麗な顔で強気な性格に見られやすいが、彼女と親しい者は口を揃えて心優しい性格だと評している。
学園内にいるのはアナベルを慕う生徒と嫌う生徒に二分していた。アナベルを嫌う者たちは、アナベルが他の生徒をたぶらかして学園内の風紀を乱していると主張し、嫌っていることを隠そうともしない。そういった生徒はなぜかシャロンを対抗馬にして、アナベルと衝突させようとしていたから面倒だ。
アナベルが学園に入ってきた時から、エドワードは彼女のことを気にしている様子だった。最初こそ表立って仲良くすることはなかったが、月日が経つにつれ二人で話しているところが目撃されている。エドワードが心変わりをしたと噂をする生徒までいた。
一週間前に学園を卒業して、ようやくアナベルから離れられたと思ったのに、裏切られた気分だ。
「シャロン。唐突だけど君に話しておきたいことがある」
挨拶もなくエドワードが切り出した。
「僕はアナベルと結婚するから。君は成り上がりの騎士団長へ嫁ぎなよ」
最初は何を言われたのか、よく理解できなかった。
「君は頑張っているようだけど、王子妃に向いていないね。その無表情がいけない。ずっと心を閉ざしたままじゃないか」
シャロンはエドワードの指摘に反論できなかった。やはり自分に王子妃は相応しくなかったのだ。
公爵家の長女として生まれたシャロンは、王太子との結婚を望んでいる両親から厳しく躾けられた。
――己の要望を一切口にすることなく、ただひたすらに令嬢たちの理想であり続けなさい。そうすれば王子妃という最高のイスに座れるのだから。
そう言われ続けた結果、礼儀作法や勉学は申し分ないものの、感情表現がやや苦手になってしまった。エドワードとの婚約が決まってからは、特にその傾向が強い。王妃も教育に加わって、シャロンの欠点を指摘され続けたせいだ。
人間味を感じないシャロンは、エドワードにとって人形を相手にするのと変わらなかっただろう。
無感情ではないのだ。心の中には喜怒哀楽全て揃っている。笑顔は作れるけれど、本当の喜びを表に出せば王妃に睨まれてしまう。
王妃が言うには、人々の上に立つ者は、常に完璧でなくてはいけない。どんな感情でも制御して、苦しくても泣きたくても、慈悲深い笑顔で公の場に立つのが務めなのだと。シャロンは常に失格だと言われ続けている。
「エドワード殿下……それは命令ですか?」
「そうだよ。だから拒否は許されない」
「理由をお聞かせください。私はずっと、殿下と結婚をするのだと思っておりました」
「言っただろう。アナベルと結婚するためだよ。彼女は先日、エインズワース公爵家の養子になった」
シャロンの脳裏にエインズワース家の家系図が浮かぶ。アナベルの母親の生家だったはずだ。今はアナベルの伯父が家督を継いでいる。アナベル自身は隣国で生まれ育ったが、血縁を含めて問題なかったため養子として認められたのだろう。
「君の家も公爵だけど、エインズワース公爵家のほうが歴史が長くて家格が上なのは知っているだろう? だから君を王子妃にしてアナベルを側室にすると面倒なことになる。下手なことをすれば隣国も絡む国際問題になるかもしれない。だから君を婚約者から外すのが最適解なんだよ」
「成り上がりというのは、先日叙勲されていた方ですよね?」
「そう」
先月、王国では魔獣が大量発生するという大厄災が起きた。エドワードも学生の身でありながら王族として戦地へ赴き、指揮をとっている。そこで目覚ましい活躍をした騎士たちと知り合い、彼らを讃えるべきだと国王に進言したそうだ。
王宮での叙勲式はシャロンも同席していたので覚えている。顔見知りも何人かいた。長々と会話をする機会はなかったけれど、彼らが無事でいてくれたのは喜ばしい。
「ラウントリー男爵家の三男。サイラスだったかな? 騎士見習いの頃から優秀だって聞いていたけど、まさか功績をあげて爵位を得るとはね。異例の出世で騎士団を一つ任せることになった」
今はまだ親と同じ男爵だが、彼ならまた活躍をして上の爵位を与えられるだろう――エドワードはそう予想しているようだ。
シャロンにとってサイラスは、全く知らない人物ではない。だが語られる功績が大きく、自分とは別の世界の人物のように感じていた。
「君の家にはすでに使者を送った。荷物をまとめて実家へ帰るんだね」
態度で話の終わりを告げたエドワードだったが、ふと思い出したように言った。
「そうそう、君が結婚式で着る予定だったドレスと宝石だけど、持っていっていいよ。君に合わせて作ったんだから、君以外には似合わない。有効活用するといい」
