20.その喧嘩を買う
「よく来たね。二人とも」
先ほどのまでの、声を大きくする魔法は使っていない。
腕組みをして、歩いてくる俺たちを待ち構えていた。
会場が大混乱だ。観覧席ではざわめきが収まらず、ベンとリニーは困惑の表情、先ほどまでの実況の人は誰かを呼びに行ってしまった。
「そりゃ、せっかくの招待だもの」
「事前連絡は欲しかったけどな」
「いやー、『双杖』の二人が思ったより随分やるもんでね。ほら見な、服が焦げて、槌の柄にもヒビだ」
自分の服と槌を見せつけてくる。どこまでも、楽しそうだ。どういう意味で俺たちを呼んだのか、分かりかねていると。
「期待してたなかった勝負でこの通りだ。だったら、久しぶりにワクワクしたアンタ達とはどこまで行ける?そう思ったら、ついね」
頭を掻きながら悪戯のバレた子供のように苦笑するのだった。
だが、その表情は槌をこちらに向ける間に挑発的なものに変わった。
「準備は?」
「荷物置きの時間は欲しいわね。ルールは?」
「控え室がある、使いな。ルールはお互い殺しは無し。殺す気は大歓迎、アタシは大丈夫、死なないよ。アタシの得物はコイツで、そっちには制限なし。今持ってないなら、控え室の予備で良かったら貸してやるよ。そっちは降参か、続行不可能で負け。アタシは両膝か、背中が付いたら負け。どれくらい時間が欲しい?」
武器が借りれるのか、そして随分なハンデ戦だった。
「30び」
「分だ。場所はここで?」
支度の時間を聞かれるとナデシコは30秒と応える習性がある。それでは控え室に行く時間がない。
「もちろん、それじゃあ…」
そのとき、闘技場全体を包む様に霧が現れた。俺たちの視界を遮る。そして、すかさずアナウンスが響き渡る。
『皆様。本日はご来場おりがとうございました。明日以降の催しについては、またご案内いたします。お忘れ物などありませんよう、気を付けてご退場ください。本日はご来場……』
シェーヌの声だ。アナウンスが繰り返される。会場の混乱は未だ静まっていないが、そのアナウンスによって観客が退出して行くのが気配で分かった。
「おい!シェーヌ!……ッチ」
あからさまに不機嫌な声のアーテナイ、舌打ちが一つ。霧が晴れるまで、10分ほど掛かった。
「あなた達は本当に………いや、本当に何をしているんですか?」
霧も晴れたあと、シェーヌが来た。観客も全員退出したようだ。
今俺達は、ベンとリニーを含めた5人は、取り出したレジャーシートの上で座っていた。
「霧の中で動くと危ないしね」
「これは俺たちの持参品だ」
「地面の上よりマシだから使ってるだけよ」
「ボクも座りたかったし」
「アタシだけ座らないのもな」
「……………はぁ、とにかく、少しは落ち着かれましたか?フォローをするこちらの身にもなってください。勢いのまま決めるのはアーテナイ様の美点であり、欠点です。それからお二人、ヤマト様とナデシコ様も乗らないでください。貴方達に、悪意がないことは魔力を見れば分かりますが…」
「じゃ、後20分ってとこね」
「おう待ってるよ」
「話は聞いたし、ボク達が控え室に案内するよ」
「私たちが使ったところでしょ?」
「助かる」
「…一体、何を言っているのですか?」
「アタシが売った」
「私達が買った」
「別に観客の有無とか関係ない。いや、むしろ居ない方が都合がいい」
「…名前を出されて、観客にも見られてたから手遅れだと思うのだけど」
「ははは、リニーは容赦無いな」
俺たち4人は、アーテナイを残して入場口へと歩いて行く。腹部を押さえたシェーヌも残し。
控え室に到着した俺たち、ロッカーや鏡がある訳ではない、何人も座れる長椅子と壁や部屋の奥にいくつもの武器や防具が並んでいる。サイズも様々だ。ホコリが積もってないところを見ると、定期的に使われているか、手入れをしているのだろう。
「私、ここで3時間潰せるわ」
「カフェかよ」
眼を輝かせるナデシコと物色を始めた。借りられるなら木刀よりいいものが有るかも知れない。
出来れば両手で持てる片手剣がいいのだが。ナデシコは、斧やら槍やらを手に取っている。
「何をしているんだい?汎用の杖ならここだよ」
「もうあんまり時間ないでしょ、武器で遊ぶなんて随分余裕じゃない。少しでも波長の合う杖を見繕えば?」
後ろから声を掛けられる。そう言えば二人が居た。
波長、なんてものもあるのか。しかし、杖?ああ、木刀は杖に見えるのか。
「いや俺たちは杖は使わないぞ?」
「そもそもアンタ達みたいに、魔法を飛ばす?なんてことも出来ないわ」
ベンとリニーが顔を見合わせる。何言ってんだこいつら、そう読み取れる。
「……ちょっと、待ってくれるかい?その魔力で魔法を飛ばせない?何かの不調か?」
「いや、昔から無意識に使ってたみたいだけど、明確に意識したのは今日が初めてだ」
「身体の周りに集めて、力を強くしたりは出来るけど、これも魔法なの?」
「……あり得ないわ。てっきり、出不精、不世出の魔法使いで世間知らずだと思ってたのに、そんな魔力について分かってない状態であの勝負を受けた、って言うの?」
「「そうだけど?」」
ベンとリニーは同時に頭を抱えた。
「あ、そうだ。まだちょっと時間あるし、魔法のこと教えてよ。お礼はそうね…」
「お前らを『期待してなかった』なんて、舐めた口を聞いた伝説さんに一発かます。で、どうだ?」
「「乗った」」
かくして、『双杖』と『ヤマトナデシコ』の一時同盟は相成った。




