12.その報酬の使い道は
「おお、二人とも似合っておるぞ」
「うんうん。…あれ?てっきり、君が作った服の一式を送るかと思ってたよ。あのずっとお店にあるやつ」
「ええ、あの服にしたんだけど、やっぱり動きやすいのもあった方がいいかな、って。お義父さんとアメリアを助けて貰ったんだもの、2着でもいいでしょ?」
そう、ナデシコはあれから、さらに着替えて、襟付きシャツと黒いベストにベージュのズボン、つまり俺と似た格好をしている。実は、ナデシコは最初にこちらを選んだそうだが、シャーロットさんに押し切られたそうだ。ナデシコに押しで勝つとは、異世界でも母は強し。
「もちろんさ。そうだ、だったらヤマトくんはあれを送ろう」
カレブさんは、一度別の部屋に行くとすぐに戻ってきた。その手には革製品。
「これは…吊り具?」
「そうとも。調整すれば、その木剣を腰から吊せるよ」
「これは、助かるな。貰いっぱなしで恐縮なんだが…いや、ありがとうカレブさん」
「いいとも。あの服の件もお礼が足りていないと思っていたからね。それにしても!ジャージと言ったかな?実に素晴らしい!」
このテンションがなければ、紳士的でいい人で終わるんだが。
「生地全体の柔軟性!袖口は伸縮性の強い生地で、土やほこりの侵入を防いでいる!ズボン部分のウエストにも同じ者が使われてるね!さらにウエストの紐の補助でサイズの可変にも対応している!驚くべきは生地全体の縫合が均一かつ恐ろしく細かい点だ!魔法で編まれた、といっても信じてしまうよ!そして、上着の留め具!何度上げ下げしてもなめらかに動く、差し油も無しにだ!こんなものドワーフでも……」
急停止するカレブさん、そして焦った様子のアレクさんとシャーロットさん。残るアメリアちゃんを俺たちは首をかしげる。
「んんん、失礼。二人とも、この街は初めてだったね。一つ、アドバイスだ。『ドワーフでも作れない』これは、細やかな細工を褒める時の常套句なんだけど、決してドワーフ相手に聞かせてはいけないよ?彼らは自分たちの技術に誇りをもっているし、親戚の誰かしらは職人だ。身内を馬鹿にされることと同義なのさ。自分たちで言うときや、お酒がはいった時は笑いながら言うからややこしいんだけどね」
種族全体が頑固親父、ってとこか。NGワードのようなものを知れて良かった。
そこから、語りを再開しようとしたカレブさんを目線のみで止めるシャーロットさん。
苦笑しながら、アレクさんは革袋を持って俺たちの前にたった。
「ほほ、二人とも騒がしくてすまんの。ほれ、護衛料じゃ。本当に世話になったの」
「ええ、どういたしまして。………」
「…どうした?ナデシコ?」
ナデシコの革袋に伸ばした手が止まった。表情を見ると本人も困惑しているようだ。
「…これを受け取ったら、さよなら、よね」
ナデシコはぽつりと呟いた。漏れたような呟きだった。俺がなにか言うより、先に動いた影がある。シャーロットさんだ。
「ナデシコちゃん!もう!ほんとにかわいい!今日は、ううん、好きなだけウチに泊まりなさい!宿も決まってないでしょ!?」
「え!おねえちゃんたち泊まるの!?わーい!」
「ちょっと!?ねぇ!ヤマト!」
シャーロットさんはナデシコを抱きしめる。そこにアメリアちゃんも参戦する。
ナデシコは慌ててこちらに手を伸ばす。
「さすがシャーロット、いい考えだね。そうだろ、父さん」
「うむ、『祭りの日に知り合って気に入った若者を家に泊める』なんてのはよくある話、じゃったな。来客用の寝具も、もちろんあるぞい」
ツィンクさんの言葉を引用し、少し変えながらアレクさんも続く。
「…アレクさん。カレブさん。その申し出、すごく嬉しい。でも、これ以上は受け取れない。受け取る理由がない」
「ふむ。では、こういうのはどうかの。服屋は祭りの期間限定で宿屋をやろうと思う。食事付きでお客は限定二人での」
「急な話だね、父さん。でも、誰でもいいわけじゃない。アメリアと仲良しで、シャーロットのお気に入りで、僕たちの恩人。そんな人じゃ無きゃ嫌だよ?」
「……料金は護衛料と同じ額でいいか?」
「高すぎるわい。5分の1で宿屋の相場じゃ」
「5分の4、シャーロットさんのスープは宿屋じゃ食えない」
「む。4分の1。アメリアは寝る直前まで元気じゃ。静かに夜を過ごせるとは思わぬことじゃ」
「じゃあ、7分の6」
「増えとるではないか!」
「ははは、お客とお店の値上げと値切りが逆だよ。二人とも。うん、半額ということでいいね?父さん、ヤマトくん?」
「…うむ」
「わかった。と、いうことだナデシコ」
「…もう!わかった、わかった!降参よ、降参!お世話になります!」
「わーい!」
「はい、よろしくね。二人とも」
二人に抱きつかれたままのナデシコの降参宣言。
いつでも振り解けたはずの二人の背に、ナデシコはようやく手を回した。
「僕らもやるかい?」
「冗談は服に関してだけにしろ」
紳士的でいい人で終わらないカレブさんだった。




