24.その勝負に決着を
アーテナイは前進、俺たちはそれを黙って見ていた。互いの視線は一度も逸れない。
互いの距離は5m程で立ち止まった。アーテナイは地面に木槌を叩きつける。どういう付与があったのか、半径1m範囲が整地された。その中心にそびえ立つのは身長2m越えの伝説の女ドワーフ。
火、炎、篝火、いやまるで火口を覗いた様な熱が、赤い髪と黄金の瞳が語っている。
次の一撃は必ず打ち返す。そして、俺たちに一撃を叩き込む、と。
あの距離で打ち返せる訳がない。そんな甘い考えはなかった。
「『ストーンボール』ダブル」
事前に確かめたこと、それはボールの明確なイメージ。元々、ナデシコはバッティングの方が好きで、俺はピッチングの方が好きだった。故に、ナデシコも生成までは出来たのだが、俺の方がより元の世界の球体に近かったのだ。そして、先ほどまで繰り返した連続生成、球体の精度はより高まった。もはや、現実の物と同型同性質を持っていると言ってもいいだろう。加えて、二つ同時の生成も可能になった。
ナデシコもバット、いや杖を予備の物に交換した。杖も先ほどまでの酷使で途中からヒビが入っていたのだ。その状態でも狙いは正確だった。杖を交換した今、どこでも狙い通りに打てるだろう。
不思議な時間だった。勝負の最中だというのに、互いの準備を妨害もせず待つ。
静寂。それを破ったのは、ナデシコ。
「勝手に…真・渡抜闘…!」
なぜにサザン。一瞬ツッコミに意識を持って行かれるが、集中を切らさないように注意。
ナデシコ、今日一番のスイングスピードを記録。それはボールを二つ捉えた。
アーテナイが動く、どこかで見たような回転。そう、どこに当たるか分からないなら、全方位を守ればいい。まさにパワープレイ。その回転エネルギーを次の助走に使うもよし、『双杖』の二人にやったように、片方に牽制の投擲を行うもよし。
ボールが迫る。回転が極限まで高まる。
だが、弾かれる音は聞こえない、着弾する音が二つ。そう、アーテナイの足下に。
一瞬その表情に落胆が浮かんだような気がした。だがアーテナイの行動に迷いはない、が選択したのは、付与を維持したままの突撃。回転の勢いを次なる一歩に変換するため、大地を踏みしめる。しかし、
「……何っ!?」
そこに迫る物がある。バウンドしたボールだ。
そう、今までのボールは地面にめり込んでいた。だが、今度のボールは跳ねた。それも、アーテナイに向かって。アーテナイは知らない。バウンドしたボールの処理の難しさを。
故に、意識は下に、足下から迫るボールへ向く。……俺たちが目の前に居ると言うのに。
アーテナイが数歩で達する距離ということは、こちらにとってもそれは同じ。
ナデシコはスイング直後のダッシュ。ただ野球と違うのは、手に魔力を付与したバット、杖を持って。
俺は、しゃがみ姿勢から、杖を手放し、片手剣を抜きながら。
ボールとナデシコは同時、俺は一拍遅れて。
アーテナイはそこでも判断を誤らない。自分に迫った最大の脅威、上段から迫るナデシコの杖を木槌で受けた。
「はぁぁあああああ!」
「ぐっ!……がはっ…!」
始まる鍔迫り合い。そして、二つのボールはその鉄板の様な腹筋と、大樹の幹のような左太ももに吸い込まれた。身体に強化を施していないアーテナイにとってその衝撃は、石の拳の一撃に等しいだろう。だが、鍔迫り合いで不覚をとるまでには至らない。しかし、一瞬、付与が緩んだ。
「ここだ…!」
その一瞬を、俺は見逃さない。木槌の重りの根元、それを下段から切り上げる。ナデシコはそこで不意に力を抜いた。
ドワーフでも最高の付与を施された木槌は、切れることはなかった。
だが、急檄な力のベクトルの変化、本日初めて直撃した攻撃への動揺。それがもたらした結果は、
木槌が闘技場の空に舞う。
それは、事前にアーテナイが宣言した唯一の武器。あとは、身体能力が残るが、相手は強化した身体能力に付与を施した剣と杖、その気になれば先ほどの魔法で体力を奪い続けるのも出来る。勝負の決着は付いたも同然だろう。
「やるじゃないかい…!」
闘志は衰えていない、拳を握りしめて嬉しそうに笑っている。そして、俺たちは、
「何を、してるんだい…?」
俺は剣を地面に突き立てる、ナデシコは杖を放り投げる。
「まだ、まだ終わっちゃいないよ!」
困惑、動揺、理解不能。楽しみにしていたお菓子を落としたような、遊びの予定がキャンセルされたような。伝説の存在であるアーテナイに似合わない例えが浮かぶ。
「知ってるわ。まだ終わってない。そして、まだ始まってもない。」
「もう十分勝負を楽しんだろ?だからさ、ここからは…」
二人の防具も全てその場に置いた。
俺たちは身に纏った強化も、魔力の同調も解除した。
「喧嘩の時間よ」 「喧嘩の時間だ」
二人で片手で拳を握る。それをもう片方の手のひらに打ち付ける。
乾いた音が二つ、闘技場に響いた。