シャロンは震えそうになる唇を強く閉じ、無言のまま頭を下げた。
庭園から去るシャロンの背後から、エドワードとアナベルの話し声が聞こえる。
「殿下。本当によろしいの?」
「いいんだよ。シャロンなら分かってくれるさ」
***
実家がある領地へ戻ったシャロンは、両親から冷ややかに出迎えられた。
「せっかくお前を殿下の婚約者にしたのに! なぜお心を繋ぎ止められなかった?」
「あんな外国人に横取りされるなんて!」
「アナベル様のお母様は、この国の貴族です。お母様もご存知のはず……」
「だから腹立たしいのよ! 嫁いで行ったなら、二度と関わらないでほしいわ。今度は娘を使って、この国を牛耳るつもりよ」
母親はアナベルの母親を心の底から嫌っているようだ。年齢が近いぶん、衝突することもあったのかもしれない。
「殿下は何を考えているんだ。よりにもよって成り上がりに嫁げだと?」
「元は貧乏男爵家の三男よ。我が家を軽んじているんだわ」
「それぐらいにしたらどうですか」
見かねた兄のハンフリーが両親を諌めた。
「シャロンだって自分にできることは全てやったはずですよ。相手は気まぐれ王子なんですから、こちらの想像通りに動くわけありません」
兄の言葉で、シャロンは元婚約者が世間からどう噂されているのか思い出した。
エドワードは昔から自由に振る舞うことがある。聡明ではあるが行動に一貫性がないように見えるため、猫のように気まぐれだとよく言われていた。
「殿下がどうやって国王を説得したのか分かりませんが、シャロンと例の騎士団長の結婚はもう王命が出ているのですよ。俺たちが騒いでも無駄です。反逆者と思われないように、立ち回るべきでしょう」
「しかしだな……」
「間違っても外ではサイラス殿のことを成り上がりなんて言わないでくださいね。世間では救国の英雄と称えられているんですから。嫉妬心をむき出しにした醜い老害と思われたくないでしょう?」
両親は溺愛している兄に諭され、渋々ながら結婚を受け入れることにした。だが納得はしていないらしく、結婚準備には手を貸そうとしない。シャロンは両親の説得を最初から諦め、兄夫婦に協力してもらいながら自分の結婚準備を終わらせた。
結婚式は王都の聖堂で行われた。成り上がりのサイラスと王太子の元婚約者の結婚は、良くも悪くも注目されている。だがシャロンの予想に反して、結婚式自体は穏やかな雰囲気のまま進行していった。兄が根回しをしてくれたのかと思ったが、どうやら違うらしい。
これから夫になるサイラスでもないだろう。彼は名声を上げたが、元はしがない男爵家の三男だ。それほど発言力があるわけでもない。
結婚式場で会ったサイラスは落ち着いた雰囲気の好青年に見えた。元々の整った顔立ちに鍛えられた騎士特有の堂々とした立ち姿が合わさり、一段と人目を引く容姿になっている。
控えめな笑みを向けられたシャロンは、少しの間呼吸を忘れた。久しく忘れていた感情が溢れそうだ。きっと王妃の陰湿な教育から離れられた反動だろう。厳しいだけで一度も褒められたことがなく、表情が乏しくなった原因なのだから。
――最後まで気を抜かないようにしないと。
一度きりしかない結婚式だ。失敗したくない。今考えていることを表に出してしまえば、この先の人生が台無しになってしまう。
シャロンの思いが通じたのか、結婚式は問題なく終了した。
***
「シャロン。困ったことがあったら、いつでも俺たちに頼るんだぞ」
「女性にしか共有できない悩みも出てくると思うわ。遠慮しないでね」
「お兄様。それにお義姉様。ありがとうございます」
兄夫婦に見送られ、シャロンは結婚式場となった聖堂から、嫁ぎ先へ出発した。両親の姿はない。おそらく出戻りした娘が片付いたとしか思っていないだろう。昔からシャロンは親の愛情とは無縁だったのだから慣れている。
サイラスは王都に屋敷を持っていた。褒賞として国王から贈られたものの一つだそうだ。使用人は兄夫婦の伝手で集めた必要最低限の人員しかいないが、当面の間は十分だろう。
「シャロン。不自由なことはないだろうか。王宮にいた頃に比べると、だいぶ不便だと思うが……」
「いいえ。十分よ」
サイラスは時々、シャロンに同じことを質問してくる。王太子の婚約者と男爵家の夫人では、服装や使用人の数、自由に使える金など何もかも違う。どうやら彼は、公爵令嬢として育ったシャロンにとって、下位貴族の生活は耐え難いのではないかと思っている様子だった。
新しい生活はシャロンにとって快適だ。まず王子妃に必要な高い教養を要求されないし、王妃が直々に教育指導してくることもない。素直な感情を表に出して、はしたないと睨まれていた日々と別れられたのだ。
