第100話 「天翔部隊発令 — 出撃前夜」
昭和20年(1945年)4月3日午後 呉軍港・連合艦隊司令部地下会議室
重苦しい静寂の中、会議室に並ぶ幕僚たちの視線が一点に集まっていた。
作戦参謀が、静かに編成命令文を読み上げ始めた。
「沖縄方面反撃水上部隊 出撃計画」
──通称「天翔部隊」──
第一戦隊(主力戦艦群)
戦艦 大和(旗艦)
戦艦 長門
戦艦 榛名
第二機動戦隊(空母群)
軽空母 龍鳳
軽空母 隼鷹
軽空母 飛鷹
第三巡洋戦隊
重巡洋艦 利根
重巡洋艦 筑摩
軽巡洋艦 矢矧
軽巡洋艦 大淀
第四駆逐戦隊(直衛群)
駆逐艦 秋月・冬月・涼月・宵月・初月・霜月
駆逐艦 磯風・浜風・雪風・霞・陽炎・不知火
艦載航空隊配備
本作戦において空母搭載機はすべて直掩戦闘機のみとする
配備機種:零式艦上戦闘機 五二型、局地戦闘機 紫電二一型(使用可能分)
攻撃機・雷撃機は一切搭載せず。支援攻撃機は全て陸上より運用に固定する。
指揮系統
天翔部隊総司令官:伊藤整一中将(大和座乗)
航空運用総監督:草鹿龍之介中将(機動部隊同行旗艦:龍鳳予定)
連合艦隊統括司令長官:小沢治三郎中将(呉在地統括)
作戦目的:
沖縄方面展開中の米艦隊打撃群に対する水上艦隊集中打撃
菊水作戦参加航空攻撃と連携し、敵艦隊戦力の段階的削減を図る
出撃予定時刻:
昭和20年4月6日夜間 呉軍港出撃
読み上げが終わった。
場内に重い沈黙が流れる。
草鹿龍之介が静かに口を開いた。
「──航空機はただ護るためにのみ飛ばす。攻撃は水上砲雷戦に全てを託す。」
伊藤整一中将はゆっくりと頷いた。
「……敵艦隊に肉薄し、砲雷戦の間合いに持ち込む。これが本作戦の核心である。」
「各員、準備を整えよ。」
静かな決意だけが、会議室に満ちていた。
同刻・呉軍港上空
整然と並ぶ巨艦群が、夕暮れの薄紅に染まり始めていた。
天翔部隊は、今まさに静かに出撃の刻を待っていた。
この艦隊出撃の行く先に何が待ち受けるのか、運命の歯車は確実に回り始めている。




