第91話「沖縄上陸 — 激戦の浜」
昭和20年(1945年)4月1日午後 沖縄本島西岸某ビーチ 米第6海兵師団第一波上陸隊
沖縄西海岸──
灰色の波間を、数百隻の揚陸艇が突き進んでいた。
LCVPの船首が、浜辺へまっすぐ突進する。
「着岸まであと五分!」
操縦手が叫ぶ中、揺れる船内で兵士たちは黙然と身を縮めていた。
ドゴォォン──!
背後では戦艦と巡洋艦の主砲がなおも火を吹き、巨大な衝撃波が海面を震わせていた。
さらにその後方からは無数のロケット弾が発射され、白い煙の帯が空を貫いていく。
甲高い金属音と振動が兵士の腹を揺さぶる。
「よし……行くぞ……!」
中隊長のリチャード・アンダーソン大尉は、小声で部下に声を掛けた。
目前の浜辺には爆煙が立ち込めている──
が、敵の砲弾が着弾する様子は奇妙なほどに少なかった。
着岸
「ランプ下げッ!」
ドンッと鈍い音を立て、船首ランプが降りた。
「Go!Go!Go!」
アンダーソン大尉が先頭で浜に飛び出す。
膝下まで埋まる砂浜を踏みしめ、一斉に海兵たちが走り出す。
その瞬間──
ダダダダダダダダ!!
砂浜背後のコンクリートトーチカから激しい機関銃射撃が始まった。
九七式重機が正確無比に浜辺の突進兵たちを掃射する。
「スプレッド射撃だ! 横に散れ!」
アンダーソン大尉が叫ぶが、既に数名の兵士が撃たれて倒れていく。
「コービンがやられたぞ!」
「救護班は後続! 前進続行だッ!」
兵士たちは銃声と爆音の中、次々と防波堤方向へ駆け込んでいく。
「前へ! 前へだッ!!」
アンダーソン大尉は叫び続けた。
負傷した兵士が呻きながら砂地にもがき倒れる中、それでも突進は止めない。
「伏せるな! 止まるな!」
背後からはなおも艦砲が唸り、ロケット弾の曳光が斜め後方の丘陵に突き刺さっていく。
その爆煙が視界を霞ませた。
(くそ……奴ら結構生き残ってやがる……)
丘陵の上では、なおも日本兵たちの機関銃と小銃火が断続的に撃ち下ろしてくる。
銃弾が海兵隊員たちの周囲の砂を跳ね上げ、跳弾音が混じった。
それでもアンダーソン大尉は止まらなかった。
「進め!! 今突破しなきゃ全滅だ!」
この浜辺では、いま確かに戦端が開かれたのだ。




