第94話「管制の海 —」
昭和20年(1945年)4月1日午後 沖縄本島沖 米第五艦隊旗艦フィラデルフィア
沖縄本島西方40キロ。
旗艦「フィラデルフィア」艦橋上では、作戦幕僚たちが次々と無線報告を受け続けていた。
「第6海兵師団第一波、浜頭制圧完了に近づきつつあります。敵銃火減衰中──」
「第三波揚陸順調。上陸艇被害小。」
オペレーターが冷静に読み上げる報告に、指揮官のミッチャー中将は短く頷く。
「よし……だが油断はするな。支援砲撃班、次の依頼区画は?」
通信将校が即座に応答する。
「第三歩兵連隊より要請──内陸丘陵区画、座標デルタ34-12、迫撃砲火力集中要請」
ミッチャーが即答した。
「戦艦ネバダ、指定座標へ徹甲斉射用意」
無線士が連絡を入れ、遠方で戦艦ネバダの砲塔がゆっくり旋回を始める。
「主砲射角セット──発射準備完了!」
ズドォォォン──!
低く重厚な発射音が海を震わせ、砲煙が空に漂った。
艦上管制
その間にも、上空管制士官が連続して空母部隊との連携を取っていた。
「CV-9 エセックス、戦闘機第2波進入開始」
「CV-10 ヨークタウン、補充機群編成完了。10分後離艦予定」
沖合20キロの巨大な艦隊航空母艦群では、
次々とF6Fヘルキャット、SB2Cヘルダイバー、TBFアヴェンジャーらがカタパルトから射出されていく。
轟音と共に次々と離艦する機体の列──
艦上整備班が連続で甲板へ新たな機を送り込み、回転は止まらない。
「前線空域維持、CAP(戦闘空中哨戒)第3群編入完了」
「損耗機2機帰還、着艦成功──燃料補充開始」
まさに緻密な機械仕掛けのように米海軍の巨大攻撃機構は回り続けていた。
作戦卓
幕僚が改めて状況報告する。
「ビーチ正面、大半制圧完了。ただし一部トーチカ群にて激戦継続中」
ミッチャー中将は静かに頷いた。
「突入班が食い付いたな……だが全体では順調だ」
「はい。敵陣奥深くへの進撃は翌日以降に移行予定。」
沖縄西方海域。
青く静かな海面の下で、巨大な殺戮機構が寸分の乱れもなく作動し続けていた──。




