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エピローグ

「ねえ、村に行商人が来たみたいなんだけど、手紙を預かってきたって。クローちゃんに」


「そうか。差出人は?」


 ――まあ、俺に手紙を寄越してくる奴なんざ、思い浮かぶのは一人しか居ないが。


「えっと……ヴァリエ……さん? 女の人??」

「なにっ!?」


 ヴァリエというとあの『ハイドイン』の新人給仕しか思い浮かばなかった。手紙だって安くはない。給仕にそう払えるようなものとも思えないし、どういうことだか理解できない。


「――とりあえず礼金を渡してやってくれ」

「いい……けど……あとで説明してよね」


 ちょっと不機嫌なマリ。


 刺激らしい刺激の無い山間の村で、給仕の寄越したという手紙は興味深かった。

 封筒の蓋を開け、丸まった羊皮紙を引っ張り出し広げた途端、親友の悪戯だったことを理解してほくそ笑む。そこには四人それぞれの言葉と、あの給仕からの短いお礼が書かれていたからだ。すぐにマリを呼んで手紙を見せ、納得してもらった。



 ――クローサン、今回の件では本当に世話になった。ハイトリンも含め、全て元通りだ。いや、元通り以上だ。ただし、お前の置き土産を除いてな……というのは冗談で、ヴァリエはもうオレの家族だ。最後まで反対していたディジエも、ヴァリエが天涯孤独の身と知った途端、抱きしめていたよ。


 しかしお前も他人の家へ入るための合言葉を気軽に誰にでも教えるな。ハイトリンが屋敷を守るために掛けてあった魔法を掛けなおす羽目になったと怒っていたぞ。まあ、元々はオレが悪いんだが。


 妻たちとはうまくやっている。お陰様でな。この手紙も同じ羊皮紙に書く以上は妻たちに見られているわけだが、一応、妻たちとのことを伝えておく。



 ディジエは全てを打ち明けてくれた。お前にも協力させたそうだな。まったく、浮気の根拠を告げられた時には心臓が止まるかと思ったぞ。

 お前との約束を果たした夜、彼女は何度も何度も、それこそ可哀そうになるくらいに謝ってくれた。乱暴を働いたこちらこそが謝らないといけないと言うのに……。


 ディジエは相変わらず背が高いことを気にしているうえ、最近は可愛く見られたいという欲求を隠さなくなってきた。ときどきおかしな言葉遣いをしてみせたり、甘え方が少し恥ずかしかったりもするが、そんなことをしなくてもオレにはありのままのディジエこそが可愛い。何より彼女の長い手足と体に浮かぶ骨と筋の流れが好きなんだ――。



「惚気てんじゃねぇよ」――そう言いつつも頬が緩んで締まらない。


 そしてそのロスタルの言葉の傍には――恥ずかしいことを書かないでください!――と、美しい文字で添え書きがあった。そう言いつつも文字をナイフで削り落としていない所を見ると、ディジエもまんざらではないのだろう。



 ――バレッタのことは、神聖娼婦の仕事をお役目と考えることで彼女を尊重していたつもりが、いつの間にかそれを言い訳に彼女のことを突き放してしまっていたようだ。お前の言った通りだった。そしてそれは彼女も同じ思いだったと教えてくれた。


 今ではお互いに愛の言葉を囁き合うことが日常となった。よく考えたらオレは祝福として交わっている間はその言葉を控えていたように思うし、彼女も本心から口にしたことは無かったと言う。不思議なことに、激しさよりも、そういった言葉を交わし合いながらゆっくりと交わり合う方がオレたちには合っているのだと判明した――。



「判明した――じゃねんだわ。これ全員分読まされるのか?」


 おまけにロスタルのその言葉に重ねるように、キスマークが付いていた。バレッタは体も心も主張が強すぎて、(はた)で見ていて胃もたれがする。やっぱりマリくらいがいい。



 ――ハイトリンについてはディジエとバレッタの協力で、再びかつての彼女を取り戻すことができた。けれど彼女がああいう行動を取るに至った思いは大事にしてやりたい。彼女もまたオレが愛した妻なのだ。


 ちなみにだが、ハイトリンは実に研究熱心だ。もともとこういったところが天才たる所以なのかもしれない。モノの形が何故こうなっているのか調べると言ってまじまじと観察されたり、毎回微妙に入れる角度を変えさせられて結果を記録したりしている。確かに上達はしているようだが、時には何も考えずにお互いの温もりを感じて欲しくもある。だから時々オレは彼女を捕らえ、抱きしめて、そのまま長い間じっとしている――。



「生々しいことを手紙に書くんじゃねえよ」


 ディジエの字で――クローサン、お恥ずかしい限りです。申し訳ありません!――と添えてあった。まあ、ハイトリン本人は気にもするまい。



 ――お前の送り込んでくれた第四の刺客はなかなかに奔放で、他の三人を――お姉さま方――などと呼び、――お手伝いできることはございませんか?――とか言いながら勝手に寝屋に忍び込んで混じってくるのだ。これには流石のオレも面食らった。今までふたりだけの秘め事だと思っていたものが、第三者に見られると恥ずかしくてたまらない。文句を言うとだいたい皆笑うんだが、オレは間違ってないよな?――。



