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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ  作者: 沢クリム


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02.その門をくぐる

神社の裏道、あるいは幼なじみ曰くショートカットからしばらくたった。

途中には崖下りアスレチックもあり、さながら今日は桶狭間。おかしい、まだ通学初日なのに。

その大胆なルート選択のお陰か、まだ高校に向かう人通りは少ない。余裕のある時間取り、徒歩圏の高校という好条件もその一因だろう。


「今日はなんだっけ?朝は教科書とか、靴に運動着の受け取りでしょ?」

「ああ、2限から4限は初回授業、昼休み挟んで、5限は部活動、委員会紹介。6限は今日は無しだったはずだ」


話を聞きながら、ナデシコは髪を結んでいる。長髪の場合は結ぶのが規則なのだが、ゴムでもシュシュでもなく、赤いリボンでポニーテールなのは本人のこだわりだそうだ。リボンを口にくわえ、両手を後頭部に回し、髪を纏めて、なれた手つきで結ぶ。一連の仕草に若干の色気を感じて、早口になったかもしれないが、バレてはいないと思う。


「そうだったわね、ありがと。お昼は私は弁当だけどアンタは?」

「同じく。ごはんのあとは、校内一周するだったか?」

「もちろん!縄張りはしっかり確認しとかないとね。当然、アンタも来なさいよ?」

「猫かな?」


入学式含め通学初日の今日で2日目。我らが通う高校には早くもボス猫ナデシコが誕生してしまった。

そんな無駄話をしているうちに、校門までたどり着いた。俺はそのまま、校門をくぐろうとしたが、隣のナデシコが袖を引いた。


「ちょっと…今日は通学初日なのに、なんの感慨もなく普通に通ろうっての?入学式は駐車場からだったし、この門をこの制服でくぐる第1回目よ?」


少し不機嫌そうに俺を見上げてくる。昔からだが、ナデシコはこういったちょっとした記念を大切にしている。じゃあ、どうするんだ?と問いかけようとして、その問いを引っ込めた。

この場合の俺ができる最適解は、きっと…。すこし屈んで手のひらを差し出す。


「そうだな、迂闊だった。じゃあ改めて…。せっかくの第一歩だ。俺にリードさせてもらえるか?ナデシコ」

「うん……よきに計らいなさい、ヤマト」


その手を上機嫌に取るナデシコと手をつなぐ。これも昔からだが、人前でベタベタするのは趣味じゃないと言いながらも、手をつなぐ行為や体を寄せることを好んでいる。その相手が俺なのは、すこし、いやかなり嬉しい。

思えば、これをするために早めの集合時間やショートカットだったのかもしれないが、はにかんだ彼女の前ではどうでもいいことだ。


「それじゃ、せーのっ!」

かけ声に合わせて校内に飛び込んだ。




視界が暗転した。

走ってる最中に急に立ち止まったような急制動。

あるいは不意に誰かから背を押されたような衝撃。

今日の石段や、森を駆け抜けた時にもかかなかった汗が全身から吹き出る。

嫌な予感、悪寒、虫唾、例えるならそんなものが駆け巡り…


「…ヤマト!」


その声と手の中の温かさで意識を取り戻した。隣をみる。俺の方を見て、不安そうにしているナデシコが目に入る。

体勢は、校門を飛び越えた時と変わりない。わずかに震えているその手を自らも握り返して、ゆっっくり頷く。


「ナデシコ…平気か?」

「うん…アンタこそ、さっきの嫌なの、感じたんでしょ?」

「ああ、もう大丈夫だ。けど、ここは…」


周囲を見回す。

林道のようだ。先ほどまで居たのはアスファルトの道だったのに。

今まで見たことのない、草や花が道ばたに咲いている。さっきそこにあったのは見慣れたプランターだったのに。

高校が、住宅が、電信柱さえない。木々がどこまでも続き、先ほどまで聞こえていた小鳥の声さえも、明らかに違っている。

最大の違いは空気だ。重いのだ、匂いも色もないが、確実に今まで感じたことのない何かが、この空間に満ちている。

心臓の鼓動は激しく、震える体の節々が夢だという逃げ道を断ってくる。

一度、手を離れた不安感が襲ってくる。そんなとき、ナデシコが口を開いた、


「あ、あ…ありのまま 今、起こった事を話すぜ!

『私は校門をくぐっていたと思ったら、いつのまにか森にいた』

な…何を言っているのか、わからねーと思うが、 私も何をされたのかわからなかった…。

頭がどうにかなりそうだった…催眠術だとか超スピードだとか、そんなチャチなもんじゃあ、断じてねえ!もっと恐ろしいものの片鱗を、味わったぜ…」

「お前な…」


不安感も一瞬引っ込んだ。つないだ反対の手でポーズまで決めているポル「ナデ」フに、一言文句を言おうとして…やめた。

手が震えている。不安を感じているのは、俺だけじゃない。そのことが少しだけ心に余裕を取り戻してくれた。

今度は、もう片方の手を取り、ナデシコの目を見る。瞳孔が揺れている。目尻が震え、こちらを見返してくる。


「…大丈夫だ。ここには、俺とお前が居る。絶対なんとかなる。なんとかする。ありえねー状況だけど、ヤマトナデシコは無敵、だろ?」

「……うん、そう、よね」


つないだ手から力が抜ける。俺たちは汗で塗れた手を解き、互いの背に回し、お互いの心臓の鼓動が収まるまで抱き合った。

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