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甘味戦線 -SWEET FRONT-  作者: トシユキ
新たなる局面
93/133

95話「残存する陣地 —」


昭和20年(1945年)4月1日午後 沖縄本島沖 米第五艦隊旗艦フィラデルフィア


沖縄沖合。

フィラデルフィア艦橋上の作戦卓には新たな戦況報告が並べられていた。


「第6海兵師団先鋒、中部丘陵を越えつつあり──」


「だが依然として背後の沿岸トーチカ数箇所より継続射撃あり!」


通信士が報告する。


「第一突入班より──制圧砲火により陣地は突破済み。だが後方トーチカから再度射撃発生」


ミッチャー中将は眉を寄せた。


「背後のトーチカが機能している? 一度突破した箇所だぞ?」


「その通りです。現在トーチカ陣地を超え、さらに前進中のはず」


幕僚が静かに補足した。


「ロケット砲、手榴弾、で破壊行動済み。しかし──」


「──陣地構造物が物理的に崩壊しない模様です」


沈黙が流れた。

艦上に響くのは遠方戦艦群の重砲射撃音だけだった。


ズドォォォン──


「敵が再構築しているのか?」


「硫黄島の資料にあった地下陣地が張り巡らせてあるはずだ、これはやっかいだぞ、敵がどこからでも湧いて出てくる可能性がある」


「トーチカ自体も……構造が異常に強固なのか──現時点では判別困難」


ミッチャー中将はゆっくりと作戦卓を見渡し、命じた。


「ならば全滅させろ。しらみつぶしだ!」


「海兵隊へ伝達──沿岸陣地完全掃討まで前進停止。

どんなに時間がかかろうと、全て潰してから進め。」


前線・日本軍陣地


その頃、なおも白い粉が舞う沿岸トーチカ内部。

日本兵たちは、何故か撃たれても倒れぬまま淡々と機関銃を撃ち続けていた。


谷口中尉が機関銃手に声を掛ける。


「敵、再接近──射撃継続!」


「弾薬残量──あと二帯です!」


淡々と機関銃が唸り、浜辺へ弾幕を送り続ける。


谷口中尉も、この不気味なまでに延命する状況を未だ理解できていなかった。


(なぜ……まだ我々はここに生き残っている?)


(これほどの艦砲と爆撃を受けて、なお陣地が崩壊しないとは──)


だが敵は目前に迫り続けていた。


戦闘はなお終わらなかった。

谷口の足元に、敵に投げ込まれた手りゅう弾らしき物の破片が無数に転がっていた…

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