13.その暗がりで出会うもの
あの後、革袋と中身を半分受け取り、通りを歩いていた。
アレクさんは家で休み、アリシアちゃん一家は約束通り3人で祭りをまわりに行った。
俺たちは、人の少ない通りから大通りを目指していた。魔法のことなど、二人で話したいこともあったからだ。
「こんな感じかしら?」
「マジかよ」
魔力ことを話すと、ナデシコはあっさりと全身に魔力を纏った。魔力の膜は俺のそれより、若干分厚く感じる。やはり天才か。
「ううん、出来てないわ。武器に意識を伸ばす、だっけ?私には向いてないみたい。それとも、ヤマトの木刀だからかしら?はい、返すわ」
手の中の俺の貸した木刀を見ながら、ナデシコは首をかしげる。すでに魔力の膜を解除している。
確かに、先ほど木刀は魔力を纏っていなかった。ナデシコから投げよこされた木刀を受け取り、吊り具に納める。
「どこにでもある木刀だぞ?姉ちゃんが修学旅行先で買ったやつを俺が貰った」
「…一時期主人公が木刀で戦う漫画にハマってたわね。姉さん」
今は二人とも先ほどの格好に改めて『取り寄せバックパック』を背負っている。俺は木刀を装備、ナデシコは報酬の入っていた革袋を腰に下げている。
「そう言えば、この世界の硬貨って、いくらくらいの価値があるだろうな」
元々の革袋に入ってたのが、硬貨の中央に穴の開いた硬貨が、90枚。
10枚を紐のような者で纏めていたものが、9本入っていた。一つを解いて、45枚ずつ分けた。
「ああ、それなら受け取ったのは中硬貨、一枚約1000円の価値で、今の手持ちは4万5000円、ってところね。他には一枚約100円小硬貨、一枚約10万円の大硬貨。大きな取引では手形や契約書を使うらしいわよ」
「アリシアちゃん情報?」
「正解」
なら間違いないか、ぽんちゃん3世がアリシアちゃんから聞き出した情報の一つなのだろう。
祭りは5日間、今日が2日間、今晩含め4泊。アレクさんの話だと報酬の5分の1で宿屋の相場、つまり4泊は中硬貨18枚、18000円。1泊4500円。
アレクさん、素泊まりを相場って言っただろ。
「人間さん、人間さん。ちょっと寄っていってくださいな。祭りの記念のアクセサリー、全部買っても中硬貨30枚ぽっち、お一つ買ってくださいな」
通りの暗がりから、猫なで声が聞こえた。
ナデシコと二人で、顔を見合わせ、暗がりに近づく。影に目が慣れ、輪郭が見える。黒い猫だ。猫型の獣人、だと思われる。体長は1mほどで猫としては大きいが、人としては小さい。ドワーフが居たんだから、獣人もいるかと納得した。ナデシコは、何やら「…ケモ度3」と小さく呟いていた。
通りに黒い敷物をして、その上にちょこんと座り、目の前には様々な30個ほどの指輪や、ネックレレスを並べている。蝶ネクタイに紳士帽。うさんくさいことこの上ない。
「こんなところに出店してるの?」
「へぇ、祭りの喧噪聞きながら、ちょいと通り外れた先の暗がり。ここに来るような物好き様は、ついつい一つ手に取って、中貨を落とす粋な方。そんな方が多いもんで」
「闇営業ってところか?」
「闇営業、とは言い得て妙。その言葉、今後是非使わせていただいても?」
「いや、いい意味ではないんだが。…言い直すよ。街の許可を得てるのか?」
「大通りは事前に申請が必要でごさいますが、他のところについては聞いてませんや」
「…得てるとは言わないんだな」
煙に巻かれるような言い方をする、つかみ所のない店主だ。
そんなとき、店主が両手のひら、いや両肉球をこちら向ける。
すると、光の球が生まれ、暗がりをぼんやりと照らす。
「ちんけな魔法でごさいます。夜歩きするには足りません、出来るはせいぜいこいつらを、人間さんにみせるくらい。どうか、ご覧くださいな。手に取り、目で見てくださいな」
ぼやけた光が、様々なアクセサリー達を照らす。銀色に何かの装飾がついたものが多く。
ナデシコと俺はそれぞれ何気なく一つ手に取る。これは……
「…鳥、かしら?」
「…雲?それとも空か?」
どちらも、銀色のピンバッチ。付いてる意匠は青と白、抽象的ではっきりとしない。
「人間さんの見たままに。それにしてもなんと奇遇、あっしがおすすめしようとしたものを、まさか自ら選ぶとは。気が合いますね、人間さん」
本当だろうか?猫の表情は分からない。
「一つたった一枚中硬貨、出会いの記念に、祭りの記念に。いかがでしょうか、人間さん」
一つ1000円。今の全財産の45分の1だ。
ナデシコにも迷いが見える。俺たちの沈黙を見たのか、猫が言葉を続ける。
「見れば、お二人の服は下ろしたて、このまま出店に出かけたら、お上りさんの坊ちゃん嬢ちゃん。しかし、そのピン付けて歩けば、しっかりお洒落なご両人。お似合いのお二人にお似合いの青色、身に付け歩くはいかがです?」
そんなとき、ぼやけた光が俺たちの周りをゆっくり回る。
「おやおや、よく見りゃお二人、黒い服をお召しのようで。黒は良い色、あっしの毛色。特別に、二つで一枚中硬貨、これ以上は負かりません」
特に値切ってないのに半額になった。あやしい。あやしいが、俺たち二人はそのピンを置けずにいた。
買おうとする理由が値段なら買わない方がいい。迷う理由が、値段なら買うべき。とはどこで見た話だったか。白状すると欲しい。雰囲気に流されてるような気もするが。
「…祭りが終わったら、毛皮のお金が入るのよね」
ナデシコも同じ意見みたいだ。もう革袋から中硬貨を出している。
「よし、買おう」
俺たちは、中硬貨を差し出し、猫はそれを受け取った。
「ありがとうございます。ここであっしが名乗ればかっこが付くんでしょうが、それは勘弁願います」
「どうして?」
「あっしは『語り草』になりたいと思っております。友や人に話す話のタネに、酒が入った時のデタラメ話に、そのピンを見たヤボが『そいつはどこで買ったんだい?』なんて聞いた時のカエシに。しかし、名乗ってしまうとそれは『商人の話』になっちまう。そいつはどうにも粋じゃない」
そう言いながら、猫はアクセサリーと敷物を一つの鞄に収納していく、それが終わると帽子を上げて一礼した。
「それではあっしはこの辺で」
「一応聞いておく、どこいくんだ?まだ祭りは続いているぞ」
答えは期待していなかったが、猫は肩をすくめこういった。
「もうすぐ見回りの兄さん方が来る時間なんでさ」
「「やっぱり無許可営業じゃねか!」」
俺たちは声を揃えて突っ込んだ。
「いいオチもついたようで、これにてさらば、ごきげんよう」
黒い猫が、暗がり向かって歩いていく。闇に溶けていくようにその背はすぐに見えなくなった。
どこまでもつかみ所のない、不思議な猫だった。




