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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ  作者: 沢クリム


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13/19

13.その暗がりで出会うもの

あの後、革袋と中身を半分受け取り、通りを歩いていた。

アレクさんは家で休み、アリシアちゃん一家は約束通り3人で祭りをまわりに行った。

俺たちは、人の少ない通りから大通りを目指していた。魔法のことなど、二人で話したいこともあったからだ。


「こんな感じかしら?」

「マジかよ」


魔力ことを話すと、ナデシコはあっさりと全身に魔力を纏った。魔力の膜は俺のそれより、若干分厚く感じる。やはり天才か。


「ううん、出来てないわ。武器に意識を伸ばす、だっけ?私には向いてないみたい。それとも、ヤマトの木刀だからかしら?はい、返すわ」


手の中の俺の貸した木刀を見ながら、ナデシコは首をかしげる。すでに魔力の膜を解除している。

確かに、先ほど木刀は魔力を纏っていなかった。ナデシコから投げよこされた木刀を受け取り、吊り具に納める。


「どこにでもある木刀だぞ?姉ちゃんが修学旅行先で買ったやつを俺が貰った」

「…一時期主人公が木刀で戦う漫画にハマってたわね。姉さん」


今は二人とも先ほどの格好に改めて『取り寄せバックパック』を背負っている。俺は木刀を装備、ナデシコは報酬の入っていた革袋を腰に下げている。


「そう言えば、この世界の硬貨って、いくらくらいの価値があるだろうな」


元々の革袋に入ってたのが、硬貨の中央に穴の開いた硬貨が、90枚。

10枚を紐のような者で纏めていたものが、9本入っていた。一つを解いて、45枚ずつ分けた。


「ああ、それなら受け取ったのは中硬貨、一枚約1000円の価値で、今の手持ちは4万5000円、ってところね。他には一枚約100円小硬貨、一枚約10万円の大硬貨。大きな取引では手形や契約書を使うらしいわよ」

「アリシアちゃん情報?」

「正解」


なら間違いないか、ぽんちゃん3世がアリシアちゃんから聞き出した情報の一つなのだろう。

祭りは5日間、今日が2日間、今晩含め4泊。アレクさんの話だと報酬の5分の1で宿屋の相場、つまり4泊は中硬貨18枚、18000円。1泊4500円。

アレクさん、素泊まりを相場って言っただろ。



「人間さん、人間さん。ちょっと寄っていってくださいな。祭りの記念のアクセサリー、全部買っても中硬貨30枚ぽっち、お一つ買ってくださいな」


通りの暗がりから、猫なで声が聞こえた。

ナデシコと二人で、顔を見合わせ、暗がりに近づく。影に目が慣れ、輪郭が見える。黒い猫だ。猫型の獣人、だと思われる。体長は1mほどで猫としては大きいが、人としては小さい。ドワーフが居たんだから、獣人もいるかと納得した。ナデシコは、何やら「…ケモ度3」と小さく呟いていた。

通りに黒い敷物をして、その上にちょこんと座り、目の前には様々な30個ほどの指輪や、ネックレレスを並べている。蝶ネクタイに紳士帽。うさんくさいことこの上ない。


「こんなところに出店してるの?」

「へぇ、祭りの喧噪聞きながら、ちょいと通り外れた先の暗がり。ここに来るような物好き様は、ついつい一つ手に取って、中貨を落とす粋な方。そんな方が多いもんで」

「闇営業ってところか?」

「闇営業、とは言い得て妙。その言葉、今後是非使わせていただいても?」

「いや、いい意味ではないんだが。…言い直すよ。街の許可を得てるのか?」

「大通りは事前に申請が必要でごさいますが、他のところについては聞いてませんや」

「…得てるとは言わないんだな」


煙に巻かれるような言い方をする、つかみ所のない店主だ。

そんなとき、店主が両手のひら、いや両肉球をこちら向ける。

すると、光の球が生まれ、暗がりをぼんやりと照らす。


「ちんけな魔法でごさいます。夜歩きするには足りません、出来るはせいぜいこいつらを、人間さんにみせるくらい。どうか、ご覧くださいな。手に取り、目で見てくださいな」


ぼやけた光が、様々なアクセサリー達を照らす。銀色に何かの装飾がついたものが多く。

ナデシコと俺はそれぞれ何気なく一つ手に取る。これは……


「…鳥、かしら?」

「…雲?それとも空か?」


どちらも、銀色のピンバッチ。付いてる意匠は青と白、抽象的ではっきりとしない。


「人間さんの見たままに。それにしてもなんと奇遇、あっしがおすすめしようとしたものを、まさか自ら選ぶとは。気が合いますね、人間さん」


本当だろうか?猫の表情は分からない。


「一つたった一枚中硬貨、出会いの記念に、祭りの記念に。いかがでしょうか、人間さん」


一つ1000円。今の全財産の45分の1だ。

ナデシコにも迷いが見える。俺たちの沈黙を見たのか、猫が言葉を続ける。


「見れば、お二人の服は下ろしたて、このまま出店に出かけたら、お上りさんの坊ちゃん嬢ちゃん。しかし、そのピン付けて歩けば、しっかりお洒落なご両人。お似合いのお二人にお似合いの青色、身に付け歩くはいかがです?」

そんなとき、ぼやけた光が俺たちの周りをゆっくり回る。


「おやおや、よく見りゃお二人、黒い服をお召しのようで。黒は良い色、あっしの毛色。特別に、二つで一枚中硬貨、これ以上は負かりません」


特に値切ってないのに半額になった。あやしい。あやしいが、俺たち二人はそのピンを置けずにいた。

買おうとする理由が値段なら買わない方がいい。迷う理由が、値段なら買うべき。とはどこで見た話だったか。白状すると欲しい。雰囲気に流されてるような気もするが。


「…祭りが終わったら、毛皮のお金が入るのよね」

ナデシコも同じ意見みたいだ。もう革袋から中硬貨を出している。

「よし、買おう」

俺たちは、中硬貨を差し出し、猫はそれを受け取った。


「ありがとうございます。ここであっしが名乗ればかっこが付くんでしょうが、それは勘弁願います」

「どうして?」

「あっしは『語り草』になりたいと思っております。友や人に話す話のタネに、酒が入った時のデタラメ話に、そのピンを見たヤボが『そいつはどこで買ったんだい?』なんて聞いた時のカエシに。しかし、名乗ってしまうとそれは『商人の話』になっちまう。そいつはどうにも粋じゃない」


そう言いながら、猫はアクセサリーと敷物を一つの鞄に収納していく、それが終わると帽子を上げて一礼した。


「それではあっしはこの辺で」

「一応聞いておく、どこいくんだ?まだ祭りは続いているぞ」

答えは期待していなかったが、猫は肩をすくめこういった。


「もうすぐ見回りの兄さん方が来る時間なんでさ」


「「やっぱり無許可営業じゃねか!」」

俺たちは声を揃えて突っ込んだ。


「いいオチもついたようで、これにてさらば、ごきげんよう」


黒い猫が、暗がり向かって歩いていく。闇に溶けていくようにその背はすぐに見えなくなった。

どこまでもつかみ所のない、不思議な猫だった。

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