サイラスも使用人たちも、シャロンがありのままでいることを許してくれる。それが何よりも嬉しい。心穏やかでいられる日々を過ごすうちに、シャロンは自然と笑えるようになっていた。
「あなたと結婚できただけでも嬉しいわ。王宮にいた頃の私は、半分死んでいるようなものだったから」
これからもよろしくね、と素直な気持ちを伝えると、サイラスは柔らかい笑みを浮かべて抱きしめてくれた。
今まで学んできたことが無駄になったわけでもない。サイラスは新興貴族として歩み始めたばかり。また生家で後継教育を受けたことがなかった。貴族間のことはなんとなく知っている程度で疎いところがあるため、シャロンが補佐をしながら必要な知識を教えている。彼は非常に勤勉かつ素直に聞いてくれるため、教える側としては助かっていた。
忙しいけれど幸福に満ちた日々を過ごしていたシャロンは、婚約破棄をされたことについて考える暇がなかった。誰かに質問責めをされたこともない。新たにエドワードと婚約をしたアナベルは、上手くやっているようだと風の噂で聞く程度だ。シャロンが王宮にいた頃も、他の貴族には同じように聞こえていたのかもしれない。
結婚式から一年が経過したころ、王宮から招待状が届いた。エドワードとアナベルがシャロンたちを茶会に招待したいらしい。
「シャロン。君はどうしたい? 行きたくないなら無理強いはしないが」
もしシャロンが欠席したなら、サイラスは一人だけで行くだろう。サイラスが率いている騎士団はエドワードが最高責任者だ。直属の上司の誘いは断れない。
シャロンはアナベルが書いたと思われる手紙を見つめて言った。
「……出席するわ。殿下に確かめたいことがあるのよ」
***
「ようこそ。君に直接会うのは一年ぶりかな」
あの婚約破棄が行われた庭園で、少しも変わらないエドワードが言った。
「お久しぶりでございます。本日はお招きいただきありがとうございます」
「堅苦しい挨拶は無しにしよう。僕たちしかいないんだから」
エドワードがさっさと席についたので、シャロンとサイラスも座るしかない。
テーブルには華やかな茶菓子が並んでいる。シャロンが王宮にいた頃に食べていたものばかりだが、当時はマナーが気になって味を楽しんだことはない。王太子の婚約者ではなくなった今、余裕ができて細部にまで目が向くようになった。
「どうぞ。お口に合うといいけれど」
アナベルが淹れてくれたお茶は色、香り共に理想的だった。味も見た目を裏切らない。アナベルの腕が良いのだ。
「とても美味しいです」
「喜んでもらえて嬉しいわ。王妃様に聞いても、何も言ってくれないのよ。お茶を淹れる前は、点数をつけてあげるなんて仰っていたのに」
アナベルは優しく微笑んだ。
――王妃様はきっと悔しがったでしょうね。
他人の粗を見つけて指摘するのが大好きだった王妃は、完璧なアナベルに何も言えなかったに違いない。
「私は褒められたことなんてありませんでした。王妃様が示す合格点に一度も到達したことがなくて」
「あのお方は自分が一番じゃないと気が済まないのよ。だから、あなたに理不尽な要求をして支配下に置こうとしたの。心を病む前に離れられて良かったわね」
「アナベル様は苦痛ではありませんか?」
「王妃様はわたくしのことが嫌いみたい。王宮の奥から出てこなくなったわ。王妃様の教育方法を真似して、点数をつけてあげただけなのに。今では、わたくしの顔を見ただけで青い顔をして逃げていくのよ。そんな時は追いかけて、王妃らしくない行動をしていらっしゃるのね、今の態度は二点、走り方は一点ですよって教えてあげているの」
「うまく立ち回っていらっしゃるのね」
「わたくしは王妃様のような人に慣れているだけよ。理不尽なことをされたら、つい同じ分だけお返しをしてあげたくなるの。隣の国では鬱陶しがられて追放されてしまったけれど」
シャロンが王宮にいた頃に聞いた話によると、アナベルは隣国の王子の婚約者だったらしい。だが隣国の王子はアナベルの性格や能力が気に入らなかったのか、彼女とは正反対の女性と浮気をするようになった。
さらに王子は己の仕事をせず、アナベルに丸投げしてしまう。このままでは国政に悪影響があると思ったアナベルが王子を説得しようとしたところ、彼は怒りに任せて婚約破棄を告げてきた。さらに浮気相手へのいじめや、悪事に加担しているなどの罪を捏造し、国外追放まで仄めかしてくる始末。さすがのアナベルも愛想を尽かし、母親の生家があるこの国へ移り住んだそうだ。
