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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~  作者: 沢クリム


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24/40

24.その勝負に決着を

アーテナイは前進、俺たちはそれを黙って見ていた。互いの視線は一度も逸れない。

互いの距離は5m程で立ち止まった。アーテナイは地面に木槌を叩きつける。どういう付与があったのか、半径1m範囲が整地された。その中心にそびえ立つのは身長2m越えの伝説の女ドワーフ。

火、炎、篝火、いやまるで火口を覗いた様な熱が、赤い髪と黄金の瞳が語っている。

次の一撃は必ず打ち返す。そして、俺たちに一撃を叩き込む、と。


あの距離で打ち返せる訳がない。そんな甘い考えはなかった。

「『ストーンボール』ダブル」

事前に確かめたこと、それはボールの明確なイメージ。元々、ナデシコはバッティングの方が好きで、俺はピッチングの方が好きだった。故に、ナデシコも生成までは出来たのだが、俺の方がより元の世界の球体に近かったのだ。そして、先ほどまで繰り返した連続生成、球体の精度はより高まった。もはや、現実の物と同型同性質を持っていると言ってもいいだろう。加えて、二つ同時の生成も可能になった。

ナデシコもバット、いや杖を予備の物に交換した。杖も先ほどまでの酷使で途中からヒビが入っていたのだ。その状態でも狙いは正確だった。杖を交換した今、どこでも狙い通りに打てるだろう。


不思議な時間だった。勝負の最中だというのに、互いの準備を妨害もせず待つ。

静寂。それを破ったのは、ナデシコ。


「勝手に…シン渡抜闘ドバット…!」


なぜにサザン。一瞬ツッコミに意識を持って行かれるが、集中を切らさないように注意。

ナデシコ、今日一番のスイングスピードを記録。それはボールを二つ捉えた。

アーテナイが動く、どこかで見たような回転。そう、どこに当たるか分からないなら、全方位を守ればいい。まさにパワープレイ。その回転エネルギーを次の助走に使うもよし、『双杖』の二人にやったように、片方に牽制の投擲を行うもよし。

ボールが迫る。回転が極限まで高まる。

だが、弾かれる音は聞こえない、着弾する音が二つ。そう、アーテナイの足下に。

一瞬その表情に落胆が浮かんだような気がした。だがアーテナイの行動に迷いはない、が選択したのは、付与を維持したままの突撃。回転の勢いを次なる一歩に変換するため、大地を踏みしめる。しかし、


「……何っ!?」


そこに迫る物がある。バウンドしたボールだ。

そう、今までのボールは地面にめり込んでいた。だが、今度のボールは跳ねた。それも、アーテナイに向かって。アーテナイは知らない。バウンドしたボールの処理の難しさを。

故に、意識は下に、足下から迫るボールへ向く。……俺たちが目の前に居ると言うのに。


アーテナイが数歩で達する距離ということは、こちらにとってもそれは同じ。

ナデシコはスイング直後のダッシュ。ただ野球と違うのは、手に魔力を付与したバット、杖を持って。

俺は、しゃがみ姿勢から、杖を手放し、片手剣を抜きながら。


ボールとナデシコは同時、俺は一拍遅れて。

アーテナイはそこでも判断を誤らない。自分に迫った最大の脅威、上段から迫るナデシコの杖を木槌で受けた。


「はぁぁあああああ!」

「ぐっ!……がはっ…!」


始まる鍔迫り合い。そして、二つのボールはその鉄板の様な腹筋と、大樹の幹のような左太ももに吸い込まれた。身体に強化を施していないアーテナイにとってその衝撃は、石の拳の一撃に等しいだろう。だが、鍔迫り合いで不覚をとるまでには至らない。しかし、一瞬、付与が緩んだ。


「ここだ…!」


その一瞬を、俺は見逃さない。木槌の重りの根元、それを下段から切り上げる。ナデシコはそこで不意に力を抜いた。

ドワーフでも最高の付与を施された木槌は、切れることはなかった。

だが、急檄な力のベクトルの変化、本日初めて直撃した攻撃への動揺。それがもたらした結果は、


木槌が闘技場の空に舞う。


それは、事前にアーテナイが宣言した唯一の武器。あとは、身体能力が残るが、相手は強化した身体能力に付与を施した剣と杖、その気になれば先ほどの魔法で体力を奪い続けるのも出来る。勝負の決着は付いたも同然だろう。


「やるじゃないかい…!」


闘志は衰えていない、拳を握りしめて嬉しそうに笑っている。そして、俺たちは、


「何を、してるんだい…?」


俺は剣を地面に突き立てる、ナデシコは杖を放り投げる。


「まだ、まだ終わっちゃいないよ!」


困惑、動揺、理解不能。楽しみにしていたお菓子を落としたような、遊びの予定がキャンセルされたような。伝説の存在であるアーテナイに似合わない例えが浮かぶ。


「知ってるわ。まだ終わってない。そして、まだ始まってもない。」

「もう十分勝負を楽しんだろ?だからさ、ここからは…」


二人の防具も全てその場に置いた。

俺たちは身に纏った強化も、魔力の同調も解除した。


「喧嘩の時間よ」 「喧嘩の時間だ」


二人で片手で拳を握る。それをもう片方の手のひらに打ち付ける。

乾いた音が二つ、闘技場に響いた。

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