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勇者のオレの妻が全員NTRれている件  作者: あんぜ


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第9話 クローサン回想 2

「あら? デカい女は趣味じゃない――とか言ってなかったかしら?」


 神殿を訪ねると、顔馴染みの()()()()()()()女が現れた。ディジエよりは背が低いはずだったが、ディジエは肩幅が狭く胸が薄く、そもそも線が細かった。が、この女は女らしさを強調する部分に見事なまでに脂肪が乗っている。おまけに()()を欠かさないためか、筋肉のバランスもいい。


「ま、さんざん自慢されていたからな。一度くらい味見しておくかと思ってな」

「寄付できるの? 昔とは比べ物にならないほどお高いわよ?」


「そこは知り合い価格にマケてくれ」

「まあいいわ。来なさい」



 ◇◇◇◇◇



「こ、こう、まじまじと見るとデカいな……」


 俺はそのデカい女と、神聖娼婦のために用意された豪華な部屋の、これまたデカいベッドの上へ座り、相対していた。女はいろいろと透けて見える紗の薄衣を羽織っているだけで、比べてこちらは未だ服を着たままだった。


「そうかしら? 腰はできるだけ細く仕上げてるんだけど」


 そう言って女は上半身を捻り、腰の細さを見せつける。


「いや、確かにそうだな、芸術的だとは思うわ。ただ、肩回りのボリュームは威圧感が凄い」


「いやなのよね、どうしても柔らかい肉が付きやすくて。ディジエみたいに脂肪が薄くて胸だけ付いてるのが汗ばまなくて楽なんだけど。――それで? いつになったら脱ぐの?」


 女は股の間に両手を着き、いくらか前屈みになって顔を覗き込むように問いかけてきた。

 体重の移動に合わせて脂肪もまた、前のめりになる。


「そういうことをしに来たんじゃなくてな――」


「ロスタルの事?」

「ああ」


「いいけれど、わざわざそのために寄付までして?」

「ああ、忙しそうだったからな。俺と話す時間は無さそうだったから」


「律儀なことね。ま、いいわ。時間延ばしてあげるから。それで? 何が聞きたい?」


 女は前屈みになっていた体を起こすとベッドの傍のワゴンに寄り、濁りのない葡萄酒を玻璃杯(グラス)に注ぎながらそう聞いてきた。


「ロスタルがな、お前が男に寝取られてるんじゃないかと言っていた」

「まあ、そうかもね。――はい、飲むでしょ?――もう少ししたら実際そうなると思うわ」


 俺は差し出された宝石色の酒を受け取る。貴族や金持ちが好んで飲む酒だ。色を楽しむためにわざわざ透明の玻璃杯が用いられるが、俺はこの高価な酒の渋みがあまり好きではなかった。


「お前……本当にそれでいいのか?」

「ふぅ……いいわよ、未練はない」


 ベッドの端に腰かけた彼女は葡萄酒を呷り、ひと息ついてそう言った。


「ロスタルに未練は無いというのか」

「ええ、あたし、やっぱりこのお役目が性に合っていると思うの。魔女としてのあたしを十分に活かせるし――」


「俺は魔女としての価値を聞いたんじゃなくて、ロスタルの妻としてどうしたいのかを聞いたつもりなんだが?」


 女は唇を嚙むと、頬に手をやり物思いにふけるような仕草を見せる。


「誰かさんと同じことを聞くのね。聞かれた方の気持ちがよくわかったわ」

「なんのことだかわからんが、そもそもどうしてロスタルと一緒になったのに神聖娼婦に戻った」


 グラスに残った葡萄酒を飲み干した彼女は――


「……それはロスタルの気持ちが変わったからよ」


 ――そう言って視線を逸らした。


「お前ではなくか?」


「……そう、あたしが変わったつもりは無いわ。ロスタルが変えてくれていただけなの」


「それならロスタルが今と変わればお前も元に戻ってくれるのか?」

「もう遅いわね。さっきも言ったでしょう? 年単位であたしを独占したいって人が居るのよ」


「どういうことだ!? ロスタルはどうなる?」

「屋敷にも帰らないわ。そういう契約で話が進んでるの」


 思わず俺は前のめりになる。


「バカな! お前はロスタルの妻だろ!?」

「ええ、でもあたしもそれでいいかなって思ってる」


 女は腕を組み、溜息を吐きながらそう言った。


「ロスタルが悲しむぞ」

「そうね」


「いくら優しいロスタルでも怒り狂うかもしれない」

「それも悪くないわね。魔女を討つ勇者――――惚れ直しちゃうかも」


「お前もディジエと似たようなことを言うんだな……」


「あの子は心の底からロスタルを愛しているわ。何を代償にしてもロスタルを守るつもりよ。あたしとは違う」


「無理なのか?」


「そうね…………」


 女は俯いた。

 昔から自信だけは無駄にあった女は、その余裕でロスタルを支えてきたが、今の彼女にはその自信は欠片も感じられなかった。デカい身体さえいくらか小さく見えた。



 しばしの沈黙を破ったのは彼女だった。


「――そうだ、せっかくだし祝福も受けて行かない? 頑張っちゃうわよ」

「要らねえよ、お前の憂さ晴らしにされたくない」


「そうよね、タダでもやらなかったもんね、あんた」

「俺は俺より背が高い女はゴメンだ」


「昔、ちょっとからかっただけなのに、ロスタルは嫉妬してたわよね。ふふふっ」

「ああ、あいつの独占欲には驚く。オレの専属だぞ!――ってな。あいつがあれだけ声を荒げたところはついぞ見たことない!」



「うん…………そんなところがよかったのになあ…………」


 目の前のデカい女は、少女のような瞳をしてそう言った。








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