35.かの世界と似通った、この世界
少し落ち着いた後、居住階に戻ってシャーロットさんと朝の挨拶を交わした。
その際、二人とも疲れてるように見えると言われた。
ナデシコの疲れに気付いて居なかったとは、どうやら少し余裕がなかったようだ。少し反省。
さて、昨晩は山盛りの肉を食べた俺たち、一番食べてたのはアーテナイだが、その朝食は実に健康的だった。
俺たちがやーロットさんと一緒に用意したのは、焼いたパンに、定番の野菜のスープ、それから『グレープフルーツ』。
そう『グレープフルーツ』があったのだ。でも、俺たちの世界の物とは少し違う。
ここで何気なく使っていたチートスキル、名付けるなら『翻訳』について考えることになった。
今まで、異世界の人々との会話で苦労した事はなかった。
それについて深く考えることはなかったが、どうやらこの『翻訳』さん、二つの世界で似たような物があるとそれを同じ物として、翻訳するようなのだ。
昨日の時点で、闘技場で飲んだ果実水により、すでに柑橘系の果物はあることは知っていた。
試したところ、『みかん』は通じず、『オレンジ』は通じた。
つまり、『グレープフルーツ』と同様に『オレンジ』に似たようなものがあるという事だ。
しかし、『みかん』は少なくともシャーロットさんの知る範囲にはない、という事になる。
「……じゃあ、私が飲んだ『ミルク』ってなんだったの…?」
ナデシコが正気度を削られた、そんな朝だった。
ちなみに、この『ミルク』の正体は意外とすぐに分かることになるのだが、今の俺たちには知るよしもない。
朝食が用意出来た辺りで、アレクさん、カレブさん、アメリアちゃんも起きてきた。
眠たげに眼を擦りながら「おはよー」と言ってくるアメリアちゃんは今日も可愛い。素直さと可愛げで街のトップがバックに付いただけある。
そんな面々に挨拶や、昨日のお礼をして、食事も食べ終わった頃、外から馬の嘶きが聞こえてきた。
窓から見下ろすと馬車だ、道幅の半分はある。御者は男性ドワーフだ。でも、一つ違和感がある、牽引する馬が1頭しか居ない。気付いた、馬車はもちろん、その馬もそうとう大きい。
「……いや、馬がデカ過ぎね?」
「ばん馬くらいあるわね……」
ばん馬とは、重いソリを引いて力や速さを競う競馬の通称であり、これに出走する馬のことだ。
つまり、デカい。普通の馬の2倍くらいの大きさだ。2mの筋骨隆々のアーテナイがアレに跨がれば、さながら世紀末救世主伝説だ。
「そうかな、普通だと思うけど…」
「もしかして、異世界の馬って小さいのかしら?」
「お馬さんかわいいー」
「うむ、あれは王都の大型送迎モデルじゃな。アーテナイ様の屋敷のも配備さてたものじゃ。……え?異世界?」
アメリアちゃん一家も通りを見下ろす。馬に対しては驚いた様子がない。
そうか、アレクさんの小型馬車をトカゲが引いていた理由が分かった。こちらの馬は平均的にあのサイズなのか。小型の馬車では馬の方が、どう考えてもオーバースペック。維持費的にも、トカゲの方が優秀なのだろう。
「迎えを寄越すって言ってたけど、大げさ過ぎるわね。」
「めちゃめちゃ目立つな。いや、この街のトップの公用車って考えれば、普通なのか?」
「待たせるのも悪いわ、行くわよヤマト。帰り道を探しに!」
「ああ、別世界の手がかりを掴む!…じゃあ」 「「いってきます!」」
後ろから、「行ってらっしゃい」の合唱を聴きながら階段を駆け下りる。若干一名、困惑気味だった。
俺たちの荷物、と言っても『取り寄せバックパック』と木刀くらいだが、それを装備し、玄関から出た。
シェーヌが、ちょうど車体から降りてきた所だった。
「おはようございます。ちょうどお声を掛けようとしたところでしたが、もう出発なさいますか?まだ、時間に余裕はありますが」
にこやかだった、だがちょっと顔色が悪い。
そう、まるで、昨日予想外のことに緊急的に対応して、その後も騒動の原因はのんきに風呂を済ませ、飯を食べてきたことを知り、しかも翌朝その元凶の片割れの迎えを頼まれ、その手配に奔走した顔だった。
「昨日は色々ありがとうごさいました!」
「大変お世話になりました!今日もよろしくお願いします!」
同様の事を察したナデシコと、二人で頭を下げた。シェーヌはため息を一つ。
「いえ、お二人に非は、……ありません、少ししか。どうか顔をあげてください」
第一印象の不思議なエルフはどこへやら、苦労人エルフの胃は今日も痛みに耐えるのだった。
やっぱり、少しはあると思ってたんだ、俺たちに落ち度。




