天へ上る願いの果て
女がいた。幼い天と地の認識もあいまいな頃から、ある思いを抱いていた。
「天国へ行きたい」
どんな天国を想像しているのか、と周りが聞くと、首を傾げて横に振るので、他愛ない冗談だと笑われた。それでその内、その願いは口にしなくなった。
女は大人になり、仕事を持ち、好きな人と出会って共に暮らすようになった。何不自由ないと迄ではないが、生活は幸福そのものだった。
その日、車を一人、運転していた時、
「天国へ行きたい」
口から言葉が飛び出た。
女は路肩に車を止めると、頭上を見上げた。
今にも雨が降ってきそうな曇天であった。風が吹きすさび、目の前に広がる荒れ野の枯れ草を次々と舞い上がらせていた。
女は正面を向いた。荒れ野の向こうには人気のない、空と地上が続いている。
足取りに迷いはなかった。草が頬を切ろうと、石が脚を突き刺そうと、女はどこまでも野を進み、消えた。