14.赤熱との出会い
先ほどの猫と分かれた後、二人で大通りに出た。左胸に先ほどのピンバッチを付けている。
通りの交通量は、思ったほどではない。ドワーフの街と聞いて居たが、通りには人間が多い。ドワーフがちらほら、女性ドワーフが多い気がする。身長は男ドワーフと同じくらいだが髭は生えてない。さらに少なく獣人、猫型は見当たらない。というか、先ほどの猫は獣に近い外観だったが、道を歩くのは獣の耳が生えた人間といった感じだ。ナデシコは、何やら「…ケモ度1」と小さく呟いていた。
それから、一人の旅装の男が目に付いた。大きな背嚢を背負い、体型の隠れるローブ、木製の杖をついている。白に近い金髪、緑の眼に顔には薄くしわが刻まれている。今は土産物を売るドワーフの店主と話している。その初老の男性に目に付いた理由は耳だ。その耳は大きく、尖っている。これまでも各種族のイメージから外れなかったことから、エルフに間違いないだろう。典型的なイメージでは、ドワーフと仲が悪いイメージがあったが、終始にこやかだ。さすがに会話の内容までは分からないが。
ジロジロ見るのも失礼なので、そうそうに目を外して、辺りを見回す。
ナデシコも同様に周りを見回していた。先ほど猫からお上りさんなんてからかわれたが、今の俺たちこそまさにそれだろう。
「大通りを一周りしたら、いつものように街の外れから脇道しらみつぶしで、取り逃しないように全部回るってことでいい?」
「宝箱や採集ポイントはないぞ?」
まるでRPG的な町歩きだ。実は中学時代、周辺の駅の街は一通り制覇している。俺もナデシコも方向感覚はいい方なので、今まで迷子になった経験はない。むしろ、行く先々で迷子を助けていた。
「さっきみたいな面白い猫が居るかもでしょ?」
「かもな。俺の返答はいつも通りだよ。存分に連れ回してくれ。まぁ、いきなり走り出すのは止めてくれよな?」
「だったらしっかり握ってなさいよね」
ナデシコは笑って俺の手を握ろうとして…止まった。
どうした?と問いかけようとして、俺も気付く。何か、来る。
二人で街の中央の方へ身体を向ける。その直後、その方向から小さなざわめきが広がる。
人々は道を端により、ドワーフ達は姿勢を正す。海を割るモーゼのごとく道が二つに割れる。
その中心から歩いてくるのは、かなりのくせ毛の赤髪金眼の女性だ。
身長は2mほどだろうか、かなりの大柄だがそれより存在感の方が強い。革製の上下を身につけ、胸元は大胆に露出している。
人間かとも思ったが、腕の太さや足の太さ、筋肉の付き方がドワーフに似通ってる。
炎が歩いてきた。直感的にそう思った。
その女性が、乱暴に片手をあげた。
「気にすんじゃないよ。祭りを楽しみな、野郎共」
大きくないのに通る声だ。周りはその声を合図にしたように祭りの喧噪を取り戻した。
俺たちだけは、未だ動けずにいた。その女性が近くまで来る。そのまま通り過ぎるのをただ待っていた。
「ん?……ほう、杖を持った男。そして、その魔力……」
「……なによ」
金色の眼が俺たちを捉える。ナデシコはその目を見返す。その手は握りしめていた。
「くくっ、いやぁ…いい度胸だねぇ。お陰で楽しくなりそうだ」
「どういう意味だ?」
俺はナデシコの前に出た。その嗜虐的で楽しげな視線を受け止めた。手は平手、まだ木刀に手は掛けない。
「楽しまんきゃ損さ。そうだろ?ベンジャミン、ブルックリン」
「「いや、誰だよ」」
一気に力が抜けた。人違いかよ。
「ん?ベンジャミン?」
「違う」
「ブルックリン?」
「違うわ」
「……ブルックリン、ベンジャミン?」
「「逆でもない」」
「私はナデシコ!ただの祭りの見物客よ!」
「同じくヤマト。二人そろって今日初めて街に来たんだ」
「……あー、すまん。勘違いだ」
炎の様だ、と例えたが今の様子は残り火だった。つまり意気消沈。
「なんかないかねぇ。財布は置いて来ちまったし、酒は人間、あんま喜ばないし……お、これでいいか」
なにやらガサゴソとポケットや上着の内側を探していたが、一枚の紙を出して、差し出してきた。
「こいつをやるよ、情けないとこ見せちまった詫びさ」
「なによこれ」
「『関係者特別招待券』?」
何気なく読み上げたが知らない文字だ。そう言えば、出店の看板の意味も分かることに今更気付いた。
「もうそろそろ時間だからアタシは行くよ」
「ちょっと!アンタは結局誰よ!」
来た道を帰ろうとした女性にナデシコが声を掛ける。その声を掛けかれた当人は目を見開く、驚きは一瞬、再び楽しげにその口元は弧を描く。
「七天将星、赤のアーテナイ」
たじろいでしまいそうな熱は幻覚。幻視したのは、燃えさかる炉の中のような赤熱。
ナデシコは拳を握り、俺は木刀の柄を握りしめていた。
「いい反応だねぇ。……またな、ヤマトとナデシコ。覚といてやるよ」
アーテナイは去って行く。その背が人混みで見えなくなるまで力を抜くことが出来なかった。
これが、俺達にとって初めての七天将星との出会いだった。