隣国で生まれ育ったアナベルには否定的な意見もあったが、婚約が公表される頃になると全く聞こえてこなくなった。アナベルがどんなふうに人心を掌握していったのか想像もつかない。
隣国から王子が来てアナベルを連れ帰ろうとしたが失敗したという、嘘か本当か分からない話なら、今も面白おかしく流れているのだが。
エドワードが言った通り、シャロンは王妃の器ではなかった。悔しいとは思わない。肩の荷が降りてせいせいしているほどだ。
「新生活は順調かな?」
「ええ。おかげさまで」
「僕は何もしていないさ。君が自力で勝ち取ったんだ。誇るといい」
サイラスとエドワードは二人だけに通じる話をしているようだ。だがシャロンには彼らがぼかした内容が分かっていた。
「ずっと、殿下にお礼を申し上げたいと思っておりました」
「さて、何のことやら」
エドワードはいたずらが成功した子供のように笑った。
「殿下。一つだけお聞きしてもよろしいでしょうか?」
シャロンは頃合いを見計らって話しかけた。
「何かな?」
「殿下はいつから私たちのことをご存知だったのでしょうか」
「割と早い段階から気がついていたよ。人間観察が趣味なんでね」
冗談めかしてエドワードが言う。
「僕直属の騎士団に選抜する者を探しているときに、やたらとやる気に満ち溢れた見習い騎士を見かけてね。面白そうだったから色々と話を聞いたんだ。その見習いはデビュタントで出会った令嬢と気が合って、文通するほど仲良くなったらしい。ところがお互いの身分が違いすぎるせいで、結婚を申し込めないと嘆いていた」
どこか遠い国の物語のようにエドワードが語った。
彼が言う通り、シャロンとサイラスはデビュタントの時に初めて出会った。お互いに淡い恋心を抱くようになったものの、公爵家令嬢と男爵家令息が結婚できる可能性などほぼ無い。
それでもサイラスは諦めていなかった。騎士として功績をあげれば、嫁ぎ先の候補として少しは考えてもらえるかもしれない。幸運なことにサイラスには才能があった。
順調に出世への道を進んでいたサイラスだったが、努力ではどうにもならない問題が発生した。何も知らないシャロンの両親が、エドワードとの婚約をこぎつけたのだ。
「シャロン。君は自分の恋心に蓋をして、僕の婚約者として相応しくなろうと努力していたね。母上の――息子の僕が言うのもなんだけど、面倒な人の相手も投げ出さなかった。サイラスは婚約のことを聞いても、腐らずに努力を止めなかった。僕はね、頑張る者には相応の報酬を与えるべきだと思っているんだよ」
そんなとき、アナベルが隣国からやって来た。
「少し前まで王子の婚約者だった令嬢が、どんな目的で入国してきたのか探りたいと思うのは当然だろう? この国を混乱させるためなら排除しないといけないからね。だから父上や僕は、まず忠実な協力者を使って探らせてみた」
ところがアナベルには後ろ暗いところは何もない。婚約破棄騒動も隣国の王子が愚かだっただけと判明した。
「だからアナベルの協力を取り付けることができたなら、色々な問題を片付けられるかもしれないと思ったんだ。そのうちの一つが、君たちの結婚だね」
それが学園でエドワードがアナベルに近づいた理由だろう。噂では真実の愛に目覚めた、などと言われていたが、現実は打算に基づいた行動だった。
ふとシャロンは物静かに座っているアナベルの様子を窺った。アナベルはこちらの視線に気がつくと、上品に微笑む。
「わたくしは自分を認めてくださる方と一緒になりたいと思ったの。浮気をした挙句に感情で喚く子供ではなくてね。だから殿下の計画に乗ったのよ。わたくしと殿下は、結婚に対する考えが似ているところも、お互い都合が良かったわ」
「魔獣討伐では積極的にサイラスを使わせてもらったよ。この機を逃したら、君たち二人の結婚がいつになるか分からなかったからね。とにかく活躍して目立ってもらわないといけなかった」
エドワードは満足そうだった。
「シャロン。君は王子妃には向いていなかったけれど、それは決して愚かだったからじゃない。真面目すぎて母上のような人間の悪意に耐えられないからだよ。君は僕の計画に気がついていたよね? でも表に出さなかった」
サイラスとの結婚を命じられたとき、シャロンは喜びで体が震えた。
待ち望んだ結婚式では、夢が叶った嬉しさで泣きそうだった。
「君が公の場でサイラスを特別扱いしたり、結婚しろと命じられて喜んでいたら、台無しになっていただろうね」
もし本当のことを知られてしまったら、両親や王妃に妨害されるかもしれない。だからシャロンは結婚式が終わるまで、感情を表に出さなかった。
これが最後の我慢になると知っていたから。




