美人の車は、他の人より0.1%汚れが付きにくい
山田は、会社の営業車を洗車中、ふと変な理論を思いついた。美人の車は、他の人より0.1%汚れが付きにくい。この世界は、美しさをほんの少しだけ優しく扱うようにできているはずだ。
会社のアイドル、あおいちゃん。色白でぱっちりした目、細長い手足。事務服姿はいつも可憐で、優しい笑顔が三種類。新入社員研修が終わってからは、ほとんど話したこともない。夕方の駐車場。あおいちゃんの水色の軽自動車だけが残っていた。運転席の窓に、べっとりと白い鳥の糞が張り付いている。
山田は愕然とした。あんなにかわいいのに。
立ち尽くしていると、背後から声。「山田君……?」振り返ると、あおいちゃん。夕陽に照らされた色白の肌、首筋の汗が光る。あおいちゃんは髪をかき上げながら「元気そうだね」と微笑んだ。
彼女は車を見て目を丸くした。「やだ、もう……鳥の糞」頰を赤らめ、小さく悲鳴を上げる。山田は思わず、「今日、変な理論を思いついてさ……美人の車は汚れが0.1%付きにくいって。でも、これ見て、覆されちゃった」あおいちゃんは一瞬きょとんとして――くすくす笑い出した。目尻に皺が寄り、本気の笑顔に見えた。
「なに、それ!初めて聞いた。 亮太君、かわいいこと考えるんだね」「あっ……」あおいちゃんの顔が真っ赤になった。その時だった。駐車場に植えられたハナミズキの枝から、一羽の鳥がバサバサッと音を立てて飛び立った。
鳥は夕焼けの空へと高く舞い上がる。その瞳には、オレンジ色に染まる小さな水色の車と、寄り添うように立つ二人の姿が映っていた。
「あ……」「あいつかぁ……」二人は同時に空を見上げ、それから、どちらからともなく顔を見合わせた。
「びっくりした……」あおいちゃんが、山田の顔を見て、ぷっと吹き出した。「 山田君、顔真っ赤だよ?」「……あおいちゃんだって赤くなってるよ」
山田が照れ隠しに頭をかくと、彼女もまた、耳たぶまで赤くして「……そうかな」とはにかんだ。結局、山田の「0.1%の理論」が正しいのかは分からなかったけれど。少なくとも今、この世界は、二人をほんの少しだけ優しく扱ってくれている。夕陽に照らされたあおいちゃんが振り向いてうれしそうに話しだす。
「ねえ、私の考えた0.1%理論、聞きたい?」
おしまい




