3話 みんなは優しい
僕は五歳になった。
僕付きのメイド、ミレーユは陽気で優しいし、本館の使用人たちも悪くない。……でも、魔法のことだけは絶対に教えてくれない。
父上――アルドリックの命令で、八歳になるまで存在すら知っちゃダメってことになってるらしい。
でも僕はもう知ってる。だって書庫で「太古の魔法」なんて本を見つけちゃったから。
父上が慌てて魔法関係の本をどこかに隠したのは知ってるけど、運悪く(僕にとっては運良く)、地下のすみっこにあった分までは手が回らなかったらしい。
おかげで僕は、こっそり魔法の存在を知った。
しかも僕には声がない代わりに、魔力が妙に多いし、五感もやたら鋭い。
魔力なんて、気づいたら身体の中を勝手に走り回ってるし。これ、絶対才能だろ。
だったら――やるしかないよね? 本を片手に庭で願ってみた。庭には、たんぽぽなどの花が咲いているので放出方向には気をつける。
“われらに力を。われらを守る守り火を――”
……でも、なにも起きない。あれ? え、なんで? 願いが弱かった? 魔力が足りない? 扱いが下手? それとも……声?
本に意思を表せってよく書いてあったから声は必要ないと思ったのに。
もし声が必要なら僕アウトじゃん。
いや待てよ、それなら僕が最初の声ナシ魔法使いになるってのもアリじゃないかな? うん、ちょっとカッコいい。
だから僕は魔法使いの道を進むことにした。
◇
そんな魔法との出会いを思い出しつつ部屋へ戻る。
セイラスは"ただいま。ミレ"と紙に書いておいた文字を見せた。
だが目線は四角い台のままだ。そんなセイラスにミレーユは「おかえりなさいませ。セイラス様」と不思議そうに答えた。
セイラスは考えた、あの四角い台は魔法だと。きっと魔法を使っている。でもミレの魔力量に変化はない。
つまりミレは魔法を使っていないはず。なら、あれは誰が願い、誰の意思を表しているのか。
今まで毎日見ていたものへの見方が変わった。
そこでミレに聞いてみることにした。するとすんなりと教えてくれた。
父が魔法から自分を遠ざけている、と思っていたセイラスからすると拍子抜けした思いだ。それは魔導具というらしい。
魔力の宿ったインクでとても複雑な魔法陣を描き、大量の魔力を使って火を出すのだそうだ。
魔力は近くの魔力瓶に入っているものが使われ、父上が1週間に一度来て魔力を補充してくれるらしい。
だから魔力は減らなかったのかとセイラスは一人納得した。
そしてそれとなく、自分が魔法を避けられているにも関わらず、なぜ魔法陣について教えてくれたかを聞くと、魔力があり、学があるものならば、誰でも進める道で、セイラスの興味関心を引きそうなものだからだそうだ。
父上はよほど魔法を遠ざたいようだ。それはさておき、魔力と学のみで魔法を使えるのならそれについて勉強しようと思った。
でも今はミレが作ってくれたご飯が先だ!
"ミレいい匂いだね!今日はどんなご飯かな?"
と書いてカードを見せる
「いつも見せるならそのまま置いておいてはどうでしょうか?今日はセイラス様のお 好きな魚ですよ」
"イヤフゥー"
わざわざ変な言葉を書いたカードを出す主人を見て、やっぱりかわいいなというかをする。うん計算ドウリ。
僕は浮かれてなんかいないウン。
……で、その夜。別館の外に怪しい影が立ってた。
普段ならミレが即座に捕まえに行くはずなのに、その影の魔力を確認したとたん、ベッドに戻っちゃった。
なんだよ気になるじゃん。
まぁ、僕にも分かるけど。
翌朝目を覚ますと――僕の部屋いっぱいに本と魔導具が山積みされていた。思わず「うわぁ……」って顔になるレベルで。
犯人はやっぱり父上だ。魔力感知に異常なし!僕が魔導具に興味を持ったと聞いて、嬉々として夜のうちに運び込んだらしい。
やりすぎでしょ。
ま、でも……これで僕の新しい遊び道具が増えたってことだ。悪くないね。
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