19.あまりにも高い壁
ベンとリニーは腰を落とす。ベンは大型の杖を腰だめに構え、リニー後ろ腰に固定していた短めの杖を片手で持ち胸の前に構える。
対するアーテナイは、片腕で槌の長い柄を肩にのせ、もう片方の手を二人に向けた。
そして、手招き。来い、言葉は無かったがそう聞こえた気がした。
お互いの距離は5m程、打ち込むには数歩の踏み込みが必要な距離。
『さぁ!互いに準備は万全!それでは………はじめぇ!』
ベンは後ろに大きく飛んだ。リニーは何かを叫んでいるように見えた。アーテナイは動かない。
「…ストーン、バレッド……?」
「どうした、ナデシコ?」
「耳に力を集中して、意識を闘技場に中に向けてみて」
リニーの前にいくつもの土色の結晶のようなものがいくつも浮かぶ。指先ほどの土色の魔力の結晶、それはリニーの杖の周りを旋回し、リニーが杖を振りかぶる。
「いけぇ!」
振り下ろしたと同時に結晶が発射された。何条もの光となってアーテナイへ迫る。
会場の歓声が有るはずなのに、リニーの叫びははっきり聞こえた。ナデシコの言った通りした後の変化だ。
アーテナイは槌を振り回す。無造作に見えるそれは、その実、攻撃を全て弾いている。
リニーは杖に魔力を込め続け、結晶の生成、発射を繰り返す。その表情は苦しげだ。
アーテナイは振り回す程に、槌に魔力が込められていく。やがて、その足が一歩一歩、前に進む。
魔力が抜け続けていく、リニー。魔力が高まり続ける、アーテナイ。
その差は明らかだ。
決して届かない壁がある。
一人ならで、だが。
後方のベンは、一つの青い結晶を生み出していた。指先程の大きさから拳大、それからボールほどになり、一抱えほどに膨張した後、今度は凝縮されていく。それが纏うのは冷気だ。
ベンとリニーの顔色は蒼白、アーテナイの表情は高揚していく、相対的な二組。
だが眼は不思議と似通っている。相手の次の行動を伺ってるのだ。
すでにリニーとは1m、槌の射程圏まであと一歩。
リニー魔力が途絶えた。魔力の籠もった木槌はリニーの杖を高く跳ね飛ばす。
リニーはそれに身体を取られ、完全にバランスを崩し、倒れるばかり。
「今よ!」
「『アイスカノン』!」
ベンは放つ、ボール大にまで凝縮された青い結晶を、槌を振りあげたアーテナイは受ける術が、
「甘いね」
その柄を根元で、砲弾のようだった結晶を地面に叩き落とした。ベンに迫り、杖へ槌を打ち下ろす。杖の先端が折れた。ベンの魔力も、もうほぼ感じられない。
決着、その言葉が浮かぶ。初撃に全てを込めた二人、杖を失うという結果にて終了。
否、
「そうか…!俺たちにどう戦うか聞いたのは…」
「アーテナイならどう考えるかの確認…!」
ベンが折れた杖をアーテナイに投げ、さらに懐から紙の様なものを投げる。
後ろからリニーが迫る。袖口にでも仕込んでいたのか、短く小さい杖。
「…起動!」
「『ストーンシュート』!」
前からは紙が火球に変わり、後ろから土色の結晶の挟み撃ち。
会場はどよめき、俺とナデシコは拳を握る。
アーテナイは笑っていた。
その場で旋回、木槌は火球をかき消し、結晶は飛ばされる。
そして木槌を手放す、魔力は解除された。ただの木槌はベンの腹部に吸い込まれる。
そして、アーテナイはリニーに迫り、杖を持った手首を持って吊り上げた。杖は落とされる。
それでも、リニーは睨み付け反対の手で拳を握り、それに応えるようにアーテナイも拳を握る。
「…参った…!僕らの、負けだ…!」
「…ベン!」
しかし、二つの拳は放たれること無く解かれた。
アーテナイはすぐにリニーを放した。すぐに蹲ったベンに駆け寄るリニー。
『決・着!決着です!終わってしまえば圧倒的!伝説は未だに健在!勝者!アーテナイ様!』
歓声はすぐさま会場に広がる。二人の健闘を称える声もある。
「あれが魔法か」
「そんで、伝説さんだけど、ヤマトはどう思ったの?」
「……遊んでたな。無邪気に」
「そうね。子供の頃の戦いごっご、覚えてる?」
「ああ、楽しんでる時のナデシコそっくりだったぞ」
「あそこまで邪悪な笑顔じゃなかったわよ」
「いや、邪悪って…」
アーテナイは、笑いながらベンとリニーの近くに行って背中を叩いている。
二人は困惑気味だ。言葉を選ばずにいうならおばちゃんの絡み方。これは口に出さない方がいいだろう。
『さて、アーテナイ様!皆に是非一言!』
『あ?おう、いいよ。アンタら祭りは楽しんでいるかい!』
「おおおおおおおおお!」
『アタシの戦いはもっと見たいだろ!』
『アーテナイ様!?』
「おおおおおおおお!?」
『よし!もう一戦行っとくか!』
「おおおおおおおおお!」
『打ち合わせにありませんよ!?アーテナイ様!?』
『出てこい!ヤマトとナデシコ!』
「おおおおおおおお!?」
『誰ですかそれ!?アーテナイ様!?』
「…ナデシコ、やっぱりその顔、アイツに似てるぜ?」
「だって、あんなに楽しそうなのに、断るなんて可哀想でしょ?」
「じゃ、遊びにいくか」
そして、俺たちは、観覧席から闘技場へ飛び込んだ。
『おい!シェーヌの旦那呼んでこい!え!?胃痛で動けない!?』




