31.このとても騒がしい夜に
俺たちが、離れたのは、どれくらい時間が経ってからだったろう。
名残惜しくもあり、熱くなり過ぎた身体は溶け合い、元が一つだったようにも思えた。
二人で、裏庭から出ようとした。そんな時、
「もー、しゃべっていーい?」
「ええっと…」「うん…」「そうだねぇ…」
八つの瞳と目があった。ああ、それが、八つの瞳の化け物だったら、どんなによかっただろうか。
残念ながら、非常に見知った顔だった。
それぞれ、無垢な瞳のアメリアちゃん。両手を頬に添え、顔を赤くしたシャーロットさん。苦笑したカレブさん。気まずげに眼を反らし、頭を掻くアーテナイ。
「………………………………………………………………………………………いつからだ」
その言葉を発した事を褒めて欲しい。ナデシコなど、口をパクパクとさせ、呼吸困難の金魚のようだ。
「シャーロット、ボクは勇者だ」
「いきなり、何を…」
「キミを救うのがボクの使命だ」
「……まぁ、この辺りさね」
いきなり始まる。謎の、いやなんだか見覚えのある寸劇。いや、夫婦漫才だろうか。そして、注釈を入れるアーテナイ。
そっかー、じゃ、その直前のシーンは見られてないのか、よかった。……な訳ねぇだろ!恥ずかしいわボケ!
「あのね、おふろやさんから出た時に、おにーちゃんもおねーちゃんも居なかったから、みんなで帰ってきたの。そしたら、お庭の方で声が聞こえて…そしたら」
「アメリア!駄目!」「ちょっと待ちな!」
アリシアちゃんの言葉を止めようとする女性陣。無垢な瞳にからかいの色はない、ただただ純粋に事実を述べた。
「ふたりがちゅーしてたの」
ふたりがちゅーしてたの、二人がちゅーをしていた、俺とナデシコがキスをしていた。なるほど、俺たちのファーストキスは同時上映だった訳だ。おかしいな、配給許可だしたっけな。
いやそうか、さっきの夫婦漫才は俺たちに配慮されていたわけだ、ハハハ。いや、どちらにしろ恥ずかしい、って!!!
俺とナデシコはなにも言えない。実家が恋しい。より正確に言うと実家の布団が恋しい。今すぐ、枕に顔を埋めて叫びたい。
「その……なんと言ったら良いのか…おめでとう?」
「ええ、そうね。ごめんなさい…は変よね。おめでとう」
「いや、参った。勝てない。アンタらの勝ちだ。おめでとう」
「?おめでとー!おにーちゃん!おねーちゃん!」
祝福は山彦のように繰り返された。そこでやっと、硬直が解けたナデシコが俺の裾の引っ張った。
「ヤマト……お願い、今すぐ抱きしめて…!」
「おお」「まぁ」「やるぅ」
俯いた顔は耳まで赤い。ナデシコさん!?あなたそんな雰囲気に流されるタイプでしたっけ!?
大人達が色めき立つ声が聞こえた。黙ってろアンタ達!
「じゃないと、私……みんなの事殴っちゃう…!」
全身から魔力を漲らせたナデシコが、涙目で言う。理性ある人としての叫びだった。気のせいかもしれないが、闘技場の時の数倍はあるそれは、天を突かんばかりだ。まずい、死活問題だ。俺の幼なじみが異世界で人を殺してしまう…!犯行動機は照れ隠し、情状酌量の余地なく執行猶予も付きそうにない。
「アーテナイ!三人を連れて逃げろ!」
「これは不味いね!行くよ!三人とも!」
「ナデシコちゃん!自分に負けないで!」
「ヤマトくん!ここはキミに任せた!」
「ばんごはん、もうすぐだからねー」
アーテナイは、素早くアメリアちゃんを頭の上に乗せ、シャーロットさんとカレブさんを両脇に抱えた。
その状態でも一言いってくる根性は見上げたものだ。
っていうか、アメリアちゃん以外、ここが最終決戦のノリだ。後で覚えてろ大人ども…!
「ううう、あああああああああ!」
「ナデシコ!気持ちは分かる!というか、アーテナイは後で一発殴る!死なないから!カレブさんとシャーロットさんには、魔力なし!魔力なしで!」
すぐにナデシコを抱きしめる。字面が同じなのに本当に先ほどと同じ行為だろうか、腕の中で暴れるナデシコは、すでに暴走状態だ。俺も魔力による強化で対応する。
「そりゃなくないかい!?……ヤマト!その手、放すんじゃないよ…!」
まだ、近くに居たアーテナイがツッコんでくる。最後の一言は、妙に優しかった。
「当たり前だ!言われるまでもない!」
「うう……!」
腕の中の抵抗が一瞬、弱まった。しかし、結局、二人の魔力が枯渇するまで、その拘束、あるいは抱擁は続いたのだった。




