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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ  作者: 沢クリム


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3/19

03.その鞄の中には

「…さあ!気を取り直して現状の確認よ!」


落ち着いてからの気まずい沈黙を裂くように、ナデシコは声を上げる。左手を腰に当て、右手でガッツポーズ。とても、先ほどまで震えていた女の子には見えない。


「ああ、そうだな。場所は…正直、俺に心当たりはない。それに、言葉にしづらいが、空気がなにか変な感じだよな?」

「私もよ。子供の頃に海外に連れて行ってもらったことはあるけど、どこにも当てははまらないわ。空気感も…慣れれば、息苦しい感じではないわね」


ナデシコは見た目通り代々の名家である。家業は詳しくは聞いて居ない。持ち家は一等地に庭どころか、蔵まで建っている。平日はお手伝いさんが通い、季節ごとに庭園業者が出入りする。かくれんぼどころか、侵入者撃退サバゲーごっこまでやったことがある。めちゃめちゃ怒られた。

ちなみに、我が家は道を挟んだ一軒家。共働きの一般家庭である。

隣同士なのに、遊びに行くときは待ち合わせがほとんどなのは、ナデシコの趣味である。


「ともかく分からないなら、現状分析だな。森の中の林道なのは間違いないが…道には車輪のあと、わだちがあるな」

「この轍も車のじゃない…片側1車線で、見たことないけど馬車?でもその割には、ひずめの後はないわね。なにかしら?この足跡……。道の脇には人の足跡、靴底は…革靴?」


その後も、道の脇の植物を調べたり、木を見上げ、謎の野鳥を観測した。藪の中に入る勇気はなかったので、現在地で調べられることは終わったといっていいだろう。結論としては、


「「なるほど、分からん」」


既存の知識は役に立たない。日本かどうかも怪しい。

いや、一つだけ、突拍子とっぴょうしもない、それでいて今の状況に合致する単語がある。

そして、その可能性を思い至ったのは俺だけではないようで、


「よし、いちかばちか。やってみるわよ。…コホン、『これが今流行の異世界転生ってやつかー、ステータスオープン』!」

「…しかし なにも おこらなかった。いや、正確には転移じゃないか?」

「次はアンタがやりなさいよね」

「『ステータスオープン』!」

「…しかし なにもおこらない。元気出しなさいよ、ヤマキング」


哀れんだ顔で肩を叩かれた。誰がコイやねん。最後にやった方がスベった空気になるのは理不尽だろ。


「後、出来るのは装備品の確認ね。私は学校の制服にリボン、ブーツ、ハンカチ、ティッシュ・・・。あ!スマホ!」

「マジだ!なんで忘れてたんだよ!俺たち!」


現代の万能道具が意識から抜け落ちていた。普段、二人でいるときは基本的にスマホしまっている。それでも、二人して今まで忘れていたのはやはり動揺を引きずっていたのか。しかし、ここが圏外かつGPSでも特定できなかった時、先ほどのお巫山戯ふざけが途端に真実味を帯びてくる。

バックパックを地面に下ろす。そして、チャックを開けて…。


「なんだ…これ…?」


黒。暗い。穴。

背負っていた鞄の中身が見えない。

そこにあったものがない。底がない。底知れない『なにか』の口が開いたような…


「てい」

「ナデシコさん!?」


ためらうことなく手を突っ込んだ幼なじみに思わず声がでる。開いた口が塞がらないうちに、その手を取り出した。


「方位磁石~」

「なんで?…え!なんで!?」


ドラ声気味の幼なじみに、驚くことしかできない。いや、スマホじゃないの!?


「んー、あんまり嫌な感じしなかったのよね。だから、とりあえず手を突っ込んで、スマホを探したら全然掴めなかったのよ。だから、代わりに方位磁石でもあればいいのに、なんて思ってたら、気付いたら手の中にあったのよ」

「…心臓に悪いから今度から事前に相談しろよな?」


こいつの直感は大体当たる。今日はあと何回驚くことになるのだろうか。


「いや、ともかく俺も覚悟を決めるか」


腕を中に入れる。この光景に違和感はあるが、不快感はない。

とっくに鞄の底に付くはずなのに、なにも掴めない。ならばと、代わりの目当てのものを思い浮かべる。

掴めた。今日一の不思議体験だが、そのまま取り出そうし……幼なじみの期待に満ちた目に気付いた。え?やるの?一回やれば十分ですやん。違うよ?さっきの覚悟は、ドラる覚悟じゃないよ?

……やりゃいいんだろやりゃあ…!


「か、紙とペン~」

「……照れが見えるわね、70点」

お前ふざけんなよ。



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