28.その水に溶ける熱と迷い
「ほほほ、そうですか。二人がアーテナイ様と試合をしてウチにいらっしゃったと。そして、一撃かましたシャーロットさんを大変気に入って頂け、ウチで食事をしたいと。うむうむ、お好きになさるが良かろう。食事の前に、共同浴場で汗を流されてはいかがですかな。…………ワシもう寝る、飯も大丈夫じゃ」
あの後、大混乱のシューロットさんをなんとか宥め、俺たちの服を買い直すというアーテナイが出した大硬貨のおつりを受け取る受け取らない問題を片付け、居住階にいたアレクさんへ報告した。
菩薩の様な笑みだった。だがそれは、ベテラン商人の冷静な対応ではなく、キャパオーバーを起こしていた故のものだった。
「あー、しみる。……物理的に」
共同浴場の施設は充実していた。なんとサウナも大浴場もあったのだ。無論男女別で。
石けんも、タオルもアーテナイが俺たちの分まで買って投げ寄越した。礼は言ったが、それに腕を振るだけで応えていた。かっこいい、今度真似しよう。換えの下着はチートアイテムから出した。
今は、サウナのとなりの水風呂に浸かっている。打撲の後は、暖かい風呂は止めた方がいいと聞いたことがある。共同浴場に歩いていく間にも、青あざは引いていき、今は普段と変わらないほどまで回復したが念のためだ。
この回復速度は、回復魔法ともともとの体質の合わせ技だろうか。
「やあ、ヤマトくん。となりいいかな?」
サウナ上がりのカレブさんだ。もしかしてこの人、男子トイレで隣に立ってくるタイプなのかもしれない。ちょっと横にずれた。
「いやー、まさかアーテナイ様に勝っちゃうなんて流石だね」
「…どうも」
「その顔、どうも納得してないみたいだね」
それはそうだ。アーテナイは一体いくつの縛りがあったのか、どれほどの差があるのか、正直想像が付かない。
でもまあ…、楽しかった。自分の力を思う存分使うことが、それをぶつける相手が居ることが。
良いことではないのだろう。なのに、思い出すだけで高揚する身体の熱がぶり返す、俺はそれをごまかすように水で顔を洗った。
「……今日、祭りを回ってる時にね。たまたま、売り出されている素材を見たんだ」
カレブさんは、語り出した。顔を洗ってる時だったので、その表情は見逃した。
「魔物のなりかけのブラックベア、買い手が多くて明日競売に掛けられるんだって。遠目だったから、ボクしか見てない。それでも、分かったよ。………もし、キミ達が居なかったらきっと、ボク達はきっといつまでも、二人の帰りを待って、門に走って、森を走って、冷たくなった二人を見つけていたのかな……」
カレブさんは、眼を瞑っている。声も俺にしか聞こえない様に小さく、それでいて震えている。
「ありがとう…。きっと、何度言ってもこの恩を返す事は出来ないけどね」
「…俺は、ただ出来ることをしただけで……」
「それでも、キミは、いやキミ達は出来ることの中から、ボクの家族を守ることを選んでくれたじゃないか。…きっとキミ達はなにか、事情があるんだろう。なんとなくわかるさ、ボク達は大人だからね。気になるけど、聞かない。…でも、その助けになりたいだ。ボクに出来ることがあったら、何でも言って欲しい」
ああ……そうか、力はきっと守るために、誰かに寄り添うためにあるんだ。
ナデシコを一人にしない、困ってる人を守る、寂しがっている英雄に、俺たちが居ると知らせるために。
先ほどの高揚が、身体の表面の熱さが、身体の芯の熱さに変わる。
これからも、出来る事から守る方を選べるように、
「……強く、なりたいな」
「それは……流石に、助けになれないかな」
カレブさんは苦笑した。俺たちは同時に顔を洗ったのだった。
「……ところでヤマトくん。キミの下着を詳しく見せてもらうことは可能かな?アレはとても機能的だったね。腰の部分は預かってる服のもあった伸縮性の素材で…」
「頼み事は少し黙るってことで」
色々台無しなカレブさんだった。
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共同浴場の女湯、脱衣所にて
「きょうはみんなでおふろ~」
「もう、あんまり騒いでは駄目よ?アメリア」
「久しぶりだねぇ。作ったかいあったよ」
「ああ、そう言えば500年くらい町長なんだっけ、アーテナイ」
「扱い軽くないかい?」
「私勝ったし」
「ああん?」
「なによ」
「もう、二人も喧嘩は止めてくださいね…?」
「「すいませんでした、シャーロットさん」」
「止めてください。二人とも、私にそんなに深々と頭を下げないでください…!周りの視線が、周りの視線が痛い…!」
「みんな、さわいじゃ、め!」
「「「……ごめんない」」」
力関係は複雑なのだった。




