32.その秘匿は破られた
「なんだか力がでないわ」
「俺もだ」
あの後、ナデシコの内なる獣、羞恥心との戦いに辛くも勝利し、食卓に着いていた。
眼の前には人数分の昼間のスープ、山盛の串焼き。アーテナイがひとっ走り買ってきたらしい。そろそろ本格的に伝説の英雄か疑わしい。いや、伝説のはずだ多分。
昼間に食べた肉の串もあれば、つみれのような肉団子、魚の開きのようなものもある。
魚は珍しいようで、アメリアちゃんは先ほどから魚とにらめっこしている。
「そりゃ、魔力を限界まで使うってのは、気力が削がれるからね。意識があるだけ、まだ底じゃないってことさね」
ナデシコ産たんこぶを付けた自称伝説が解説してくれた。抵抗をしなかったあたり、本当に気のいい姉さんだ。
「それにしても、きっと二人のご両親も心配してるわよね。なんとか連絡が付くといいのだけど…」
「変わってるとは思ってたけど、まさか別の世界からなんてね。早く帰れるといいね」
額にデコピンの跡、ナデシコの超手加減版、を付けた二人も食卓に着く。
そう、俺たちは別の世界から来た、と打ち明けていた。おかしい、わりと重大イベントなのにあっさり終わってる。シャーロットさんに至っては、ちょっとした迷子への心配レベルの発言だ。
ある意味、それ以上の秘密を四人に先ほど見られた訳だが……。いかん、詳しく考えると、俺の中の獣、羞恥心が目を覚ましてしまう。
簡単な経緯を話終えた後も、なるほどだからか、と納得をされていた。
「私たちって、そんなにズレてたかしら?」「上手くやってたつもりなんだが…」
「「「……え?」」」
大人達のぽかんとした顔に、自分達のスパイミッションへの適正のなさを思い知る。そんなにか。
「ねぇ、アメリアちゃん。お姉ちゃんのことどう思う?」「お兄ちゃんのことは?」
「んー、ちょっとへんだけど、二人ともすきだよ?」
「「アメリアちゃん…!」」
前半は聞かなかったことにしよう。ちなみに、食事を始めた後、アメリアちゃんは魚を一口食べた後、カレブさんの肉団子との交換を提案していた。両者合意の上のトレードだった。
「っくー、酒が飲みたいねぇ…!でも、我慢我慢」
串焼きをほおばりながら、アーテナイがうなる。肉の串がどんどん消えていく、やはり筋肉を作るのはタンパク質なのか。
「我慢なんて意外ね。ドワーフはお酒好き、って私達の世界でも有名よ?」
ナデシコ、アメリアちゃんは肉団子がお気に入りだった。シャーロットさんは魚、俺とカレブさんはバランス良く食べている。肉、肉団子、魚の三角食べ、某からくりアニメのオープニング曲ではないが、キャベツはどうしたと言いたくなる。アレは揚げ物だが。今は生野菜が恋しい、いくら美味しくともスープでは代わりにならないのだ。
「祭りの三日目、明日は夕方から大宴会なんだよ。今日の闘技場で飲み明かすのさ。その為今日は我慢するのさ」
「なんで五日ある内の中日なんだ?」
「そりゃ、最終日だと次の日の仕事に響くだろ?四日目だと、潰れたまま最終日。ほら、三日目が最適ってわけさ。四日目はドワーフの店はほとんど午前中は締まるから注意しな」
「お酒で潰れる前提なのね。噂以上だわ…」
恐るべし、ドワーフの酒に対する執念。祭りの日程を酒の都合に合わせるとは。
「それで、アンタらの願いは、その異世界への帰り道を探す手伝いってので、いいんだね?……ちなみに串は祭り会場で集めてるよ、最終日に盛大に燃やすんだ」
「ああ、そうだ。……串は形状ごとに纏めよう、その方が嵩張らない」
「そうよ。帰りたいの。…もうこの紙袋が一杯だわ。新しいの頂戴」
先ほどまで食べていた串を片付けながらの会話だった。締まらない。
「アタシには、異世界への行き方なんて思いつきもしない。ともかく、明日の午前中にでもアタシの屋敷に来るんだね。今のドワーフの工房を仕切ってるヤツと、シェーヌも居る。この町で一番、多く職人、他の都市の業者の声を聞いてるヤツと、エルフ関連の情報、魔法の知識を持ってるヤツさね。それでも駄目なら、アタシの人脈、使ってやるよ」
アーテナイは不敵に微笑んだ。任せろと言わんばかりだ。
「飲み仲間かしら?」
「違う。いや、アイツらとも飲むけど…」
「酔っ払いの言う別世界じゃ当てにならないだろ。分かった、酒屋さんだ」
「………ウソだろ…コイツら、本気で言ってる…」
さっきの表情はどこへやら、アーテナイは愕然としている。まるでアイデンティティの危機でも訪れたようだ。あとはなんだろう、近所の寄り合いでもあるのだろうか。消防団アーテナイ、めちゃめちゃ似合う。
「あー、コホン、二人とも?アーテナイ様の、二つ名だよ、二つ名」
カレブさんが助け船をだした。シャーロットさんも気まずげだ。ああ、そう言えば何度か名乗りを上げてたな。
「七天将星、だったな」
「世界を滅ぼしかけた黒き竜と戦い、不老不死の加護を得た七人………」
胸を張るアーテナイ。腰に手を当て鼻高々だ。
「マジかよ!こんなのがあと六人…!?」
「この世界は今までどうして平和だったの…!?」
世界中で喧嘩祭が開かれているというのか、この世界は。
「アンタら、明日の集合場所を闘技場に変えてやろうかァ…?」
「「すみませんでした!」」
明確な命の危機に、俺たちは即、頭を下げた。




