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6話 甘い一時

 今日もまた、爆発音から一日が始まった。


 魔法陣を描き始めて早くも一カ月。


 朝の爆発音は、この屋敷にとって時報の鐘のような役割を果たしている。


 僕にとっては誇らしくもあり、同時に悩みの種でもあった。


 毎日、必ず爆発する。そう、必ずだ。魔導具についての新しい発想は泉のように湧き出てくる。


 魔法陣としての役目はしっかり果たす。描いた陣は使用人のミレーユに試してもらえば爆発はしない。


 でも、肝心の「自分で魔法を発動する」という夢だけは、一向に近づく気配を見せない。


 爆発してしまうと、それは魔法ではないから。


 机に突っ伏してうんうん唸る僕を見かねて、ミレーユが声をかけてきた。


「行き詰まっているのですか? でしたら気分転換が一番ですよ。いつもと違うことをしてみるのはいかがでしょう」


 顔を上げ、首をかしげる。

 ”いつもと違うこと?”


「例えば読書をしたり、魔導具以外のお勉強をしたり、お庭で花を眺めたり……あっ、そうです! 私と一緒にお菓子を作ってみませんか?」


 目が丸くなる。


 ”お菓子作り? 気分転換には良さそうだ。でも、僕にできるだろうか。”


「大丈夫ですよ、セイラス様は器用ですもの」


 にっこり微笑むミレーユ。迷いは吹き飛んだ。


 こうして挑戦することになったのはクッキー作り。いつも三時のおやつに出る、あの甘い菓子だ。


 脳を癒やし、疲れを和らげる優しい味。五歳の僕にとっては、午後の小さな栄養補給でもある。


 材料は館にそろっている。作り方もミレーユが丁寧に教えてくれる。手をきれいに洗い、白いエプロンを身につけて準備完了。


 "かかってこい、クッキー!"


 胸の内で叫び、意気込む。


 まずは材料を混ぜる。混ぜる……が、力加減がわからず粉がふわりと飛ぶ。


 くしゃみをこらえる僕の横で、ミレーユは滑らかにボウルを回し、優雅に混ぜ合わせる。まるで舞踏会の一幕のようだ。


 混ぜ終わった生地は、冷却用の魔導具へ。四半刻ほど冷やす必要があるらしい。


 砂時計の前に正座し、「まだか、まだか」と落ちる砂を凝視する僕。


 その様子にミレーユは思わず笑みをこぼした。


 やがて砂がすべて落ちると、待ちきれず生地を取り出す。軽く捏ね、棒で伸ばす。


「ここでのコツは――()()()()()()()()()()ですよ」

 ”なるほど!”


 薄く延ばしすぎて破けそうになる生地を、慌てて直す。五歳児には力加減はまだ難しい。


 型抜きで星や花の形を作り、熱する魔導具へ投入。タイマーをセットすれば、あとは焼き上がりを待つだけ。


 待っている間、ミレーユが魔導具の仕組みを説明してくれた。


「この魔導具を使えば、火を起こす必要もありません。一定の温度を保ってくれるので、とても便利なのです」


 ほどなく甘い香りが部屋を満たす。オーブンを開けると、黄金色に焼き上がったクッキーが顔をのぞかせた。思わず目を輝かせる僕。


 一枚を口に放り込み、ほろりと崩れる食感を楽しむ。


 バターの香りと甘さが口いっぱいに広がり、思わず頬がゆるむ。ミレーユが用意してくれた紅茶で喉を潤せば、至福のひとときだ。


 "ミレも座って。一緒に食べよう!"


 強引に椅子へ座らせ、二人だけの小さなティータイムが始まった。


 やがて窓の外に影が伸びる。

 "あっ、もうこんな時間だ。師匠が待ってる!"


 慌てて立ち上がる。

 "ありがとう、ミレ。いい気分転換になったよ。"


「それなら良かったです」


 彼女の微笑みは、甘いクッキーよりも温かく、柔らかかった。

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