第101話「空母再建 —」
昭和20年(1945年)4月4日 呉軍港・天翔部隊各空母
呉軍港の空母甲板上には、次々と零式艦上戦闘機五二型が着艦していた。
着艦誘導員が腕を振り、甲高いブレーキ音を響かせながら機体が停止する。
龍鳳、隼鷹、飛鷹──
各艦の飛行甲板は、久方ぶりに「艦載戦闘機の再集結」という光景を取り戻していた。
寄せ集めではない、熟練の集結だった。
横須賀航空隊
大村航空隊
厚木航空隊
鹿屋航空隊
鹿児島航空隊
――各地の基地航空戦闘隊から、今なお健在だったベテラン操縦士たちが集められていた。
龍鳳甲板脇で、数名の搭乗員たちがヘルメットを脱いで互いに顔を見合わせる。
「おい、井上じゃないか……。生きてたのか」
「こっちの台詞だよ、鈴木。大村が空襲受けなかったおかげでな……」
「厚木もな……。こっちはB-29相手に飛び回るはずだったのに、甘味だか砂糖玉だかのおかげで、こっちに回されたぜ。」
「あの現象さまさまだな。まさか空母で出撃する日がもう一度来るとはな……」
誰もが内心、高揚と緊張を隠しきれずにいた。
艦載整備兵たちも静かに忙しく動いていた。
機体はすべて徹底的に整備され、可能な限りの性能維持が図られていた。
老朽機体が多いが、搭乗員の腕だけは健在だった。
「今回の役目は直掩だけだ。攻撃には出さん。敵艦載機の迎撃に徹する」
草鹿龍之介中将の命令は既に全隊に通達されている。
「だが、空母の上で飛べる──それだけで十分だ」
ある隊員が小さく呟いた。
厚木から転属してきた若い小隊長が隊員たちを集める。
「──諸君。敵は米海軍機動部隊、グラマンどもだ。」
「空母の上で、再び正規の空戦ができる。これは我々戦闘機乗りに残された最後の戦場かもしれん。」
「だが──我々は特攻ではない。まだ本来の空戦が残っている。敵機動部隊を上空で阻むのが任務だ。」
静かな拍手が小さく広がった。
死地へではない──生きた技量を試せる場所へ進む。
彼らの背筋は自然と伸びていた。




