04.かの時を刻むもの
「ところでなんでルーズリーフとボールペン?」
「ああ、今日持ってきた物の中で今の状況で役立ちそうなのは、これくらいだったからな。ナデシコこそ、よく方位磁石なんて持ってきてたな。しかも、小学校の頃に探検ごっこで使ってたやつ」
「ん?学校には持ってきてなかったわよ?これも部屋の引き出しにしまってたの」
っていうことは、つまりこれは所謂…
「チートアイテムじゃねぇか。いや、やってることは秘密道具に近いが」
「名付けて『取り寄せバックパック』ね」
「それ、ほぼほぼそのままだな」
それからはまた二人で検証を始めた、レジャーシートを取り出して座ってから、お互いに出し入れを繰り返す。結果としては、
「明確に自分のものしか取り出せないわね。書物、電気・電子機器は不可、この鞄の口より大きい物は出せないけど、この鞄より長いものなら取り出せる、傘なんかね」
「そして、誰かに貸したり、預けてるものでも取り出せる。姉ちゃんに貸して帰ってきてなかったタオル、父さんに預けてる小遣いで買ったキャンプ用のナイフ…」
「共有のものは私の分だけは出せるみたいね。昨日、お父さんが買ったきた家族用の六個入りのシュークリームも、冷たいまま二つ取り出せたわ」
「?ちょっと待て、ナデシコの家って爺さん、婆さん、親父さん、お袋さん、兄さん、ナデシコの6人だろ?」
「お兄ちゃんのシュークリームは私のよ?」
「…兄さん」
小さい頃からゲームや漫画を貸してくれた人のいい兄さんの顔が空に浮かぶ。
俺たちより5歳年上のインドア趣味の大学生。ほとんど外で遊んでいた俺とナデシコだが、時にゲームを教えてもらったり、カードゲームの対戦相手だったりした。普段は大人しいのに、キャラ再現デッキを使うとそのキャラの口調になる愉快な人だ。
「行程としては、
1、鞄に手を入れる
2、取り出したい物を思い浮かべ掴む
このとき、取り出せない物は掴めない
3、取り出すものの名前を言いながら取り出す
ってとこかしら」
「付け加えるなら普通の声で構わない。型番とかメーカー名はいらない。逆に自分で名前をつけてる時には、その名前を言わないと出せない。だよな、ぽんちゃん3世」
「くっ、殺せ!」
ナデシコの鞄から取り出した狸のぬいぐるみを撫でていたが、騎士様に速攻で取り返された。
鞄ギリギリのサイズのデフォルメされた狸が、鞄に押し込まれていく光景は謎の哀愁を誘う。
「逆にしまう時にはなにも言わなくてもいいのな」
「代わりに、この辺に生えてた草花を入れようとしたら、はじかれたけどね」
俺たちの物を出し入れ出来るが、それ以外は受け付けない。
「そう言えば、電化製品、俺が普段使ってる電池式の目覚まし時計は駄目だったけど、去年爺さんに貰ってたやつがあったよな」
「ええ、確かにまだ試してなかったわね。出てきなさい!『自動巻き懐中時計』!」
「必殺技かな?」
革のケースに入ったそれは、誕生日に送られた物だそうだ。
異撫家は15歳を節目とし、現当主から一生物の贈り物を賜るのが伝統らしい。
ナデシコが貰ったのは、自動巻き懐中時計。メンテナンスを怠らなければ、一生使える代物だ。
実は俺も何故か、ある物を貰ったというか、押付けられたのだが、今は出さなくていいだろう。
「ええっと今は………え?」
「どうした、文字盤を見て固まって」
示された時刻は、午前8時10分、校門から見た校舎の時計と同じ時間。おかしい、ここに来て30分以上は経過したはずだ。
「……メンテナンスは?ズレてる可能性は?」
「やってる。その可能性もない、昨日も確かめた…はずよ」
ナデシコは急いでケースごと鞄に戻し、目を閉じ数を数え始める。ナデシコの時間感覚は正確だ。小学校の頃に流行ったストップウォッチ10秒チャレンジでは、0.05以上の誤差を出したことがない。すぐにハブられていた。60、数え終えたナデシコが早口で名を告げ、再び取り出す。
「……午前8時10分」
二人でしばし、文字盤を見る。程なく、分針は11分を示した。再び数を数え始める。
60、数え終えたと同時に分針は12分を示した。ナデシコは再び時計を鞄に戻した。
また、沈黙が訪れた。
「今、私がなに考えてるか分かる?」
「この鞄の中に俺たちの物が全部入っている可能性もあるが、もしかしたら…」
「繋がってるかもしれない、私たちが飛ばされたあの時に」
俯いていたナデシコは立ち上がり
「この際、魔法、魔術、スキル、チートなんでもいいわ。絶対に取り戻すわよ!私たちの最高の高校生活!」
異界の空に吠えるのだった。こうなったナデシコは、笑っている俺の幼なじみ強い。
「ハッ!だよな、俺たちに大人しく異世界スローライフなんざありえねー、っての!」
立ち上がり、手のひらを掲げる。瞬間、衝撃と同時に乾いた音が鳴る。これ、俺以外だったら肩外れてましたよ?ナデシコさん。それでもニヤリ笑って受け止める。
「私たちの戦いはこれからよ!」
終わりません




