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異世界快進劇 破顔一蹴 ヤマトナデシコ ~現実帰還のためなら、異世界の一つくらい救ってやろうじゃない~  作者: 沢クリム


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01.その背を追う

大和撫子ヤマトナデシコ、この言葉で思い浮かべるのは、どんな女性か。

その問いに、俺は自分の幼なじみの名前を挙げるだろう。


「マジで、ありえねー」


高校通学初日、近くの神社を集合場所に指定した幼なじみの顔を思い出しながら、俺、朱谷纏アケヤ・マトイは思わず呟いた。背中の通学用バックパックを背負い直し、ことの経緯を思い出す。

この地域では、境内の桜が名所にもなっている有名な神社だ。

指定した時間になっても来ないので、アプリで現在地を聞いたのが、10分前。見上げるような階段の先の本殿の写真と、手招きをするムカつくキャラのスタンプが送られてきたのがほぼ同時刻。

そして、今、最後の一段を登り切った。


(よし、さすがに文句だ。今日こそ常識と一般的体力を考慮した行動を取るようにあいつに……)


目の前の光景は、そんな直前の思考を忘れるには十分だった。

境内の桜の木から参道に舞い散る桜の花びら、その先に我が幼なじみ、異撫椎子イナデ・シイコは居た。俺は他に誰も居ない参道を歩きながら、その背を見る。長い黒髪は花びらとともに風に揺れる。華奢なのに不思議と存在感のある、そんな女の子だ。近くまで来ても、まだこちらを見ない。彼女は、本殿に向かい合掌をしてうつむいている。目を閉じているのに美人だとわかるほど、目鼻立ちは整い、プロポーションも高校入学前とは思えないほど、目を見張るものがある。神聖不可侵、そんな単語が浮かぶほど、この場を一枚の絵画に変えている。

やがて、その桜色の唇が開き、


「昨日マッチしたチーターのPCが爆発四散しますように」

「台無しだよ」


ツッコミせざるおえなかった。意思の強そうなつり目、赤にも近い茶色の瞳孔が、こちらに向く。


「なによ遅いわね。こっちは勉学成就やら、健康祈願してもアンタがこないから、追加課金してお祈りしてたとこなのに」

「遅れて悪かったな。それはそれとして、賽銭を課金扱いしてんじゃねぇよ」

「じゃあ、スパチャ?」

「悪化したな」


こんな女なのだ。立てば芍薬、座れば牡丹、歩く姿は百合の花。しかし、しゃべればサブカル、ネットミーム。


「それよりもうあんま時間ないわよ?せっかく来たんだし、さっさと参拝とやっときなさい。ヤマト」

「おう、集合場所の不備は、昼飯の時にじっくりな、ナデシコ」


ヤマトとナデシコ、俺たちのあだ名だ。由来は本名の短縮、小学校から変わらないし、ゲームの登録名もこっちだから、本名よりなじみがあるまである。冒頭の問いの答えが理由はこれだ。

財布から小銭を取り出し二礼二拍手一礼、


「高校では平穏無事に健康に過ごせますように…」

「……きこえますか… きこえますか… いまあなたの心に直接語りかけています…平穏は…無理です…」


そっかー、無理かー。

心というか、耳元から聞こえる声には応えず、冷や汗を流す。

ヤマトナデシコ、中学の頃、この名を知らぬものは居なかった。スポーツ校でもないのに、全ての部活動の団体競技が県大会進出。文化祭、体育祭の大規模化。果ては、近隣の高校生のヤンチャ共の撲滅。帰宅部なのに、放課後の予定が開いたことのない中学時代だった。詳しい話は機会があればするとしよう。


「さあ、高校も無遅刻無欠席狙ってるの。出発しましょう」

「待て、そっちは森なんだが?」

「ショートカットの練習は基本よ?ヤマトもしっかりスニーカー履いてるじゃない」

「騒動と運動とには、常に備えてる。お陰様でな。お前もずいぶん厳ついブーツじゃねぇか。」

「通学靴は運動靴と一緒に今日受け取りでしょ?つまり、今日は何を履いてもセーフ。ん?今、騒動って言った?」


言うまでもないが、騒動の九分九厘の原因がこの幼なじみである。そして、その騒動の数々を切り抜けてこれたのは、この見た目や雰囲気、人柄ももちろんあるのだが、最大の要因は、


「さあ、いくわよ!」


そう言うと、ナデシコはその場から、10m先の木の幹に飛び移った。

見間違いでも、勘違い、トリックでもない、使ったのは単純な身体能力である。

余談ではあるが、スパッツでは、サービスにならないことを強く訴えたい。


「仕方ねえ、な!」


そんな常識からズレた幼なじみと、日々遊び、ともに巻き込まれていくうちに、俺もいつの間にか少しだけ常識からズレてしまった。最も俺は助走あり且つ、パルクールよろしく途中の枝も使っての到達だが。


「やるじゃない、そう言えば春休み終わって身長も伸びたんじゃない?たぶん…」

「170」

「168センチ、あってるでしょ?私とちょうど10センチ差」


2センチのサバ読みくらい許してほしい。

俺の苦い表情に満足したように笑うと、眼下の桜を指さし宣う


「ねぇ、最高でしょ?この桜。ヤマトと見たいと思ってたのよ」

「ああ、そうだな、放課後は花見でもするか」

「決まりね!今日は部活動を蹂躙するのも我慢するわ!」


別の木の幹から幹へ飛び去っていく、時折こちらを見ては、付いてきているのを確認している。

俺は、その背中においていかれないようについて行く。桜の花びらを追い越して、ナデシコが一人にならないように。




後に、俺は思うのだ。ひょっとしたら、流されてやったこの罰当たりが、トラブルの引き金だったのかも、と。


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