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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~  作者: 沢クリム


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23/36

23.その軌跡は星となり空へ消える

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


魔法が放たれているとは思えない鈍い音、アーテナイが地面を蹴る音、地面に魔法が激突する音。

そんな音が何度も繰り返されている。

闘技場に物騒な音が響き渡る中、一方観覧席では、


「はははははは!」

「笑ってんじゃないわよ!ベン!っていうか私言ったわよね!?止めときなさいって!」

「ああ、そうだね。ふふ、言ったね」

「なんなのアレ!?」

「ええっと、一人が形成して放出せず、その場でとどめて、もう一人がそれを打ち出してる?」

「杖で殴って!?」

「そうそう、杖で……、はははは!駄目だ、お腹痛い…!」

「あーもう!めちゃくちゃよ!学園でやってたら、反省文ものよ!」

「魔法を杖で殴ってごめんなさい、って?」

「ぷっ…笑わせんな!」

「でも、実際使われてるのは、すごい技術だよ。生成した魔法なんて、他人が中途半端に干渉したらその場で砕けるのに……」

「ほぼ完全に波長を合わせてる、ってこと?」

「うん、加えて打ち出す方も繊細なコントロールを…」


『やきうの時間だあああああああああああ!』


「……してるかしら?」

「天然でやってるね、多分。……いや、と言うか」


「「やきうって何?」」


笑いと困惑が広がっていた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


柄が破壊された後、アーテナイは直ぐさま後退を選んだ。

一足で2m程後退しただろうか、顔はこちらを見ている表情に先ほどまでの困惑はない。

俺も直ぐさま、第二球を生成した。ナデシコの再びのフルスイング、衝突音は二つ、打球音とアーテナイが地面を蹴る音。結果は、アーテナイ再びの後退、その近くの地面を抉る打球。

双方、その結果を予測していたように同じやりとりが数度続いた。

その度に奇声が上がる。俺の目の前から。


「やきうの時間だあああああああああああ!」

「おら!どうした一年!声で出てないぞ!」

「ファイトー!」


ナデシコの、おそらく、意味不明な叫びにもアーテナイは返す余裕はない。

やがて、アーテナイは後退を止め、左右に動くだけで避けるようになってきた。

その距離、奇しくも約18m、野球においてマウンドからホームベースの距離だ。


「ハッ!こうすればいいのかい!」


最小の動きでよけると、崩れた姿勢でボールを打ち返して来た。その打球はあさって方向へ飛んでいく。

予測より対応されるのが早い。しかし、こちらのやることは変わらない。

こちらはナデシコが体力、俺が魔力を削られていく。しかし、アーテナイの額にも汗が浮かんでいる。


当然だ。『ストーン』の土色はこの闘技場において視認性が悪い。打球速度は普通の野球で時速190km程まで出るらしい、今のナデシコは魔力による強化で世界最高峰の野球選手の筋力を超えている。

つまり、アーテナイは、時速200km越えの視認性最悪の打球が自分に向けて飛んで来るのだ。

シューティングゲームだとしたら、間違いなくクソボス。コントローラーを投げる自信がある。しかも、ナデシコは打球のリズムを意図的にずらしたり、スイングフォームを変えている。


それでも、アーテナイへの直撃はない。

それどころか、こちらのスイングフォームを学習している。破れかぶれのような、打ち返しからボールの芯を捉えてきている。使っているのが木槌にも関わらず、だ。

いよいよ、両足を広げたスイングフォームをとった。


「…!そういう狙いかい…!」


気付いたか、今アーテナイを追い込んだところは、闘技場でも地面凹凸がひどい所だ。

あれでは両足で踏ん張ることは難しい。こちらは、なるべく平らな地面を選んでから、杖を地面に突き立てた。

しかも、打球の直撃で穴が開いているところは増えていく。いずれ、足を取られる危険性もある。

アーテナイの注意しなければならない点に足下の状態も追加される。流れたのは明確な冷や汗。

伝説が焦っている。


「舐めんじゃあ、ないよ!」

「「な、何ィ!?」」


今度の驚きはこちらの番だった。攻略された訳でも、距離を詰められた訳でもない。

今、アーテナイがとっている姿勢。両足での踏ん張りを地形によって阻害された結果生まれたもの。


それ即ち、『一本足打法』。


かつてのホームラン王の姿勢だった。わずかの間に、ここまでの進化を遂げたアーテナイに俺たちは驚きと動揺が言葉になって溢れた。

そしてそこから放たれるのは、闘技場の空を裂くようなホームラン。打球は大きく場外を越え、星となった。

俺とナデシコは、ホームランを打たれた投手の様にその軌跡を見ていた。


HEY!NBAのスカウトはどうしたんだい!新たなホームランチャンプがここにいるZE!

…おっといかん、ナデシコと同調したせいか、ついノリがナデシコに。

そもそも、メジャーリーグはMLBで、NBAはバスケットだ。


「はぁ…はぁ……どうしたんだい?休憩か、ガキ共……」

「まさか…全然、ヨユーよ…!」

「その割には、さっきまでの、意味不明な叫びが消えてるねぇ…宴会芸はおしまいかい?」

「そっちこそ、ワクワク顔はどうした?あー、もしかして…年寄りには、激しい運動だったか?」


「「「は、はは!あはは!ハハハハハハハハ!」」」


俺とナデシコ、アーテナイの笑いが重なる。


「「アンタをぶっ倒す!」」

「よし、来い!クソガキ共!」


決着の時は、近づいていた。

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