44.そこで対峙する両者と謎の仮面
『さあ!5人の審査員の紹介も終了したところで、お待たせしました選手入場です!』
事前の打ち合わせ通り、俺達からの入場だ。
「はりきって行くわよ!」
ナデシコと俺は、今日のために設置された特設キッチンに向かって歩き出す。
その後ろを、仮面を付けた1人の女性が追従する。顔が半分隠れるタイプの狐の面だ。
そう、ナデシコが異世界より持ち込んだものである。
『経歴は一切不明!冒険者志望か、旅人か!その正体ズバリ放浪の料理人!ヤマトとナデシコ!アーテナイ様に見込まれた実力を見事に発揮出来るのか!』
『なお、お二人には補助として、一名助手が付きます』
「あ、おかーさん!」
「…しーっ!…アメリア、しーっ!」
シャーロットさんだった。ぶんぶんと一層元気に手を振っているアメリアちゃんは駆け寄らんばかりだ。
会場の喧噪で周りには聞こえてないだろう。
どうしてこんな面白い、失敬、大変な事になっているかと言うと、そう俺達のせいだ。
料理対決は最初、アーテナイと俺達は指示をしている体で所謂プロが実際に料理する予定だった。
そして、それに噛み付いたのはナデシコとアーテナイ。
「ふざけんじゃ無いわよ!料理ぐらい私達で出来るわ!」
「他人の腕で喧嘩なんてゴメンだね!やりゃ良いんだろ!アタシ達で!」
俺含む、男性陣の反対意見など届く筈も無く、またシェーヌの計画はズレるのだった。
しかし一つ問題が、アーテナイはともかく俺達は世界のズレがある。
似たような物があるのは知っているが、もしかしたら調理法によっては大きく性質が変化してしまうかも知れない。
しかし、会場で仕事があるこの場の3人以外で、俺達の事情を知り、この世界の食材の特徴が分かり、料理が出来る、そんな人材が…………居たわ。
というわけで、シャーロットさんの協力を取り付けに行ったのだった。
アメリアちゃんの審査員の件含め、終始上の空だったような気がするが、仕方ないよね。
食材集めは俺達で行ったが、その下処理のお手伝い、及び現地での監修、助手としてシャーロットさんは雇われた。アメリアちゃんの審査員のお仕事含め、アメリアちゃん一家には十分な報酬が出るらしい。
昨日、俺達が居た招待客の観覧席には、アレクさんカレブさん親子が座っている。
アレクさんは頭を抱えている。なにか、辛い事でもあったのだろうか。
なになに?
「……異世界って、なんじゃ?」
そう言えば、アレクさんに話したっけ?まあ、今は勝負が優先だな。
招待客の観覧席には、審査員の食べる料理も運ばれる予定なので、お腹を満たしてほしいと思う。
ちなみに仮面はナデシコの心遣いで、シャーロットさんもそれに縋ることになった。
しかし、ご覧の通り、知り合いにはバレるものなので、後でより恥ずかしくなるのでは?
と思ったが、シャーロットさんの心の健康の為に黙る事にした。沈黙は金。
それに、大事を成す者は仮面を被る。これもまた、異世界だろう。
『そして、この名を二日連続で呼べる栄誉を喜びましょう!七天将星!赤のアーテナイ様!ご入場です!』
『アーテナイ様には、とりわけの際と食料の搬入に助手が付きます』
会場の盛り上がりも最高潮だった。今日のアーテナイは調理服を着ている。腕まくりをし、髪は纏め上げている。貫禄が凄い、そんな訳ないのだが、凄腕シェフの様だ。
そして、今日の担いだ武器は昨日より凶悪だ。斧だ。昨日の木製では無く、金属製のゴツい斧。金属部分など、アメリアちゃんの身長くらいある。調理に使うものと聞いているが、一体どんな料理をするつもりなのだろうか?
俺達は対峙した。会場の中心で。
昨日は誰も居ないような中、向かい合ったが、今日は観客の大歓声を受けながらの対峙だ。
自然、高揚する。俺達は緊張より、胸の高鳴りの方が強かった。
「なあ、今ここで喧嘩始めたら、気持ちいいって思わないかい?」
「ちょっと止めてよ、アーテナイ。…その気にしちゃうでしょ?」
アーテナイとナデシコは目線のみで、互いを挑発している。
「全く、似たもの同士め。……今日は、料理で語ろうぜ?」
俺はため息交じりに2人を止めた。しかし、これも勝負だという自覚はある。
今日は、料理とは言え手加減抜きだ。しっかり、勝って気持ちよく宴に行きたい。
「私達、お酒は駄目だけど、勝利の美酒ってのは、いつでも大歓迎!…そうよね、ヤマト?」
「ああ。でも奢らなくていいぜ。………勝手に味わうからさ?」
「ハン!いい啖呵だ!アタシの料理でその酒も味わえない位、腹一杯にしてやるよ!」
『おっと、両者笑顔でなにか話しています!仲がいいですね!』
『ええ!きっとお互いに今日の料理への意気込みを語っているのでしょう!ですよね!?』
俺達は、その言葉に応えるように空に向かって拳を突き出した。会場はそれに合わせて歓声を上げる。
そこに、仮面の下で苦笑していたシャーロットさんが一言。
「もう、3人とも仲良くしてくださいね…?」
「「「すいませんでした」」」
「止めてください!三人とも、私にそんなに深々と頭を下げないでください…!」
………ざわ………ざわ
「アーテナイ様が頭を下げたぞ…」 「一体何者」 「いや、俺は冒険者だから分かる。アーテナイ様だけじゃ無くて、あの2人も相当の魔力の持ち主だ…!」 「じゃあ、その3人に頭を下げさせるあの人、いやあのお方は…」 「ほんの僅かな魔力しかを感じないぞ」 「まるで一般女性のようだ」 「そんなわけないじゃない」 「ふむ、修練の果て、完全に己の魔力を大小すら制御してみせる達人もおるという」 「なるほど、料理、いや食は全ての元、極めるのもまた達人」 「達人」 「仮面の達人…!」 「仮面の達人はアーテナイ様の料理の師匠、ということか?」 「つまり姉妹、弟弟子対決…!」 「ふむ、弟妹弟子に付いたのは、これもアーテナイ様への試練というわけか」 「アーテナイ様を試すなんて、とんでもないぜ。仮面の達人!」 「これは勝負が読めないわ…!」
とんでもないことになってしまった。
困惑していた観衆は勝手に納得して、謎の幻影を作り出していた。ざわめきは今や歓声に変わっていた。
それ即ち、仮面の達人伝説。
『えー、なにやら、会場に誤解が広がって居るようですが……それでは!勝負を開始致しましょう!!』
「ちゃんと誤解を解いてください…!」
仮面の達人、もといシャーロットさんの声は無情にも届かない。
『ええ、「大宴会新名物、お料理対決」スタートです!』
かくして、賽は投げられた。ついでにこの騒動については、匙を投げられた。