「ハッハッハ……………………アホか」


 ロスタルの欠点はあの女に対する貪欲さにあると改めて俺は思った。ただ思えばあの三人は、自分たちを(しがらみ)から解放してくれる、そんなロスタルの貪欲さに惚れていたのかもしれない。だからやつ本来の優しさが貪欲さを抑え込んでしまったことでバレッタは愛想をつかし、ハイトリンは離れていき、ディジエはふたりと競い合う必要がなくなって自分を抑え込んでしまった――そんなところだったのではないかと思う。


 とにかく、四人が仲良くやっているとわかってホッとした。


 俺はあいつらが好きだ。強者の余裕とでもいうのだろうか。見ていて安心する。だからこそ、搦め手であいつらを貶めようとするような連中は好かん。本人たちには口が裂けても言えんが、ハーレム税騒動の際に裏で暗躍していた有力な貴族どもにこの世からご退場いただいたりしたこともある。



 俺は続きを読み進めた。



 ディジエからの内容は、自身の過ちの告白と俺に対する感謝の言葉が几帳面な文字と文体で記されていた。ただ――


『クローサン、わたくしはひとつだけ怒っています。確かにわたくしはあなたに、ロスタルの勘違いをそのままにしておいてとは頼みました。……が、その根拠として、口元に――――などという破廉恥な嘘を持ち出すのは余りに余りではございませんか!』


 ナイフで削ってあったが、まあ、縮れ毛のことだろうなとは思った。

 その後もそのことに対し、小さな字でたくさん小言が書かれていた。余程、気に障ったのだろうが、それなら男に寝取られてるなんて嘘をそもそも通そうとするなと言いたい。



 バレッタからはロスタルに対する甘い甘い言葉が連ねてあった。いや、本人に言えし。ロスタルも読んだのだろうが、五人して見せつけやがって……。更に書かれていたのは――


『あたしを買ったことはマリさんには秘密にしておいてあげる』


 いやおい……十分余計なことを書いてるじゃねぇか! どうしてくれんだこれ!

 俺は今からマリをなだめる言葉を考えなくてはいけなくなった。



 ハイトリンからは――


『なんか知らんけど世話になったみたい。あんがと』


 ――とだけ、雑な礼の言葉が書かれていた。まだヴァリエからの礼の方が長いぞ。

 そして余りに余った彼女のための余白には、ロスタルからの今のハイトリンに起こった事への注釈が書かれていた。それに依ると、どうやら今のハイトリンは少し前までのハイトリンとは違うらしい。ロスタルもよくわかってなさそうだが、ハイトリン本人の魔術で過去のハイトリンに戻ったのだそうだ。相変わらずのチート娘だ。



 あのヴァリエという新人給仕は、吟遊詩人の真似事をしたり、剣士の真似事をして独り各地を旅してまわっていたそうだが、いよいよ路銀が尽きて路地裏で死にかけていた所を『ハイドイン』の主人に拾われたのだそうだ。そこまでの人生はともかく、偶然にもロスタルに出会って勇者ジョークでそのまま第四夫人の座に就くとは、何とも運のいい娘だと思った。


 まあそれはいいんだが、この雑に消されている品評会ってなんだ? 『股』? 『下』? にしか見えん…………。とにかく、それを経て三人にも()()されたらしい。



 手紙を読み終え、てきぱきと羊皮紙を丸め、封筒に突っ込もうとしたが、マリに制止された。



 ◇◇◇◇◇



 夜、マリに馬乗りになられた俺は、ロスタルからの手紙について問いただされた。てっきり俺がバレッタを買ったことに文句を言われるのかと思ったが――いや、もちろんそれも問いただされたのだが――それよりもロスタルと妻たちのことについて問いただされた。加えて俺の下半身にまで問いただされた。


 聖国で静かに育ったお前にあんな刺激の強い手紙を見せるんじゃなかったと、今更ながら後悔したが、マリはあの手紙を譲って欲しいとまで懇願してきた。勇者ロスタルは一行の誰かと結婚したようにマリは勘違いしていたからな。まさか三人と結婚したとは言い出せなかった。


 夜な夜なマリはあの手紙を読み(ふけ)り、勇者ロスタルの屋敷でどのような酒池肉林が行われているのかと期待に胸を膨らませ、王都へ遊びに行く日を楽しみにするようになった――なってしまった。


『ぜひ二人で遊びに来てくれ、歓迎する。妻たちも楽しみにしている』


 手紙の最後に、余計な言葉を書いてくれたもんだと俺は溜息をついた。




 勇者のオレの妻が全員NTRれている件 完








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