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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~  作者: 沢クリム
『赤ノ章 祝祭のラケル』 第二節 グルメバトルと過去、アーテナイの誓い

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37.それは疾走しないし、転がらない

「あれ?そう言えば、私達の魔力の使い方が自己流だって、よく分かったわね…」

ナデシコの言葉に俺も気付いた。あの闘技場で見ていたのだろうか。


「それはもう。……私が見たのは、繰り返される衝突音が気になり、闘技場に戻った時に見たのです。あり得ない光景が」

あり得ない、って。

「そんな大げさな」

「いいえ、これまでの魔法の定石を揺るがすような……。そうですね、魔法の定義は『魔力を特定の形状に形成し放出する』。なのにその放出を誰かに任せる。これは、魔法ではなく、魔法の亜種とでもべきものですね」

魔法の亜種、それって……。

「つまり、アホウってことね?」

いや、俺も一瞬思ったけども。ナデシコさん?俺たちアホウ使いになっちゃいますよ?


「ええ、このアホウですが…。」

ディスられてる?シリアス顔やめれるかな、シェーヌ。

「発展させれば…形成するものと、放出するもの。集団戦闘の定義を変えてしまうものなのかも知れません。恐るべきはアホウですね」

いや、繰り返し言うのは狙ってるだろ?

「しかし、お二人の高レベルの魔力の同調あればこそ、という前提がある以上、お二人以上のアホウ使いは居ないでしょうね」

何でだろう、全然褒められてる気がしない。真面目な顔で言ってるんだこいつ、としかならない。


「ま、私達がお似合いって言うのは否定しないわ。お礼にいい物見せてあげる」

まさか、アホウが阿呆に聞こえてるの俺だけか?

俺が多数決の敗北を感じていると、ご機嫌なナデシコがなにやら『取り寄せバックパック』をごそごそと。


「じゃーん、『そろばん』。じゃ、伝わらないか。計算補助器具、とでも言えばいいかしら?」


張り切ってなにを出してるんだこいつ。小学生時代のやつなんて取り出して。いや、ちょっと待て…。

「……ナデシコ、ちょっとその『そろばん』見せてみろ」

「え?……あ……」

やってしまった、的な顔をしているナデシコから『そろばん』を取り上げる。

シェーヌには、俺の『そろばん』を渡した。


「計算補助器具ですか。私もいくつかの型はみたことがありますが、ここまで小型なものは珍しいですね。なるほど、下の玉で1から4、上の玉を含めて9。…そして位を上げるのですね…」

シェーヌは興味深そうに観察を始めた。よし、こちらの話は聞いてないな。


「ナデシコ、これはなんだ?」

そろばんをひっくり返す。そこについていたものは、フロント及びリアステーとそこに装着されたローラー。

ピンと来ない人に説明すると、小さい四駆に付いている、前バンパーと後ろに増設して付けられる回転盤とでも言うべき代物、コーナリングに強くなるカスタマイズがされていたのだ。そろばんに。

「……女子の間で流行ったデコレーションよ」

「いや、同じ小学校通ってんだわ。そもそも、そろばんにカスタムなんて男子もやってない」

休み時間になる度に、そろばんでレーシングなんて世紀末のような治安していなかった。お調子者が、机の上で走らせて、怒られるまでがせいぜいだ。

「ふぅ、分かったわ。身内の恥をさらすようで黙ってたけど、あれはそろばんの授業も終わって、家に持ち帰った時よ」

「追い詰められた犯人か、お前は」

「おじいちゃんに『わしのそろばんと勝負じゃ!』なんて、勝負を仕掛けられたの」

「なにやってんだジジイ」

現代日本で勝負を仕掛けられるなんて単語、ゲーム以外で存在したのに驚きだ。いや、仕掛けられてたな勝負、俺もナデシコに。

「最初は、廊下をどっちが早く転がせるかなんて平和な勝負だったんだけど」

「その時点で先生には怒鳴られるのは確実だけどな」

「段ボールで傾斜をつけたステージを自作し始めてからおかしくなったわ」

「…ちょっと楽しそうだな」

「それで、コースも複雑化していって、カーブに苦戦するようになったから、お兄ちゃんに相談したら、このカスタマイズを教えて貰ったの」

「止めろよ兄さん」

「おじいちゃんはマスダンパーまで付けてたわ」

「そろばんに対する尊厳破壊選手権か?」

マスダンパーとは、衝撃吸収に上下する重りを車体に取り付けるカスタマイズだ。そんなもの裏面に付けたら、机の上に置けるはずがない。

「でも、そんな日々はある日、唐突に終わりを告げたわ。…そう、おばあちゃんに見つかったことによって、ね」

「当然の末路だろ」

残念でもないし、当然過ぎる。

「二人で段ボールを解体しながら、私は一つ大人になったのよ」

「なにをエッセイの締めみたいに言ってやがる。ギャグ漫画のオチだからな、それ」

それも小学生向け月刊誌のだ。よい子は真似しないでね、の注釈が付くタイプ。

窓辺から遠くを見るナデシコに、持っていたらハリセンでツッコんでいただろう。


「………なるほど使いやすい…。原料は…木。ですが……職人達なら、金属加工で同様のものが作れるのでしょうか…。…すいません!行き先を職人街へ!」

ずっとパチパチとそろばんを弄っていたシェーヌは、やっと顔を上げたと思ったら、とんでもないことを言い出した。

「「そのままでお願いします!」」

そして、御者はシェーヌを無視したのだった。アーテナイの屋敷はもう眼の前だ。


それから、『そろばん』は回収しておいた。今後もこの世界の『そろばん』で頑張ってくれ。


「ところでなんで、いきなり『そろばん』だったんだ?」

「事務仕事の人って言えば、『そろばん』出しとけってならない?」

「……ま、ほどほどにな」


いろんな意味で、『異世界』の常識を持ち込まないでほしい。

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