09.その毛皮の行方は
「大きさからブラックベアの成獣、若熊か。しかし、木の剣?にしては片刃の形状は初めて見た」
「うむ、口の中への一撃、これが致命傷に間違いあるまいが…腹部に魔力痕も気になる、さしずめこぶし大の槌の一撃…」
「軽く調べてみたが、通常の皮よりかなり魔力への耐性が有るな、これは。魔法で戦ってたら手ひどい反撃を受けたに違いない」
「だったら、この皮を鎧の裏地にするのはどうだ?」
「いや、大きめのベストにすれば鎧の上からかぶせるのも、鎧を着れないものにも着用出来る。盾に皮を貼り付けるのもよかろう」
「まてまて、魔物のなりかけ素材は今後有るかも分からない希少なもの。早々に加工するものではないわ。まずは正確な強度や性質の調査を…」
「素材の話ばっかりね」
「だな。いつ来たんだ。あの人たち?」
はじめは数人、アイゼンさん、その同僚、街道警備隊の人だった。
俺達とアレクさん、時に合いの手でアメリアちゃん、による事情聴取だったのだが、騒ぎを知ったドワーフが一人、また一人としかもその中に今日は休みだという防具職人や素材に詳しい人などもいて、今や人だかりになってしまったようだ。
「はは、すまない。珍しい素材をみると集まるのは、ドワーフの癖のようなものなんだ」
聞き取ったことを紙にとりまとめていた街道警備隊のドワーフ、ツィンクさんは、顔を上げ頭をかいた。
「うん、よく分かった。我が街の商人をよくぞ助けてくれた。街道警備隊を代表して礼を言わせてくれ。ありがとう、お客人」
「どういたしまして。でも、祭りの前にも周辺の魔物の掃討してたんでしょ?」
ツィンクさんもアレクさん同様敬語はやめてくれと言っていた。この世界では必要以上にかしこまった言い方になってしまうのだろうか?
「ああ、言い訳がましくなってしまうが…。アレクさんも本当に申し訳ない」
「いやいや、近場だからと護衛も付けなかったわしにも責任がある。お互いに、幸運とこの若者達に感謝して、いい教訓になったと思うことにしよう」
ちなみに俺たちは、冒険者志望の閉山祭の観光客で通した。志望動機とか聞かれ無くてよかった。そもそも冒険者がなにかよく分かってない。
荷物の少なさ、見慣れぬ格好、ジャージをジロジロ見られたが、機転を利かせたナデシコが俺の手をとり、腕を絡めると、それ以上は聞かれ無かった。
たぶん、良家のお嬢様の家出、逃避行みたいなシナリオがツィンクさんの中で出来上がってるのだろう。
「あの素材については、こちらで買い取らせて貰うことでいいかい?あの様子だと結構な値がつきそうだ。祭りの終わりまでには、査定が終わるだろうから、さっき説明した詰め所に来てくれ」
「わしからは護衛料を払わせてくれ。なんといっても命の恩人じゃ、多少色を付けたいところじゃが…」
アレクさんはチラリとツィンクさんを見る。
「…冒険者ギルドの規定から大きく外れる金額だと、さすがに公人として見過ごせないな」
「うーん、そうじゃ!服を贈るはどうじゃ?ここから店までの護衛料、とうことにしての」
「それは…俺たちはうれしいが、いいのか?」
「まあ、俺は何も聞かなかったことにするよ。俺が知ってるのは、『街の外で魔物に遭遇、たまたま居合わせた冒険者志願者が撃退したので、護衛料の相場を支払った』ということで、『祭りの日に知り合って気に入った若者に贈り物をした』なんてのはよくある話、わざわざ記録に残すまでではないさ」
ツィンクさんは記録していた紙を畳んで、苦笑するのだった。
こうして、思いがけず資金と衣服を手に入れられることになった俺たちは、ようやく街に入ることになった。木刀を回収した際、ドワーフ達から質問攻めにされそうになり、急いでいるので、という言い訳の常套句を使ったり、アイゼンさんから背中をバシバシ叩かれたことは省略する。
石畳の町並み、レンガ作りの家々に目を奪われる。祭りの喧噪は遠くから聞こえ、目に見える人通りは思ったより少ない。
目抜き通りは別にあるようで、先ほどの門は小型車両用か地元民用のものだったのだろうか。
いまは、アメリアちゃん両手を俺とナデシコが片手ずつ繋ぎ、アインさんの乗るトカゲ車は後ろから来ている。
「あのね、今日はおひるから、あとーさんおかーさんとお祭りにいくの!二人も手をつなぐとき、こうしてくれるの!」
ご機嫌アメリアちゃんの報告を聞いていると思わず顔がほころぶ。先ほどの問答もあり、今の時刻は昼前だろうか。
20分ほどでアレクさんの自宅についた。店舗の規模は2階建てで、面積はコンビニより少し大きいくらいだ。今は店舗前で共同駐車場にトカゲ車を置きに行ったアレクさんを待っている。
「あ、あかーさん!おとーさん!」
突然、駆けていくアメリアちゃん。その先を見ると、二人の男女が連れ立って歩いていた。
「はは、父さんより、後になってしまったか。楽しかったかい?アメリア。」
「うん!あのね!おにーちゃんとおねーちゃんに助けてもらって、ぽんちゃんといっぱいお話したの!」
「ん?助けてもらって?お話?アメリア、お義父さんは?」
二人ともアメリアちゃんより少しくすんだ金髪、同じ目の色をしている。その両目が、こちらを捉える。ご両親で間違いないだろう。
一方、こちらは芋ジャージ、アンド木刀装備。木刀は地面に置いてはいるが、字面だけみれば通報案件だ。
ここは、最初にきっちりとした挨拶をして誤解されないようにしければ。
そんなことを考えているとアメリアパパがこちらにダッシュ。いきなりのことに気圧されていると…。
「君たち!その服はなんだい!?初めて見るよ!生地も留め具も今まで見たことない!王都の新作、いやエルフの特別制の服なのかな!?」
「落ち着けよ、アンタ」
「触ってもいいかい!?」
「いいわけないでしょ、ぶっ飛ばすわよ?」
誤解は免れないかもしれない。




