25.その勝者の名を呼ぶものは
「ムカつくのよ、アンタ。指導者気取りの上から目線、いいえ、それよりヒドい。遊んでる子供をみる親の目線だわ」
アーテナイは、目を丸くしている。おそらくこんなこと誰にも言われたことがなかったのだろう。
「俺たちは買ったぜ?喧嘩も勝負もな。でもアンタは、宣言してない強化は縛る。ヒビの入った武器も換えやしない。そりゃ使わないよな、すぐに終わっちまうもんな。伝説の英雄様が、か弱い人間とのお遊びに、本気なんて出したら恥ずかしいもんな」
「「舐めんな、ボケが」」
俺たちが一歩踏み出した。アーテナイは動かない。
「そっちが、勝手に縛りプレイするなら」「こっちも同じ縛りでやらせて貰うわ」
二人でアーテナイの胸ぐらを掴んだ。アーテナイは動かない。
「改めて名乗っとくか。俺はヤマト、アンタの喧嘩相手」「私はナデシコ、アンタの喧嘩相手」
二人でその胸ぐらを引き寄せた。アーテナイ様は動かない、しかしその瞳は揺れている。
「「そこんとこ、よろしくゥ!」」
頭突き、一閃。胸ぐらを放した。その場でアーテナイは片膝をついた。
「まあ、2対1ってのが締まらないんだけど…」
「言うなよ。ウエイト、体重で言えば、大体一緒だろ、多分」
ナデシコと俺は肩をすくめる。アーテナイは俯いたままだ。
「……いいだろう。後悔する、いやさせる、させてやるよ。私はアーテナイ。かつてのドワーフの王レキアンダーサの娘にして、呼ばれし二つ名はドワーフの炉の化身。……戦士!アーテナイ!」
その巨体が立ち上がる。その身に宿るのは怒りか、それとも歓喜か。先ほどまでのアーテナイを火口に例えた。ならば今はまさに
「アンタらの、喧嘩相手さ!」
「「上等!!」」」
噴火だ。それに立ち向かう無謀を笑うものはここには居ない。吠え、刃向かう、泥臭い喧嘩が幕を開けた。
丸太のような腕が俺たちに迫る。拳は鉄球。足は石柱、足先は鉈。時にその巨体は、重戦車の様に俺たちにを跳ね飛ばそうと闘技場を駆ける。どの攻撃も直撃すれば、吹き飛ぶ。打ち所が悪ければ最悪の結果がまってる。
俺たちは時に避け、時に反撃。避けきれない攻撃もあった、飛ばされた距離の合計で、闘技場内を往復出来るかも知れない。試した技術は空手、ボクシング、拳法などなど。知りうる知識はおおよそ試した。子供同士の戦いごっこで身につけたそれは、もし普通の人間相手なら容易く殺傷にいたる。そして、それらは時に人体の急所に当たる。だが、アーテナイは倒れない。一度受け止め、その後に反撃が飛んで来る。
殴り殴られの応酬、三者三様に傷つき、苦痛に顔を歪め、高揚と闘争本能に身を任せ、吠えた。その喧嘩は、いつまでも続いた。
やがて、やりとりは、究極まで単純化した。
即ち、俺とナデシゴが殴る。アーテナイが受け止め、反撃する。飛ばされた俺たちが立ち上がり、近づき殴る。
三者、肩で息をしている。
俺とナデシコは、全身に土にまみれ、青あざの付いてない箇所はあるのだろうか。
アーテナイの膝は震え、殴った後にはふらついている。
限界は近い。理性が、立つなと声を上げる。暗い視界から十分やった、もういいだろう、心中からはそんな声がする。
うるさい、黙れ。
一瞬、気絶していたらしい。拳を握りしめ立ち上がる。
「はぁ……はっ、いくわよ…!ヤマ、ト」
隣から、ナデシコの気配がする。振り向くことすら難しい。でも、こいつの背中を見たくない。隣にいたい。
「っは、……ああ、とう、ぜん、だ…!ナデ、シコ…!」
その思いだけで前進する。足を引きずり、前へ、前へ。
「「「おおおおおおおおおおおおおおおおお!」」」
遠くから声がする。不思議とうるさくない。盾と斧を打ち付ける音。人々の歓声。幻聴だろうか。
アーテナイの前に来ていた。その眼を見る。
ああ、楽しそうだ。見守る楽しさじゃない、一人のプレイヤーとして楽しんでる。
これで最後の一撃だ。そう思ったのは何度目だろう。こちらの一撃を受けるためか、その腕が開かれる。
二人で拳を握る。それは同時にアーテナイ身体に直撃する。そこが限界だった。
二人してアーテナイへ倒れ込んだ。それは、体当たりのようで、遊び疲れた子供のようでもあった。
アーテナイは俺たちの体重を受け止められず、大木が倒れる時のようにゆっくりと後ろに倒れ、その身を地面に預けた。
『せ、背中が付きました!決・着!決着です!無限に続くかと思われたブン殴り合い!伝説を!我らの英雄の試練を超えた若者が二人!その名は…!』
……いつから居たんだ、実況。勝者の名を聞く前に、俺は意識を手放した。
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『ヤマトとナデシコです!』
実況の声が響いているのは、観覧席。
「ま、魔法の激突音とかうるさかったしね。なにかあると思った人たちが、主にドワーフだけど、次々集まって、気付けば満席。事態の収拾のために実況さんまでもどってくるなんて、ね」
「ベン、誰に言ってるのよ?」
「整理してるだけさ。参考にならない魔法の後には、殴り合いが始まるなんて、ボクもさすがに現実か疑わしくなるよ。リニー」
「なーに、かっこつけてるのよ、アーテナイ様が倒れた瞬間、私の隣から叫び声が聞こえたのは気のせい?」
「キミこそ、声が枯れてるよ」
「アンタの手のひらの爪の跡は?」
「……ああ、そうだね。魔法使いとしては失格だけど、殴り合いに魅入ってしまった」
「いつ起き上がらなくなるかヒヤヒヤしたわ。全く、心配掛けんなっての。でも、確かに一発かましたわね、アイツら」
「一発どころか勝つとはね」
「不思議ね。もっと嫉妬すると思ったわ」
「キミはいい人だからね。実はボクもキミと同じ気持ちで一杯さ」
「やったわね、ナデシコ」 「おめでとう、ヤマト」
二人は、観覧席を後にする。ヤマトとナデシコの運ばれた。控え室を目指すのだった。
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